第255話 一触即発
---ラサミス視点---
「さてそれじゃ
「あ、拙者は芸人一座との打ち合わせがあるから、ここで分かれよう」
「了解です、団長。 今日は付き合ってくれてありがとうございます!」
「なあに、気にするな。 じゃあな!」
ドラガンはそう云ってこの場から去った。
さてさて、もう夕方だし寄り道せず帰ろ――
「ちょっと待って!」
と、不意に後ろから呼び止められた。
オレは思わず反射的に後ろに振り返った。
するとそこには黒いドレスを着たクロエ達が立っていた。
声を掛けたのは、あのカリンとかいう少女のようだ。
何だ?
オレに用でもあるのか?
「ん、オレに何か用かい?」
「うん、あると云えばあるわ!」
カリンはそう云いながら、こちらに寄って来た。
なんだろう、この子。 滅茶苦茶ぐいぐい来るよね。
するとカリンは双眸を細めて、こちらをジッと凝視した。
「見た目はそんなに強そうじゃないけど、
確かによく見てみると、身体の肉付きもバランスも良いわね。
しかしその
お金もそれなりに持ってそうね!」
「え? あのさ、オレに何か用あるのかな?」
「ん? 用がないと話掛けちゃ駄目かしら?」
と、カリンが首を傾げた。
駄目じゃないけど、こちらにも連れが居るんだよ。
だから他の
ウチのお嬢様方が不機嫌になる、という事なんだな。
「ちょっとそこのアナタ!」
エリスが一歩踏み出して、カリンにそう語りかけた。
するとカリンはエリスの方を向いて、形の良い眉を潜めた。
「ん? 何かしら?」
「少ししつこいんじゃありませんの?
ラサミスが困ってるじゃない」
心なしかエリスの声音がいつになく冷ややかに感じる。
というかエリスのこんな声音初めて聞いた気がする。
な、なんだか嫌な予感がする。
「……アナタ、彼とどう関係なの?」
と、カリンも軽く臨戦態勢に入る。
するとエリスは毅然とした口調で応えた。
「長い付き合いの幼馴染ですわ!」
「ふうん、幼馴染ねえ。 で二人は付き合ってるの?」
「っ!? あ、アナタには関係ないわ!」
「見た感じ付き合ってるようには見えないわね。
ならアタシが彼に声を掛けても問題ないのでは?」
「そ、それは!?」
エリスは思わず声を詰まらせた。
するとエリスを援護するようにメイリンがこう云った。
「問題あるわ。 さっきアナタはウチのラサミスとライルさんを
スカウトするような発言をしたでしょ?
仮にも最強と呼ばれる
云うべきじゃないわ。 少しはこちらの迷惑も考えたら?」
「……まあそれは一理あるわね!」
「うん、だから分かったら、このまま消えてくれない?
ハッキリ云って迷惑なのよ? 分かる?」
うっわぁ。 メイリンもいつになく怒っている。
こ、これはヤバい感じになりそうだ。
と、思った瞬間、クロエが二人の間に割って入った。
「ちょっと二人とも落ち着きなさい!
カリンもそんな喧嘩越しになっちゃ駄目よ!」
「……アタシは落ち着いてますが?」
「……アタシも!」
メイリンとカリンもふて腐れたようにそう返す。
しかしクロエはそれに動じず、猫なで声でこう付け加えた。
「いやなんか悪いね。 実はワタシがこの間のあの魔族の幹部との戦いの事を
興味持っちゃってさぁ。 いや別に彼とどうこうするという訳じゃないのよ?
ただカリンも君らと歳が近いし、これを機に交友を広めたら!
みたいな事をワタシがカリンに云っちゃったのよね」
よく分からないが何かオレの評判が一人歩きしてるようだな。
まあこういう風に騒がれて、全く嬉しくないかと云われたら、
そりゃ少しは嬉しいが、それが原因で喧嘩になるのは嫌だな。
「クロエさん、それを先に云ってくださいよ。
オレも急に話を振られて困惑しちゃったじゃないですか!?」
「ゴメン、ラサミスくん。 後、そこの二人もゴメンねえ~」
と、クロエが砕けた口調でそう謝罪した。
するとエリス、メイリンやカリンもやや白けたようだ。
流石はクロエさん、一気に場の流れを変えたな。
こういう場合は他の者が上手くまとめるのが一番だ。
「了解、了解。 でキミは具体的にオレにどんな用があったの?」
するとカリンは頬を赤らめて、もじもじしながらこう云った。
「い、いや……ちょっと個人的にキミに興味が出た感じで。
それで良かったら……お友達になって欲しいかな、みたいな感じ……」
うん、それをまず最初に云って欲しかったな。
とは云えここで彼女を責めるのは酷だ。
だけど必要以上にかばい立てするのは悪手だ。
「そっか、それなら全然問題ないよ?
でもオレ達もあの激戦を経験したから、今はゆっくり休みたい感じなんだよ。
だからまた今後会ったら、約束を事前に決めておこうよ」
「う、うん。 分かった」と、カリン。
すると銀髪の女エルフのアーリアもこちらに寄って来た。
「カリンも最初からそう云えばいいんだよ。
まあこの子、実は結構人見知りするタイプなんだよ。
だからそれでちょっと拗れた感じになって、なんかゴメンね」
「い、いえもう気にしてませんわ!」
と、エリスも普段通りに戻った。
するとクロエが場を収めるべく、優しい声音でこう告げた。
「まあとにかくウチ等は別々の
同じ連合軍で仲間だから、今後ともよろしく、って事でお願い。
もし気が向いたら、ウチ等の
リアーナの居住区に
「……はい、時間が出来たら一度お伺いさせてもらいますね」
「うん、じゃあカリンもこれでいい?」
するとカリンはややバツが悪そうな表情をしながら――
「うん、後そこの二人。 なんかゴメンね……」
「いいえ、もう気にしてませんわ」
「うん、今後は同じ連合軍という事で色々協力していこうね」
と、エリスとメイリンも大人の態度でそう返した。
どうやらこれでこの場は綺麗に治まったようだ。
「じゃあね、ラサミスくん。 ばいばい!」
「ああ、カリン。 また今度な!」
オレはカリンとそう言葉を返して、クロエとアーリアに軽くお辞儀してから踵を返した。
でもオレに怒っているという感じでもなかった。
とりあえず今回の騒動はとりあえず治まったようだ。
だがその代わりと云っちゃなんだが、
明日はエリスとメイリンの買い物に付き合う事となった。
まあこれは仕方ねえな。
今日の出来事で二人が不機嫌になったのは事実だし、
ここら辺で二人のご機嫌取りもやっておかねえとな。
というか今日の修羅場にはヒヤヒヤしたぜ。
まあいくらオレでもカリンの好意に気付かない程、
鈍感じゃないが、誰か一人に入れ込むと他の者が不平を漏らすからな。
……人間関係って難しいね!
まあいいや、とりあえず飯も食ったし、シャワー浴びて寝よっと。
あんま神経使うと今後の戦いでマジで精神が病みそうだからな!
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