第四話 勇者マリー・プライド、ダンジョンへ突入ッッ!!

 ここは株式会社ザーマッ!


かつてはごく普通のブラック企業であったが、傲慢勇者マリー・プライドに支配されザーマ社の安寧の時代は終わりを迎えたのだったッ!




「下僕たちを働かせながら飲む紅茶は格別ですわッ! おーっほほほッッ!!」




 簒奪した社長デスクの上でくつろぐ、「おれんじ」と書かれた段ボールにもたれかかる勇者マリー・プライド。


そんな彼女の隣に居るのは哀れな社畜、オサム・タナカであったッ!




「そもそも一体どうやって、社長のキャリアを奪ったんだ……」




「その程度の事ッ! 勇者パワーを駆使すれば造作もありませんことよッ!」




「ゆうしゃのちからってすげー」




 ドヤ顔で勇者の力を誇示するマリー・プライドに相槌を打つオサム・タナカッ!




「というか社長も何かしごとしてよ…… 一応社長なんだから……」




「はぁッッ!? なぜこの勇者兼社長のマリー・プライドが下僕と肩を並べて労働しなくてはいけませんのッッ!?」




「だって……会社というのはそういうもんだし……」




 前社長の時は意見も言えなかったオサム・タナカであったが、別にこれは彼が成長したわけではないッ!


現社長のマリー・プライドの事を突然預かる事になった親戚のクソガキと同等の認識をしているだけに過ぎないからであるッッ!!




「仕方ありませんわねッ! こんな事もあろうかと、小銭を自分で稼いできたのですわッッ!!」




そう言うと、マリー・プライドはゴールドの入った財布を5個くらいデスクの上にぶちまけたッ!




「おぉ! ちゃんと自分でお金稼げるじゃないか!」




「もっと讃えても良いのですわよッ! おーっほほほッッ!!」




 しかし、オサム・タナカは不自然な点に気が付いたッ!


何故、財布を複数も所持する必要があるのだろうかとッッ!!




「ところで…… 一体どんな仕事をしてたんだ……?」




「ちょいとばかし賊を懲らしめて、そいつらの懐から拝借したのですわッッ!! 治安維持にも貢献出来て一石二鳥ですわッッ!!」




「賊って…… ここ街中なんだけど……」




 オサム・タナカはさらに問うッ!




「その賊ってどこにいた奴等……?」




「裏路地とかを歩いていれば、普通にエンカウントしますわッ! 『ちょっと俺達、お金に困ってんだよね~?』とか言ってきて金を奪おうとしてきたからまごう事なき賊ですわッッ!!」




「それ、カツアゲしてるチンピラじゃん」




 カツアゲは立派な恐喝罪、犯罪行為であり、彼等自身が理不尽な目に遭うのも自業自得であるが、傲慢勇者マリー・プライドがしていることも、過剰防衛、窃盗罪と立派な犯罪行為であるッッ!!




「その財布、早く交番に届けるんだ……!!」




「賊の懐事情なんてどうでも良いじゃありませんのッ?」




「その財布の中身、元々は他の人のモノだろうからさっさと届けるんだよ……!!」




「折角このわたくしが自分で稼いだゴールドですのよッッ!?」




「それ、元々他人のゴールドだから!!」




 不服そうに頬を膨らませる傲慢勇者マリー・プライドを引きずりながら、オサム・タナカは急いで交番に財布を届けたのであったッッ!!


不当な暴力で稼いだ富は社会においては汚れた金であるッ! マリー・プライドの賊退治という名のカツアゲ返しは徒労に終わったのであったッッ!!




 ざまぁポイント3獲得であるッッ!!








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








「この国のお金を稼ぐのって結構面倒くさいですわねッ!」




「だからみんな苦労しているんだよ……」




「何かもっとがっぽり稼げる方法はありませんのッッ!? この会社のお金じゃ魔王討伐への資金は三日も持ちませんわッッ!!」




「三日間で何に使うんだよ……」




 社長デスクの上で堂々とくつろぐ勇者マリー・プライドッ!


オサム・タナカは社長デスクの横で新聞を見ていた。


しかし、運悪くマリー・プライドはその新聞紙のとある記事を見つけてしまったのであるッ!




「あらッ! この街の近くにダンジョンが見つかったのですわねッッ!!」




「そうらしいけど、俺達一般人には関係のない話だね。 免許が無いと入れないし」




「勇者であるわたくしが居れば問題ありませんわッッ!! 早速行きますわよッッ!!」




「えぇ…… 一人で行って来てよ……」




「何ですのッッ!? あなた、男のくせにダンジョンというモノにときめきませんのッッ!?」




「安全なら観光してみたい気もするけど、戦闘経験ないからなぁ……」




「戦闘なら問題ありませんわッッ!! この勇者マリー・プライドが付いてますものッッ!!」




「そもそも、戦闘ができないって前の仲間追放したのはどこの誰だっけ?」




 勇者マリー・プライドは突然思いふけるッ!




「わたくし、気付きましたのよ……ッ! 一人で旅をして、毎日苦いエリクサーを飲みながら、どれだけひもじい思いをしましたことを……ッッ!!」




「それは辛い思いをしてきたんだな…… ちなみにそのエリクサーというヤツは俺たち庶民がいくら働いても手が出せない様な代物だけどな」




「そして気付いたのですわッッ!! 旅をするには、わたくしの身の回りを世話してくれる下僕が必要であることをッッ!!」




「やっぱり君はクズだな」




「会社には、社員旅行というモノがあるらしいですわねッ!」




「そうだけど、ウチの会社にはそんなモノはないよ。 あったとしても全員自腹になるだろうし無い方が良い」




「決めましたわッッ!! 明日社員旅行として、ダンジョン探検に行きますわよッッ!!」




「君は何を言っているんだ」




 オサム・タナカの冷めた対応とは裏腹に、社員旅行という単語に反応した周りの社員が興味を示したッ!




「社員旅行だって!?」




「ダンジョンって前々からちょっと興味あったんだよね~!」




「マジか! 学生以来の旅行だ!」




 勇者マリー・プライドの甘言に乗せられ、子供のようにはしゃぎだす社員たちッ!




「あれ、もしかして俺が冷めてるだけなのか?」




「ふっふっふッ! これで決まりましたわねッ! 勇者からは逃げられませんのよッッ!!」




「そのセリフ、気に入ったのか……」




 そんなやり取りをしていると、もう夕方の時刻になってしまったッ!




「あら、もう定時ですのッ!」




「なんだ、まだ定時か……」




「じゃあ早速帰りますわよッ! オサム・タナカッ!」




「いや、これから残業だけど?」




「はぁッッ!? まさかわたくしにも残れって言いますのッッ!!」




「社長が先に帰ったら示しがつかんでしょ……」




「なんでわたくしが下僕と一緒に残業なんかしなくちゃいけないんですのッッ!?」




「だって……そういう決まりだし……」




「わたくしは勇者ですのよッッ!! 愚民共が作ったルールで縛れるほど、勇者という存在は気安くなくてよッッ!!」




 そう言い放ち、社長デスクから飛び降りるマリー・プライドッ!


社会の掟ですら、この傲慢勇者を止める事は出来ないようだッッ!!




「わたくしは、帰らせて頂きますわッッ!! だからあなた達も勝手に帰りなさいですわッッ!! おーっほほほッッ!!」




 何と言うことだッッ!!


勇者マリー・プライドは社員たちにも横暴なスタイルを強調していくではないかッッ!!




「え? マジで帰っていいの? 夢じゃないよな?」




「この時間で帰れるなんて…… 何年ぶりだろう……!」




「アタシ…… あの社長についていこうかな……?」




 勇者マリー・プライドの甘言に惑わされた社員たちは、マリー・プライドにざっくりと忠誠を誓い始めていくのであった……ッッ!!


甘い言葉で健気な社員たちを洗脳するとは…… 何たる非道かッッ!!


ザーマ社の秩序は死んだッッッッ!!!!




「なんということだ……」




 しかしッッ!!


唯一この状況に絶望している男が一人いたッッ!!


そうッ! 残業マスターの卵、タダシ・サトウであったッッ!!




「残業が無くなったら、俺はこれから何をして生きていけばいいんだよ……!!」




「残業以外の事をすればいいんじゃないかな……?」








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








 ここはとあるダンジョンッ!


近年新たに発見されたこのダンジョンは、多くのお宝が眠っているとされ、今日も外の国から大勢の冒険者が集まってきているのであったッ!


そんなダンジョンの一角に、場違いな集団が集まっていたッッ!!




「みなさ~ん、危ないのでなるべく社長さんの後ろから離れないでくださいね~」




「すげぇ、ダンジョンなんて初めてだよ! オレ!」




「みんなで写メっちゃお~!」




「カワイイ~! こんな魔物も居るんだ~!」




「ちょっと~! 魔物に不用意に手を出さないでください!」




 まるで学生のノリに戻ったかのようなザーマ社の社員たちであったッッ!!


そして困惑するガイド冒険者さんッッ!!




(ホントに来ちゃったよ…… みんな思いっきり楽しんでいるし……)




 複雑そうな表情で回りを見つめるオサム・タナカッ!


隣には死んだ魚の目をしたタダシ・サトウッ!




「ザンギョウ…… ザンギョウ……ドコ……? ココ……?」




「目を覚ませ、タダシ…… 残業はもう居ないんだ……」




 そして先頭では襲い掛かる魔物を吹き飛ばしまくっている傲慢勇者マリー・プライドが居たッ!




「おーっほほほッッ!! この程度の魔物で勇者マリー・プライドを止められると思ってッッ!!」




「侵入者ハッケン、排除スル……ギャー」




 マリープライドの餌食となり、爆発四散する哀れな魔物たちッ!


爆発跡からは光を放つ宝石のような物体が残されていたッッ!!




「おぉ~綺麗~! アレなんだろう~?」




「迂闊に触らないでください! それは『魔石』です!」




「へ~魔石って言うんだ~! 持ち帰っちゃダメ?」




「ダメですよ!! 魔石は魔物たちの核で、大きなエネルギーが込められているんですよ!!」




 そう言うと、ガイドの冒険者さんは箱を取り出し、魔石を回収していくのであった。




「素人が不用意に刺激を与えると、爆発する危険性が有るんですよ!! だから専用の容器で回収する必要があるんです!!」




「そっかぁ……すみません……」




「分かればいいですよ~!」




「あの~ちょっといいですか……?」




 社員の一人がシュバっと手を上げるッ!




「ちょっとお花を摘みに行きたいんですけれど……」




「次の階層にコンビニがあるので、そこで休憩しましょうか~」




「コンビニあるんだ……」




 勇者一行は次の階層へ進んでいくのであったッ!




 圧倒的つづくッッ!!

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