第三話 株式会社ザーマッッ!!
ここは株式会社ザーマッ!
この会社では、日々大勢の社畜たちが馬車馬の如く働かされている、ブラック企業であるッ!
そして、オサム・タナカの勤め先でもあったッ!
「おい! オサム!」
「はい、何で御座いましょうか? 社長」
「この前頼んだ書類まだ出来てねーのかよ!!」
「いえ、あの量の書類を一日や二日で仕上げるのはちょっと……」
「期限は今日までって言ったよな!? 社会人のクセに期限も守れねーのかよ!?」
「しかし、自分の体は一つしか御座いません…… 人間一人が出来る仕事の量には限界が……」
「あぁ!? 口答えするのか!? 社長の俺にか!?」
「いえ、滅相も御座いません……」
オサム・タナカに怒鳴りつけるこの偉そうな男は、このザーマ社の社長であるッ!
日々、働く社員たちに罵声や嫌味を投げつけたり、女性社員に対するセクハラ、逆らおうとする者にはパワハラで押さえつけたりするなど、経営者の風上にも置けないクズであるッッ!!
「てめぇ……そんなんじゃ何処に行ってもやっていけねーぞ!?」
「はぁ……」
「誰のお陰でメシが食えると思ってるんだ!? この会社で働かせてやってる俺のお陰だろうが!!」
「はぁ……」
「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するという、社会人にとって当たり前のことが出来ない出来損ないのお前等を雇ってやれるのはウチくらいだぞ!?」
「はぁ……」
「何だ? その嫌そうな顔は? 俺の有難いお説教に何か文句でもあんのか!?」
「滅相も御座いません……」
「分かったら、さっさと仕事に戻れや!!」
「すみません……」
社長の説教という名の罵倒を一通り聞いたオサム・タナカは自分のデスクに戻っていった。
「よぉ、オサム! 今日もこっぴどく言われたなぁ!」
「まぁ…… いつもの事だし……」
気さくにオサム・タナカに話しかける人物はタダシ・サトウである。
オサム・タナカの同僚であり、つまり彼も社畜であるッ!
「オレは昨日7時間も残業できたんだぜ!! もうそろそろ一か月間の残業時間が100台まで行きそうなんだ! スゲーだろ?」
「それはすごいのだろうか……?」
このタダシ・サトウという人物は、残業を重ねる事にやりがいを感じている変人であるッ!
「ふっふっふ、これで残業マスターに一歩近づいたぜ!」
「そんなモノにマスター名乗って虚しくならんの……?」
「え? 何で?」
「すまない…… 聞いた俺が悪かったよ……」
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空はすっかり暗くなり、信号機の鳥さんたちもすっかり寝静まった時間ッ!
「やっと終わった~~。 これでようやく帰れるよ……」
オサム・タナカたちは残業を終わらせ、ようやく帰路に着ける……ハズだったッ!
「おっしゃあ!! お前等!! 今から行きつけの酒場に連れて行ってやる!! 一杯飲んでリフレッシュするぞ!!」
「デスヨネ」
「俺の武勇伝をみっちりお前等の心に刻み込んでやるからな!! あぁ、勿論飯代は自腹な!!」
飲み会であるッッ!!
そう、彼等の残業はまだ終わってなかったのであるッッッッ!!!!
「今日は何時間で解放されるかな……」
「社長の自慢話に付き合いながら酒を飲む簡単な仕事だろ?」
「確かにそうかもしれないけど……」
オサム・タナカたちが帰路に着けたのは、およそ4時間後であった……
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「ただいま~~…… 何で社長の飯代まで払わなきゃいけないんだか……」
すっかり気力を使い果たし、精神的に満身創痍なオサム・タナカッ!
そんな彼を出迎えるは、傲慢勇者マリー・プライドであるッッ!!
「遅いですわッッ!! このわたくしを待たせるなんて重罪ですわよッッ!!」
自宅に鎮座していたのは「おれんじ」と書かれた段ボールッ!
そこに収まるのは傲慢勇者マリー・プライドッッ!!
「そうだった…… 家にはコレが居るんだった……」
自宅というオアシスも失った彼は、最早生ける屍のような顔つきをしていた……
「ところで、テーブルの上にゴミが散らばってるんだけど……?」
「気付きましたのねッ! このわたくしが下僕の為に、特別に料理を作って差し上げましたのよッッ!! 泣いて感謝なさいッッ!! おーっほほほッッ!!」
「へ~~ なんか皿に盛りつけられていると思ったけど、料理だったんだ……」
テーブルの上に置いてあった謎の物体は、勇者マリー・プライドが作った料理であった。
彼女の渾身の手料理であるッッ!!
「まぁ、せっかく作ってくれたんだし、食べてみるか……」
良く分からない物体を口に運ぶオサム・タナカッ!
そして、もう既に結果が分かり切っているかのようにドヤ顔を披露する勇者マリー・プライドッッ!!
彼女の料理の実力は如何にッッ!!
「クソみたいな味だね!」
爽やかな笑顔で即答するオサム・タナカッッ!!
「このわたくしの有難い手料理をバッサリ切り捨てるその感想ッッ!! ロックですわッッ!!」
「素直な感想を述べたら褒められた……!?」
勇者マリー・プライドの作ったクソみてぇな手料理を平らげた、オサム・タナカは彼女に問うッ!
「ところで、何で君は公園でホームレスみたいになってたの……?」
「ふっふっふッ! よくぞ聞いてくれましたわねッッ!! ではしかと聞き届けなさいッッ!! この勇者マリー・プライドの波乱に満ちた経緯をッッッッ!!!!!」
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「……というわけで、せっかく購入したザツムトロンも壊れちゃって、旅の生活水準が著しく低下してしまったのですわッッ!!」
「そっかぁ……君、控えめに言ってクズだね」
「勇者マリー・プライドに臆することなくクズ呼ばわるするとはッッ!! その姿勢、嫌いじゃありませんわよッッ!!」
「俺はどちらかと言うと君の事が嫌いだけどね」
マリー・プライドは第一話での出来事をオサム・タナカに話したのであった。
そして、それからの経緯がついに語られるッッ!!
「昔読んだ古文書には、壊れた機械を的確な角度で叩けば直るって書いてありましたのにッ! 騙されましたわッッ!! わたくしを騙した古文書の作者は万死に値しますわッッ!!」
「古文書の著者ならもう亡くなっているんじゃないかな? 寿命で」
彼女の話を聞くオサム・タナカは部屋の片隅に目をやる。
「そして、いつの間にか部屋に置いてあったガラクタは、そのザツムトロンの成れの果てというワケね……」
部屋の片隅には、マリー・プライドがいつの間にか持ち込んだ、変わり果てた哀れなザツムトロンの姿がそこにあったッ!
よく見るとザツムトロンの残骸は斜めに切断されており、鋭利な刃物で切られたかのような綺麗な断面が付いていた。
匠の所業であるッッ!!
(もしや、直す為に叩いた時…… 手刀のような勢いでザツムトロンを真っ二つにしたんじゃないだろうなぁ……)
そう邪推するオサム・タナカであったが、あえて口にしなかった。
「結局、わたくし一人で魔王討伐の旅をする事になったのですわッ!」
「まぁ、いくら強いとはいえ、女の子一人の旅はキツいでしょ……」
「とりあえず、魔王を討伐しましたのですけれど……ッ!」
「あ、魔王倒せちゃったんだ」
「魔王が散り際に、『俺様は魔王の中でも末端の中の末端ッ! 俺様を倒していい気になっていただろうが、まだまだ上の魔王が居るッッ!! いずれ俺より強い魔王がお前らを滅ぼすだろうッッ!! 貴様が強敵を前に挫折する姿を地獄から拝ませてもらうぜッッ!! グハハハハハハーーッッ!! ガクゥ』と言って爆発四散しましたのよッ!」
「○○の中でも最弱ってやつね…… でも一応魔王は倒したんだから、国から報奨金を貰ったんじゃないの?」
「貰いましたわよッ? その後国王から『じゃあ、他の魔王もヨロシク☆』と言われてまた旅に出る羽目になりましたけどねッッ!!」
「そっちも中々のブラックであったか……」
「でも、他の魔王も所在地も分からない上に、三ヶ月もしたら軍資金代わりの報奨金も尽きてしまって、物資補給の為にこの街に訪れたのですわッ!」
「そうだったのか…… 一応苦労したんだなぁ…… ところで、報奨金はいくらもらったの?」
「1000万ゴールドですわッッ!!」
「バッカじゃねぇの? そんな大金三ヶ月でどうやって使い切るんだよ!? もう少し頑張れば、そのザツムトロンとやらを二台買えるじゃねーか!!」
「まぁ、とりあえず戦闘以外の事はバリー・アフリーに任せっきりでしたので、どうやって物資を調達すれば良いか分からず、途方に暮れてたのですわッ!」
そして、マリー・プライドはドヤ顔でオサム・タナカを見つめたッ!
「そんな時に、あなたが現れましたのよッ! 一目見て、あなたはわたくしの新たな下僕に相応しいとティンッ!っと来ましたわッッ!! 運命のような物を感じざるをえませんわッッ!!」
「そんな運命なら、運命とやらを呪わざるをえないな」
彼女と話しているオサム・タナカは突如眩暈に襲われたッ!
「何か、今日は疲れたからもう寝るわ……」
「あらッ? わたくしの波乱に満ちた物語を聞いて、その密度に圧倒されたようですわねッッ!!」
「確かにそうかもしれないね…… とりあえず寝るから静かにして欲しいな……」
「ふむッ! 下僕をいたわるのも勇者の務めかもしれませんわねッッ!! いいですわッ! わたくしに仕える為にしっかりと英気を養いなさいなッッ!!」
「だから静かにしてって言ってるでしょうが…… スヤァ」
オサム・タナカはまどろみに落ちていった……
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翌日ッ!
オサム・タナカの体調は優れなかったッッ!!
「あらッ? あなた、アンデッドみたいな顔をしてますわよッ?」
「元からこういう顔だったけど……? 俺の顔ディスってるのかな?」
しかし、昨日の眩暈が寝てもなお、収まらなかったのであるッ!
「確かに、ちょっと熱があるかもしれないな……」
「体調が優れませんのねッ! ならこれで今日はベッドの上で一日中わたくしに奉仕することが出来ますわねッ! 丸一日わたくしに時間を割けるなんて、こんな栄誉中々ありませんわよッッ!! おーっほほほッッ!!」
「いや? 出勤するけど?」
「はぁッ? 体調が悪いときはベッドの上で休むってそんな常識も知らないのですのッッ!?」
「子供の頃はそうだったかも知らないけど、社会人はそういうわけにはいかないんだよ……」
「このわたくしがベッドの上で奉仕しなさいと言っているのですわよッッ!? 勇者であるわたくしの命令が聞けないのですのッッ!?」
ふらふらとした足取りで玄関に向かうオサム・タナカ。
まさにその姿は生ける屍ッ!
「熱があるくらいじゃ、社会人は休めないんだよ…… 俺がクビになったら君を養えなくなるだろ? 察しろよ……」
そう言い捨て、オサム・タナカは出勤していった。
「ふむ……どうしたものですわねッ!」
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「おはようございます……」
ふらふらとオフィスに顔を出す、オサム・タナカッ!
「おはようございますわッ! オサム・タナカッッ!!」
それに答えるのは傲慢勇者マリー・プライドであった。
「……」
思考がフリーズするオサム・タナカッ!
熱で朦朧とする意識をなんとか奮い立たせて、再び社長のデスクに目を向けるッ!
「いや、おかしいでしょ…… 何で君がここに居るんだよ……」
「知りませんでしたのッ? 勇者からは逃げられませんのよッッ!!」
「いや……そこ社長の席なんだけど……」
「わたくしが今日から社長ですわッッ!!」
「いやいや……社長はどうしたの……?」
「だからわたくしが社長ですわッッ!!」
「いやいやいや……じゃあ、前の社長はどうしたの……?」
その問いに対して、勇者兼社長のマリー・プライドはドヤ顔で答えたッ!
「追放しましたわッッ!!」
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ここはとある公園ッ!
普段は子供達の歓声が響き渡る賑やかな場所であるが、今は誰もおらず、圧倒的な静寂に包まれていたッッ!!
そんな公園の街頭の下には「あっぷる」と書かれた段ボールが不自然に置かれていたッ!
その段ボールに収まるは、偉そうであった風貌の男、ザーマ社の元社長であったッッ!!
そうッ! 彼は没落したのであるッッ!!
「誰か拾ってくれ……」
そんな彼に救いの手を差し伸べる者は居なかったのであるッッ!!
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「というわけで、今日からわたくしはあなたの会社の上司も兼ねる事になりましたわッッ!!」
「いやいやいやいや……おかしいでしょ……!?」
困惑するオサム・タナカに近付くのは、同僚のタダシ・サトウであった。
「なぁ……? 彼女は何者だ? 社長の隠し子か何かか?」
「いや、俺が一昨日拾った娘……」
「お前は何を言っているんだ?」
「自分でも良く分からん……」
そして、社長のデスクの隣にいつの間にかベッドが置かれていたッ!
「さぁ、オサム・タナカッ! まずはこのベッドに横になりなさいなッッ!! これは社長命令ですわッッ!!」
「いや、そういうわけには……がふぅ!?」
突如、マリー・プライドは勇者ラリアットをオサム・タナカに喰らわせ、そのままベッドに寝かしつけるように押し倒したのであるッッ!!
「命令が聞けないというのであれば、無理矢理聞かせるまでですわッッ!! おーっほほほッッ!!」
(やべぇ……)
彗星の如く現れた、新社長の傍若無人っぷりに戦慄しながらも、他の社員たちは自分の仕事に集中するのであったッ!
こんな得体のしれない少女が社長になって、ザーマ社はどうなってしまうのか?
そんな不安を抱いていた社員たちであったが、よくよく考えたら前の社長は怒鳴ったり嫌味を言ったり、飲み会に社員を連行するだけで、まともに仕事をしている姿を見たことが無かったので、経営にはそれほど支障は無かったのであった。
圧倒的プラマイゼロであるッッ!!
傲慢勇者マリー・プライドに支配された、株式会社ザーマの運命はッッ!?
そして会社でもマリー・プライドに振り回される事になったオサム・タナカの運命や如何にッッ!?
圧倒的つづくッッ!!
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