第20話 どうしようもなく、子供だ


「……スドって、やっぱ大人っぽいね」

「は……? 何だよ……いきなり」


「だって、こうゆう話乗ってくれるし……ほら、私……さ、スドに酷いことしたじゃん」


 そうやってどこか気を遣うように視線を向けてくる依代。


 確認するまでもなく、それは俺を振った時のことを言ってるのだろう。


「……そうか?」

「うん……あ」


 そんな縋るような依代に視線に、戸惑いを感じた俺はすっとぼけるようにそう声を上げる。すると、依代が俺の言葉に何かを返そうとした瞬間、部活終了を知らさせるチャイムが鳴り響いた。


 その直後、部室の外に誰かの影が見えた。


「……伊色?」

「え? 悠香?」


 俺がそう呟くと、依代が驚いたように声を上げながら扉の外へと視線を向ける。


 同時にそこに見知った影が立っていたことに気付き、少し駆け足気味に扉へと近付いていく。


 そして、依代が扉が開くと―伊色が姿を現した。


「悠香……。先生の用事終わったの?」

「……うん、終わったよ」


 俺はどこかほっとしたように感じ、咄嗟にため息を吐く。


 そして、荷物を肩に掛けると帰宅するべくその横を通り過ぎしようとする。


「……ありがと」

「……」


 そんな言葉につい足を止めてしまう。


 何に対しての言葉かなんて、別にどうでも良いだろ。


 意味なんてどうせ大したことじゃない。


 それでも俺は、愚かにも足を止めた。


 傷付くことが分かってるくせに……元カノの言葉なんてただ傷をえぐるだけだって分かってるのに。


 だけど俺は声を上げた依代達の方に視線を向けるしかなかった。


 そうしなければいけないと……俺の弱さを認めるように。


 すると、そこには純粋な目で俺に微笑み掛けて来る依代と、痛みを我慢するように顔をしかめる伊色の姿があった。


 俺はそんな二人を見た後、視線を背けながら依代の言葉に返していく。


「……なんだよ、感謝されるようなことはしてないが?」

「ううん、スドのおかげで手芸やれたし……部員、集まらなかったから」

「……幽霊部員は俺にも都合が良いんだよ」


「あはは、そういうことを平気で言えるってダサいけどカッコイイかも」

「……うっせ」


 やめろ、俺はお前が言うような大人なんかじゃない。


 それでも、今度は同調するように伊色まで声を上げてくる。


「そうだね……。もし、須藤くんが入部してくれなかったら本当に大変だった。ありがとう」

「別に……気まぐれだしな」


 この関係が壊れるのが怖くて何もできない奴が大人なわけがないだろ。


 ワガママで、自分勝手で、一人では何もできなくて、壁を乗り越えることもできなくて、自分の言いたいことも全部自分の中にしまい込んでしまう俺は―


「……んじゃ」

「また明日」

「うん。じゃあね、スド」


 そんな俺は―どうしようもなく、子供だ。

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