第269話 激しい消耗戦


---ラサミス視点---



「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 

 せいっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」


 メイリンが上級氷魔法を詠唱。

 するとメイリンが手にした杖の先端の赤い魔石が眩く光り、大冷気が放出された。

 大冷気に呑まれてた眼前のゴーレム達が綺麗に凍り付いた。

 そして間髪入れずに、第二射が放たれる。



「我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、

 我に力を与えたまえ! 消え去れっ!! 『アーク・テンペスト』!!」



 エリーザがメイリンの魔法に被せるように上級風魔法を唱えた。

 激しく渦巻いた旋風が、氷結したゴーレム達に命中。 

 すると魔力反応『分解』が発生。


 氷結したゴーレムの身体に放射状に皹が入り、粉々に砕け散った。

 十体以上のゴーレムが同じように次々と砕け散る。


「ナイス、メイリン、エリーザ!」


「これぐらい楽勝よ! ……とは言えない状況ね」


 オレの言葉にそう返したメイリンは双眸を細めて前方を見据えた。

 前方にはゴーレムだけでなく、不死生物アンデット、それと人工機械人形オートマタが大群となって立ちはだかって来た。

 どうやら敵は物量作戦で攻めに来たようだ。


 まあこちらはゴーレムや不死生物アンデット人工機械人形オートマタとは戦闘経験があるが、こうも大群に攻められると、激しい消耗戦を強いられた。


「――我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの

 加護のもとに――彷徨う魂に安らぎを! 『セイクリッド・レクイエム』!!」


「ヴ……オ……オ――――――――――ッ!!」


「まだまだ行きますわ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに

 ――彷徨う魂に安らぎを! 『セイクリッド・レクイエム』!!」


「ヴ……オ……オ――――――――ッ!!」


 エリスが前方の不死生物アンデット目掛けて、神聖魔法を連発する。

 そしてドラガンが頃合いを見て、エリスやメイリン、エリーザに魔力を供給する。

 その間にオレ、兄貴、ミネルバの三人が人工機械人形オートマタと対峙する。


諸手突もろてづきッ!!」


「ピアシング・ブレード!!」


「ヴォーパル・スラスト!」


 オレ、兄貴、ミネルバがスキルを繰り出して、工機械人形の胸部のコアを強撃。スキルで人工機械人形の胸部を強打すると、その途端、人工機械人形オートマタは瞬く間に動きが遅くなり、しばらくすると停止した。


「よし、落ち着いて攻めろ! こいつらの動きは単調だ。 

 焦らず確実に攻撃を躱して、胸部のコアを狙え!」


「「了解」」

 

 オレとミネルバは兄貴の言葉に従い、次々と人工機械人形のコアを破壊して、行動停止に追いやった。その後もメイリンとエリーザが分解を発生させて、ゴーレムの群れを撃破。エリスがひたすら不死生物アンデットを浄化、それをサポートするドラガンとアイラとギラン。そしてマライアがミスティを操り、敵の魔導師の位置を探り当てた。それと同時にマリベーレが中距離狙撃で敵の魔導師の眉間を綺麗に撃ち抜いた。


 これよって敵の魔導師をまた一人減らせたが、

 この階層に限っては、敵の魔導師が二人居た。

 奴等は基本的にゴーレムや不死生物アンデットの召喚に専念して、

 人海戦術の如く、こちらに目掛けてゴーレムや不死生物アンデットを突撃させてきた。


 こうなるともう只の消耗戦だ。

 奴等の狙いは時間稼ぎと思うが、こちらとしても眼前の敵と戦う事で手一杯だった。だからオレ達は力と力の真っ向勝負を挑んだ。


「――『光流斬こうりゅうざん』っ!!」


「――ヴォーパル・スラスト!」


「――ピアシング・ブレード!!」


 オレとミネルバ、兄貴がそう技名スキルめいを叫んで、

 眼前の人工機械人形オートマタの胸部のコアを狙い撃つ。


「我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 

 行くわよっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」


「我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 ウェルガリアに集う風の精霊よ、

 我に力を与えたまえ! はあぁっっ!! 『ワール・ウインド』!!」


 メイリンとエリーザが氷属性の攻撃魔法と風属性の攻撃魔法を

 時間差を置いて放ち、迫り来るゴーレムの一団を迎撃する。

 敵の攻略パターンは確立しているが、

 こういう風にゴリ押しで攻められると、激しい消耗が強いられる。


 だがここは引いては駄目だ。

 ここで押し勝てば敵を怯ます事が出来る。

 オレはそう思いながら、迫り来る敵と激しい戦闘を繰り広げた。



---------


 一方その頃、カーリンネイツ一行は迷宮の最深部で、

 草原の中央部分にはある魔力を帯びた大きな円陣を全力で解除した。

 すると迷宮の奥の地面がゆっくりと崩れ落ちた。


「……ようやく解除できたわね。

 敵――追っ手の進行状況はどうかしら?」


「……今、ミランとテスが第四階層で全力で食い止めてますが、

 それも長くは続かないでしょう」


 エレクサレドはカーリンネイツの問いに淡々と答えた。

 するとカーリンネイツは「そう」と云いながら、右手の指を顎に当てて何やら考え込んだ。


「……しかしこの地下からとんでもない魔力を感じます。

 一体この地下には何があるのでしょうか?」


 と、ジーナ。


「……そうね、恐らくこの地下に世界樹があるのでしょう」


「「この地下にせ、世界樹がっ!?」」


 と、エレクサレドとジーナが声を揃えて驚く。

 だがカーリンネイツは相変わらず淡々とした口調で言葉を続けた。


「どういう原理かは分らないけど、世界樹なら知性の実グノシア・フルーツらせていてもおかしくはないわ。そもそも前から疑問だったのよね。 この世界ウェルガリアでは世界樹に該当する存在がないことに、その疑問が今解けたところね」


「「……」」


 衝撃の事実にエレクサレド達は押し黙った。

 面倒な任務になるとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

 正直、自分達の実力を遙かに凌駕するような難題だ。

 だがカーリンネイツは臆することなく、冷静な声で指示を出した。


「本当はこのまま崩れ落ちた地面をくだって、世界樹が本当にあるか、

 どうか確かめたいところだけど、追っ手が迫っているようだから、

 先に追っ手を始末するわ。 ジーナ、敵はもうここに来るのかしら?」


「……先程、ミランと念話テレパシーを交わしましたが、

 敵はもう少しでこの最深部に到達する、との事です」


「そう、ならミランとテスが戻り次第、この五人で敵を迎え討つわよ。

 エレクサレド、例の結界の準備はどうかしら?」


「はい、私とジーナ達で力を合わせて、この最深部からこの階層の回廊の出入り口

 付近にカーリンネイツ様の指示通りに結界を張りました。

 この結界は奴等がここに向かって来た途端に発動させる予定です」


 と、エレクサレド。


「そう、結界が発動している間は、敵の体力や魔力の消耗が倍増するのよね?」


「ええ、ですが時間が経てば、こちら側も同じように消耗します。

 ですのであまり長時間の使用はお勧めできません」


「大丈夫よ、私の魔力は幹部の中でもトップクラスだから。

 例え消費魔力が倍増しても、十人程度の敵なら問題なく相手出来るわ」


「あ、ミランとテスが戻って来たようです」


 と、ジーナがカーリンネイツにそう伝えた。

 すると彼女は右手の指で自分の薄い水色髪を軽く掻き上げた。


「それでは魔族の幹部として命じるわよ。

 まもなく敵がここにやって来るわ。

 だからこの五人で力を合わせて、敵を迎え討つわ!」


 カーリンネイツの言葉に部下達は「はい!」と答えた。

 各自、不安を滲ませた表情でそれぞれの持ち場についた。

 

 マルクスとの戦いから、約一年半。

 このニャルララ迷宮の最深部で再び死闘が始まろうとしていた。

 

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