第266話 再びニャルララ迷宮へ(前編)


---ラサミス視点---



 オレ達は王都ニャンドランドから二日ほどかけて、

 山を越えて目的地であるニャルララ迷宮に到着した。


「おい、おい、おい、誰も居ないじゃないか」


 オレはニャルララ迷宮の周辺に目を配り、そう漏らした。

 猫族ニャーマンの大臣の話によれば、

 あのマルクス事件以降は、このニャルララ迷宮に少数精鋭の警備部隊が

 配置されていたとの話だが、オレの視界には誰一人映らなかった。


「こ、これはビンゴだな」


 と、ドラガンも神妙な表情でそう云った。

 

「成る程、貴方達の話を疑っていたわけじゃないけど、

 本当に敵の狙いはこの迷宮のようね」


 エリーザが右手を顎に当てながら、そう云う。

 

「とりあえず私のベルジアン・マリノアに色々探らせてみるわ。

 それと魔力探査マナ・スキャンを使える人は居るかしら?

 もし使えるなら、迷宮内に入って敵の魔力反応があるか、どうか調べて!」


「あ、アタシ使えます! それじゃあ早速やりまますね」


「ええ、お願いするわ」


 マライアの言葉にメイリンは挙手して、応じた。

 そして彼女に云われた通り、迷宮の入り口付近に歩み進んだ。



 15分後。

 マライアはベルジアン・マリノアに命じて、周囲を探索させた。

 するとベルジアン・マリノアは鼻を利かせて、近くの地面を掘り始めた。

 その地面をメイリンの風魔法・トルネードでゆっくりと掘り起こす。

 すると掘り出された地面に大量の猫族ニャーマンが埋められていた。


「どうやら敵は既にここに配置された警備兵を始末したようだな」


「ああ、となると敵は既に迷宮内に侵入しているだろう」


 兄貴がドラガンの言葉に相槌を打つ。

 まあ恐らく二人が考えている通りだろう。

 とりあえずオレ達は掘り起こした地面の土をもう一度穴に埋めた。


 本当ならばちゃんとした埋葬をしてあげたいところだが、

 生憎その時間的余裕はない。


「ドラガン、どうするの? 後から猫族ニャーマンの猫騎士と魔導猫騎士が

 到着する予定でしょ? ここで彼等の到着を待つの?」


 アイラがそう云うと、ドラガンは小さく首を左右に振った。


「いや出来ればここに居る十一人で今すぐ敵を追うべきだろう。

 奴等にこの迷宮の最深部にある物に辿り着かれると、色々と危険だ」


「ねえ、この迷宮の最深部に何があるの?

 ここまで来れば、いい加減教えてくれてもいいでしょう?」」


 エリーザがドラガンを見ながらそう云う。

 まあそうだな、これからエリーザ達とも協力して戦うのだ。

 彼女達にもそれを知る権利はあるだろう。

 するとドラガンもエリーザの問いにゆっくりと答えた。


「……この眼で直に確かめた訳ではないが、世界樹がこの迷宮の地下にある、

 可能性が高い。 そして拙者達はその世界樹の苗木から知性のグノシア・フルーツを見つけた。


「「「世界樹!?」」」


 予想外の言葉にエリーザ達は声を揃えて驚いた。

 まあ驚くのは当然だよな。

 オレも最初聞いた時、マジで驚いたもん。


「……成る程、分かったわ。 貴方がここまで情報を伝えなかったのも頷けるわ」


「……そうね、確かに危険な代物よね」


 エリーザとマライアが納得した表情でそう云った。


「……敵の狙いは知性の実グノシア・フルーツだけでなく、世界樹なのか? 敵は魔族なんだな? 魔族に世界樹の存在を知られるのは確かにマズい。 ドラガン、オレ達もアンタ達と協力して、全力で敵――魔族と戦うよ」


 ギランがそう云うと、エリーザとマライアもそれを肯定するように、大きく頷く。


「あ、魔力探査マナ・スキャンは終わりましたよ?

 迷宮内から多数の魔力反応を検知しました。

 ただそれ程、大きい魔力ではないので大半は敵が召喚した召喚獣や

 不死生物アンデットじゃないかと思います」


 と、メイリン。


「まあ敵からすれば、我々の進行を食い止めるためにそうするだろうさ。

 どうやら最深部に行くまで、結構骨が折れる事になりそうだな」


 まあ敵も馬鹿じゃないからな。

 こちらを食い止めるために色んなトラップを仕掛けてくるだろうさ。

 だがこちらは十一人。 それも精鋭揃いだ。

 この十一人なら敵と戦って勝つ事も可能……だと思いたい。


「じゃあ、団長。 早速敵を追いますか」


 オレがそう云うと、エリーザが「待って!」と叫んだ。


「どうやら迷宮内には結界が張られているようだわ。

 でもこの迷宮の周辺に張られた神帝級と思われる大結界は維持されてるわ。

 恐らく敵は迷宮内に張られた結界を解除して、自分達で新たな結界を張ったみたい」


「……エリーザさん、それはマジなのかい?」


 オレの問いにエリーザは「うん」と頷き、こう続けた。


「こんな真似を出来るからに、敵もかなりの魔法の使い手とみるべきね。

 でも入り口付近の結界ぐらいなら、解除出来るわ。

 そして結界を解除後、私達で新たな結界を張れば、

 敵が転移魔法や転移術でこの迷宮から逃亡する事は出来なくなるわ」


「成る程、確かにそれは必要な処置ね」と、ミネルバ。


「でも誰がその役を実行するのかしら?」と、エリス。


 するとエリーザはメイリンの居る方向へ視線を向けた。


「え~と貴方は……」


「メイリンよ。 うん、この面子を見る限り、

 アタシと貴方……エリーザさんがこの役を担うべきね」


「……それが一番良いでしょうね」と、エリーザ。


「うん、それがこの場における最適解よ。

 そういうわけで団長、今からアタシ達で入り口に新たな結界を張ります!」


「うむ。 メイリン、頼む」


 するとメイリンは白い歯を見せて、にっこりと笑う。


「ええ、任せてください。 じゃあエリーザさん、始めましょ!」


「分かったわ!」


 そして二人はまずは結界の解除作業に入った。



---------


 三十分後。

 結局二人が結界を解除して、新たな結界を張るのにこれだけの時間を要した。

 そして思いの他、大変だったようなので、二人は魔力回復薬マジック・ポーションを飲んで入り口付近のログハウスで小休止した。


 メイリンやエリーザの話だと迷宮内には様々なタイプの結界が張られている可能性が高いらしい。結界の種類には色んなタイプがあるが、魔封まふう結界が張られた場所で、大量の敵に襲われるなど、色々な可能性を考慮する必要がある。


 なのでまずは迷宮内の各階で魔力探査マナ・スキャン

 そうすれば敵の数を把握出来るし、魔封状態かも確かめられる。

 そこからミネルバの子龍族ミニマム・ドラゴンのブルー。

 そしてマライアのベルジアン・マリノアに周囲を様子を探らせながら、

 迷宮内に進む事となった。



「それじゃ各自、魔法のランタンを持って迷宮内に進むぞ」


 ドラガンがそう云うと、この場に居る全員が背中のバックパックから

 魔法のランタンを取り出して、そして灯をともした。

 ドラガンはそれを確認すると「では行くぞ!」と迷宮内に入って行った。


 オレ達は真っ暗なニャルララ迷宮の入り口に足を踏み入れた。

 前一列に兄貴とオレ、そしてミネルバとマライア。

 中列にアイラ、ドラガン、エリス、マリベーレ。

 後一列にメイリン、ギラン、エリーザが並び、

 手に魔石で作られた魔法のランタンをぶら下げて、ゆっくりと迷宮内を進む。


 オレ達は魔法のランタンの灯りで周囲を灯しながら、ドンドンと前へ進んで行く。

 視界を埋め尽くす薄茶色の壁面と天井が何処までも続いていた。



「……少し止まってくれ。 今、周囲の魔力を探ってみる」



 ドラガンの言葉に皆が従い、その場で足を止めた。

 するとドラガンは首にぶらさげたニャーグルを目元に押し上げた。

 そしてニャーグル越しに双眸を細めて、前方を見据えた。


「やはり魔力数値が高いようだ。 それとメイリンが云うように多数の魔力反応を感じる。この一階には敵は居ないようだが、二階以降は用心して進むぞ!」」



 前回訪れた時に迷宮の構造をマッピングしていたので、

 道中には迷わずオレ達は順調に迷宮内を進んで行き、二階へと降り立った。

 

「よし、まずは周囲の魔力探査マナ・スキャン

 それと何か罠が仕掛けられてないか、調べるぞ!」


 オレ達はドラガンの言葉に「はい」と答えて、警戒心を高めた。

 さあて、ここからは最大限に用心する必要があるな。

 さて鬼が出るか、蛇が出るか、それをこの眼で確かめてやるぜ!

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