第7話
(私は、ただ……モブになりたかっただけなのに……ヒロインポジションなんて、全く望んでもいなかったし、誰かこの状況の説明をお願いします!)
完全にヒロインの位置に居る自分を認めたくなくて、オフィーリアは涙目でアンドリューの事を見た。すると彼は思ったよりも近くに居て、流れるように手を取り歩き出す。
「ごめんね。こうして迎えに来るのが思ったよりも、遅くなってしまった。どうしても……政治的な問題で、アリアナから君へと婚約者を代えてもらうには、こうするしかなかったんだ」
「えっ……でもでも……私たち、一回しか話したこと……」
二人は騒がしい大広間を出て、王族のみが使用することの出来る貴賓室へと進み、アンドリューに従うしかないオフィーリアはそうすることが当たり前のように彼にエスコートされて大きなソファへと導かれた。
(そうよ。絶対に絶対に、おかしい。アリアナ様は置いておいて、ヒロインのエリーゼ様はどうなったの!?)
王太子アンドリューが男爵令嬢のエリーゼを特別扱いしていたことは、周知の事実だった。
全年齢作品のために、恋愛を主題とした乙女ゲームとはいえ、そういった描写は健全な範疇なものだが、二人で仲良さそうに楽しそうに話をしている場面もオフィーリアは何度も目撃していた。
だから、ヒロインエリーゼはアンドリュールートで間違いないと確信していた。
にっこりと微笑むアンドリューはオフィーリアが彼から何かを言い出すのを待っているのを知りつつも、何故かお付きの侍従が粛々とお茶を出し退室して去ってしまうまで何の言葉も発さなかった。
「……そう。色々と……ややこしい事情があってね。どんなに僕が焦がれようが、君に近づくことは今まで叶わなかったんだ。でなければ、父は弟のエリオットに跡を継がせると脅して来たからね」
彼の話の繋がりがよくわからずに、オフィーリアは出されたお茶にも手をつけずに眉を顰めた。
「エリオット様に……?」
「まあ……君の泣き顔が、あまりに可愛くてね。僕のファーストキスを捧げてしまうことになったんだが、あの時既に決まっていた婚約者アリアナの父親は君の父親の政敵だ。それは、理解しているよね?」
それは、オフィーリアにとってはもう朧げな記憶の中の出来事でしかなかった。彼の唇に軽く触れただけの、何でもないおままごとのようなキスだった。
(ファーストキスを捧げる? 待って……もしかして……)
オフィーリアは嫌な汗が身体中から噴き出すのを、感じた。
乙女ゲームの「ファーストキスの味を知らない」では、各ヒーローそれぞれにキスには特別な意味があって、メインヒーローのアンドリューと彼の弟エリオットのキスの意味は、確かとんでもないものだった。
彼はメインヒーローであったために特に難易度が低く、初回であっさりとクリアしてしまったために細かいゲーム内容をすっかり忘れてしまっていた。
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