第3話 『都合のいいトモダチ』

 それでも、残念なことに元カノ二人とクラスが一緒な現実には変わりはない。


(……まあ、中学の時と同じで関わらなければ良いだけの話だ。……それがあいつらの求めることだったんだしな)


 入学初日の下校時間、俺は深いため息を吐きながら教室の窓へと視線を向けると、教室から見えた桜の木が少しだけ荒んだ俺の心を癒してくれる。


 いつかだか、伊色や依代と出会った時に思いを一瞬思いを馳せそうになるものの、俺はそれをやめて再び大きくため息を吐くと、桜の木を眺めながら頬を付いた。


(……あいつらがどう考えてようが、俺には関係ない。……向こうにとって俺が迷惑だってんなら、一年くらい我慢してやるよ)


 初日から好奇の目で晒されてしまい、周囲から浮いてしまった所為で特に親しい人間もできなかったが……それは仕方あるまい。


 それに、ここの高校は近所から入ってきた奴らが多いらしく、すでに交友関係が出来上がった状態だった為、その中に入るというのはなかなかに難しいものだ。


(まあ、おいおい友人くらいできるだろ……あれ? そもそも俺、中学時代の友人って一人しか居なくね?)


 家に帰ろうとまだ慣れない鞄を片手に持った瞬間、衝撃の事実に気付いた。いや、もっと早く気付くべきだろうけど。


「ん……?」


 少しばかり友人作りについてガチで悩んでいると、ふと俺の視線の先に目に入ってくる奴らが居た。……言うまでもなく、元カノの二人だ。


 俺の方に視線をチラチラと向けながら話す依代に対し、伊色の方はなるべく俺の方に視線を向けないように努力しているようだった。


(……依代の奴、もう少し伊色みたいに誤魔化せないのか)


 呆れた視線を向けると、今さら俺の視線に気付いたのか急いで視線を向け始める依代。……下手にもほどがあるだろ。


(……まあ、良いか。……あいつらとはもう関係無いんだし―)


 同じクラスに居ながら完全に関わりをやめるというのは難しいが、それでもできないわけではないだろう。


 俺がそのまま帰ろうと鞄を持って伊色の座っていた席を通り過ぎようとした瞬間だった―


「―須藤くん」

「……は?」


 その声は間違うことなどない。


 人生で初めて付き合った女性で、俺とは程遠い場所にいたはずの別次元に住む女性。


 恨まなかった、と言えば嘘になる。


 だが、その声をもう一度自分に向けられたことは、俺にとって何よりも驚くべきことだった。


 そして、そいつは言った。


 かつての恋人でも、彼氏でも、大事だった人間でもない―『都合のいいトモダチ』の俺に向けて。


 俺が好きになったその声、その顔で―泣きそうな表情で、伊色は言ったんだ。


「私達を―助けてくれない?」

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