第268話 再びニャルララ迷宮へ(後編)


---ラサミス視点---



「ハアハァハアッ……これで全部倒せたな」


 オレはそう言って肩で息をする。

 オレだけでなく、兄貴やアイラ、ギランも呼吸を乱していた。 

 これで合計で二十体近くのゴーレムを倒した事になる。


 まあゴーレムを倒した所で、召還者自体を倒さないと意味はないが、

 先程の戦いで敵の魔族を二人倒したので、これでこの先の戦いが少し楽になるな。

 そして戦闘が終了したので、各自それぞれ回復薬ポーションと 魔力回復薬マジック・ポーションで体力と魔力を回復する。


「とりあえずこの階はなんとかなりそうね」と、メイリン。


「ああ、だが少し休んだ方がいいだろう。

 とりあえず二十分程休もう」


 オレ達はドラガンの言葉に素直に従い、小休止する。

 二十分後。

 小休止を挟んだ事によって、万全の体調に回復した。


「よし、では三階へ向かうぞ!」


「はい!!」


 オレ達は二階の階段を降りて三階層へ進んだ。

 確かこの迷宮の最深部は第五階層だったな。

 となるとこの三階層でも敵はまた攻撃を仕掛けてくるだろう。

 オレがそう思ってると、中衛のドラガンが急にピタリと止まった。


「……敵の気配を感じる。 これは多いな」


「ドラガン、敵の種類は分かるか?」と、兄貴。


「……多分、不死生物アンデットですわ!

 この階層全体に不死生物アンデットらしき気配が漂ってますわ」


 エリスが周囲に視線を配らせて、そう言った。

 成る程、この階層は不死生物アンデットで固めたわけか。

 だとすると、ここはエリスの神聖魔法で不死生物アンデットを浄化するべきだな。


不死生物アンデットか。 ならばエリスの神聖魔法で敵を浄化させるぞ。 

 エリスが魔力切れを起こさないように、拙者が魔力マナパワーで魔力を供給する。 中衛のアイラと後衛のギラン、この二人でエリスを守ってくれ! また他にも敵が罠を仕掛けている可能性が高いから、最大限に警戒するように!」

 

 ドラガンの言葉にオレ達は従い、それぞれ戦闘態勢に入る。

 前へ進むと、通路が左右に分かれていた。

 左側にオレとミネルバが、右側に兄貴とマライアが向い、

 身を隠しながら前方の光景を覗き見する。


「左側特に異常なし!」


「右側通路先に敵を確認。 予想通り悪霊や死霊などの不死生物アンデットだ。 

 ドラガン、どうする?」


 と、兄貴がドラガンに問う。


「いやここは少しでも敵の数を減らしておこう。

 とりあえずこちらから仕掛けよう!」


 と、ドラガン。


「待って! ここは念の為に魔力探査マナ・スキャンするべきと思うッス。魔封結界が張られている可能性は低いと思いますが、念の為にやっておきましょう!」


「そうだな、それじゃあメイリン! 頼む!」


「了解ッス! ――魔力探査マナ・スキャン開始!』


 メイリンは両眼を瞑り、眉間に力を籠めながら、魔力探査マナ・スキャンを開始した。オレ達は息を潜めて、三十秒ほど待った。


「ん……うう……ううっ……。 この階全体に多数の魔力反応があります。

 数は……ちょっと分からないけど、三十以上はありそうですね。

 それ以外にも二つくらい強い反応がありますね、これが敵の魔導師と思います」


「分かった、それじゃもう少し様子を見よう。

 魔封結界が張られたか、どうか誰か試しに闘気オーラを宿らせてくれ」


「あ、オレがやります! ふんっ!!」


 オレはそう云って、左拳に微量の闘気オーラを宿らせた。

 うん、闘気オーラは問題なく使えた。

 念の為に一分程、様子を見たが特に異常はなかった。


「……どうやら異変はないようだな。

 ならば作戦通りエリスの神聖魔法で敵を浄化させるぞ!」


「了解ですわ、一気に敵を蹴散らしますわ。

 行きますわよ。 ――『範囲化はんか』発動!!」


 エリスはそう叫んで、職業能力ジョブ・アビリティ範囲化はんいか』を発動させた。この『範囲化はんいか』を使えば、一度に複数の敵を魔法で狙い撃ちする事が可能だ。


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに

 悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 エリスのミスリル製の錫杖の先から眩い光が放たれて、前方の敵の集団を捉えた。


「グ……オ……オ――――――ッ!!」


「ヴ……オ……オ――――――――――ッッ!!」


 浄化の光を浴びて、苦しく悶える不死生物アンデット達。

 そして悶え終わると、何処か解放された感じで魂が浄化された。

 今の一撃で八体近くの敵を浄化。 

 この場はエリスに任せておけば、大丈夫そうだな。

 ならばオレ達としては、敵の魔導師を倒すべきだ!


「マリベーレ、ホークアイを使って敵の魔導師を狙撃してくれ!」


「分かった、やってみる! ――ホークアイッ!!」


「――まだまだ行きますわよ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 

 レディスの加護のもとに――彷徨う魂に安らぎを! 『セイクリッド・レクイエム』!!」


 エリスのミスリル製の錫杖から放たれた光の波動が前方の骸骨系スケルトン・タイプに命中! 幽霊系ゴースト・タイプにも命中!


「よし、エリス! そのまま攻め続けろ!

 お前の魔力は拙者がカバーする! ――『魔力マナパサー』ッ!!」


 ドラガンはそう叫びながら、自分の魔力をエリスに分け与えた。

 よし、この調子でガンガン行くべきだ!


「エリス、この調子でガンガン行くんだぁ!」


「了解よ、ラサミス! さあ皆まとめて、綺麗に魂を浄化させてあげますわよ!!」



---------


 それからオレ達はエリスが前方の不死生物アンデットを浄化しながら、

 マライアのミスティに周囲を探らせて、前方へ進んで行った。

 そして迷宮を半分くらい進んだ所で、敵の魔導師を発見した。


 数は……二人だな。

 オレは敵の数を把握するなり、耳錠の魔道具イヤリング・デバイスでマリベーレに指示を出した。


「――マリベーレ、前方に敵の魔導師を発見した。 狙撃を頼む!」


「分ったわ!」


 マリベーレはそう言って、膝立ち態勢で右手の人差し指で魔法銃のトリガーを引いた。

 銀色の魔法銃の銃口から放たれた氷と風の合成弾が前方の魔導師の眉間に命中。 

 炸裂した合成弾が魔導師の頭蓋骨の中で砕けて、弾の残骸が脳の中に漂流する。 

 そして眉間を撃たれた魔導師は力なく地面に崩れ落ちた。


「よし、この調子でもう一人を――」


「それじゃ間に合わない! 喰らえっ……ハイパー・トマホークッ!」


 ギランがそう叫びながら、右手に持ったプラチナ製の手斧を全力で前方の魔導師目掛けて投擲した。 グシャッ!!

 ギランの投擲したプラチナ製の手斧が敵の魔導師の右肩に綺麗に命中した。。

 それによって、前方の魔導師は力なく前のめりに地面に崩れ落ちた。。


 ――チャンスだ。

 オレは咄嗟に黒い剣帯から、聖木で出来たブーメランを右手で引き抜いた。

 そして遠心力を生かして、全力で前方の魔導師目掛けて投擲する。


「!?」


 迫り来るブーメランから逃れるように、魔導師が右側にサイドステップした。

 残念、その動きは予測済みだ。

 

「――軌道変化ッ!!」


 オレがそう叫ぶなり、聖木のブーメランが直角に曲がり、

 無防備になった魔導師の喉笛を綺麗に切り裂いた。

 喉笛を切り裂かれた魔導師は身体を震わせて、悶絶する。

 よし、ここで止めを刺す――

 と思った矢先に後列から前方に飛び出したエリーザが攻撃魔法を詠唱した。



「そうはさせないわ! 我は汝、汝は我。 

 我が名はエリーザ。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、

 我に力を与えたまえ! せいっ……『フレミング・ブラスター』!!」


 エリーザはそう叫びながら、強烈な火炎魔法を放った。


「うぐあぁっ!?」


 前方の魔導師は絶叫しながら、衣服を炎で焦がされて、後方に吹っ飛んだ。

 そして背中から迷宮の壁にぶつかり、しばらく身体を痙攣させてから、前のめりに崩れ落ちた。全身に火傷を負い、口から血を吐いて、白目を剥く魔導師。


「よし、これで敵の魔導師は倒した。

 残すは不死生物アンデットのみ、全力で蹴散らすぞ!」


 と、ドラガン。


「はい!!」「ああ!!」



 そこからオレ達は全力で残敵掃討を行った。

 基本戦術はエリスの神聖魔法で敵を浄化して、

 アイラやギランがエリスを護りながら、

 他の攻撃役アタッカーがエリスが打ち漏らした不死生物アンデットと戦った。そんな戦いが三十分以上続いて、ようやく全ての敵を浄化させた。

 

 激戦により、エリスとドラガンの魔力が著しく低下していた為、

 オレ達は再び三十分の小休止を取った。

 その間にエリスとドラガンが魔力回復薬マジック・ポーションを飲んで魔力を回復させた。


「さ、流石に少し疲れましたわ」


 エリスが白い法衣の袖で額の汗を拭いながら、そう呟いた。


「……同じく」


 と、ドラガンも同調する。


「しかしとりあえずこれで四階へ進めそうね。

 さてさて四階ではどんな罠が待ち受けていることやら」


「とりあえず魔封結界の有無を探り、

 四階層に居る敵の種類を正確に把握することね」


 と、エリーザとマライアがそう言った。


「仕留めた魔導師はこれまでで四人か。

 マフィアの情報によれば、敵の数は約十人。

 となれば残りは六人ってとこか」


「うむ、出来れば次の階層で最低でも一人は減らしておきたいな。

 そうすれば最深部での戦いが少しでも楽になる」


 オレの言葉に対して、ギランがそう言った。

 まあその辺に関しては、オレも同意だ。

 どのみち最深部では複数の敵とやり合う事になるだろう。

 だからこの道中で一人でも多くの敵を倒しておきたい。

 ならばここはマリベーレの狙撃に頼るべきだろう。


「だとしたらここはマリベーレの出番だな。

 マリベーレ、また狙撃をお願いしていいか?」


「うん、任せてラサミスお兄ちゃん」


 と、微笑を浮かべるマリベーレ。

 

「では今のうちに水分補給だけでも済ませておけ。

 次の四階層はもっと厳しい戦いになる可能性が高いからな」


 ドラガンの言葉にオレ達は小さく頷いた。

 そうだ、とにかく今は休息して体力の回復に専念しよう。

 そしてオレ達は水筒の水をゆっくり飲んで、ゆっくりと休んだ。


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