第1話 クランツ
俺には、幼い頃出会ったたった一人の幼馴染がいる。
「クランツー!!早くしないと遅刻しちゃうわよー!!」
「ああ、今行く!!」
彼女の名前はイルヴァ。ここ、アトナスタ王国の第一継承権を持つ、れっきとした王女様だ。その美しい美貌と聡明さで、彼女と横に並ぶ者はいないだろう。まあ、いわゆる“高嶺の花”だ。そんな彼女と俺が出会ったのは、ほんの偶然だった。
『ねぇ君。どうしてこんなところに座っているの?』
ある事情があって、一人雨の中座り込んでいた俺は失意の底に沈んでいた。この世の中には夢も、希望も、愛も、そんなもの何もない。いっそ死んでしまおうか、と首筋にナイフを当てた俺の手を払い除けた彼女は、目に涙を溜めていた。
『人の話、聞いてる??なに死のうとしてるのよっ!!そんなの、絶対許さないからねっ!!』
そんなの君には関係ないじゃないか、そう思いながらも逆らう気力も残っていなかった俺は、彼女の手の引くまま、大豪邸に連れて行かれたのだった。その場所が城だと分かった時の俺の驚きは、言うまでもない。
『おとうさま、この子、どうしよう....??』
『どれどれ。ふむ。こんにちは、坊や。とりあえずお風呂にでも入って温まると良い。』
たくさんのメイドに大浴場で身体を洗われた俺は、あまりの疲労がゆえかすぐに眠ってしまった。
翌日、彼女のお父上に呼ばれ向かった先は大広間だった。
『おぉ、おはよう。夕べはよう眠れたか??』
『はい。あの、ありがとうございました。』
『よいよい。其方には悪いが、お主の事について少しばかり調べさせてもらった。』
『そ、そうですか。....それじゃあ、俺がした事、知っているんですね。』
お父上は軽く目を伏せて首肯した。その時俺は、本当に人生終わった、と思った。殺されるに違いないと思って覚悟して聞いた言葉は、意外なものだった。
『其方は悪くない。その能力が故に、致し方なかっただけであろう??それにその能力を無くすのは惜しい。よって其方を我が娘、イルヴァの側仕えとする。』
この日、この時から俺、クランツ(五歳)の新しい生活が始まった。
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