第191話 速戦即決(そくせんそっけつ)


---ライル視点---



  ・・・・・・ふぅ~。

  さてどうしたものか。

  此奴こいつと戦うのは二度目か。

  


  前回は引き分けのような結末だったが、

  今回は前回のようには、いかんだろう。

  それは先程のアイザックさんとの一騎打ちを見れば分かる。



  この男は一見すれば、粗野な単細胞に見える。

  此奴の素の性格は案外、本当にそうなのかもしれない。

  だが事、戦闘にかけてはこの男は、並外れたセンスを持っている。



  先程の戦いで気付いた点がいくつかある。

  それはアイザックさんは速戦即決そくせんそっけつで早い勝負に出た。

  そして俺はその判断は正しかったと思う。



  此奴の言った事が本当なら、此奴は七百年生きる魔族らしい。

  七百年、それはヒューマンの俺からすれば、気の遠くなるような年月だ。

  そして此奴は、その七百年を戦闘に費やしてきたタイプの魔族と思う。

  だから前と同じ戦術を使っても、多分二度目は此奴には通じないだろう。



  となるとこの戦いは、基本的に俺が不利だ。

  俺は前回の戦いで自分が得意とする剣技ソードスキルをほぼ使った。

  故に近接戦闘で戦うのは少々危険だ。



  ならば中間、長距離で戦うか?

  いやそれはもっと危険な選択肢だ。 

  何故なら俺の職業ジョブであるブレード・マスターは魔法が一切使えない。

  闘気オーラを変換して、擬似的な魔法攻撃を使ったり、

  対魔結界は張れるが、あくまでそれは闘気オーラという能力の範疇の行動だ。



  そして前回の戦い、今回の戦いを見る限り、此奴は魔法攻撃もそれなりに使える。

  少なくとも連合軍の中堅レベルの魔法使い、魔導士よりは上だろう。

  故に距離を取るのは悪手。 また相手に取られるのも駄目だ。

  だから結局のところ、分が悪くても接近戦で挑むしかない。



  だがこちらにもアドバンテージがないわけじゃない。

  それの一つの要因は、アイラから受け取ったこの青いブルーミラーシールド

  この青いブルーミラーシールドは、あの港町クルレーベで戦った女吸血鬼ヴァンパイアの魔法攻撃を反射した。 故に一度か、二度は奴の魔法攻撃を反射して、間隙を突く機会チャンスが生まれるだろう。



  もう一つの要因は、俺が手にするこの白刃の宝剣だ。

  前回の戦いでは、俺はこの宝剣なしで、此奴と戦った。

  そして此奴の左腕の切断に成功した。

  此奴やあの女吸血鬼ヴァンパイアはかなり強かったが、完全無敵というわけではない。 少なくとも首を跳ねられたら、いくら魔族の幹部と言えど、生きていられないだろう。

  


  そして今、俺は光属性が強化された状態。

  この状態で英雄級以上の剣技ソードスキル、あるいは独創的技オリジナル・スキルで此奴の急所を攻めたら、恐らく致命傷を与えられるだろう。


  とはいえ他の属性が若干低下している状態だ。

  奴の闇属性の魔法攻撃には、細心の注意を払うべきだ。

  とにかく長期戦は不利だ。 ここは速戦即決、一気に勝負を決める!


  その為には、何重にも罠を張り、此奴の裏をかく必要がある。

  そしてミスは許されない。 やれやれ、我ながら厳しい戦いを挑んだものだ。

  だが不思議と気分は落ち着いている。

 


「・・・・・・どうした? 来ねえのか?」



「・・・・・・」


  とりあえず此奴の言葉は全部無視すべきだ。

  俺は軽く深呼吸して、ゆっくりと摺り足で前に進む。

  奴の武器は大鎌だ。 射程距離は向こうの方が長い。


  やはり長期戦より、短期戦で挑むべきだ。

  よし、覚悟を決めた。 

  恐らくこの勝負は時間に換算して五分程の戦いになるだろう。

  この五分間、300秒に俺の全てをかける!



「――ブルーティッシュ・ソウルゥゥゥッ!!」


  

  俺はブレード・マスターの職業能力ジョブ・アビリティ『ブルーティッシュ・ソウル』を発動させた。 この職業能力ジョブ・アビリティは使用者の攻撃力と闘気オーラを一時的に飛躍的に向上させる。

  だが欠点はある。 極度の興奮状態になり、体温と血圧も上昇するので、

  長時間の使用は危険視されている。 だが300秒くらいなら、なんとか持つ。



「なっ!?」



  俺の闘気オーラが急激に上昇したので、ザンバルドも驚いている。

  そして俺はその一瞬の隙を突いて、一気に間合いを詰めた。



「――ファルコン・スラッシュッ!!」


  

  俺はすかさず右手に握った長剣を振り上げて、

  自分が得意とする初級剣技しょきゅうソード・スキルを全力で放った。

  と、同時にバックステップするザンバルド。

  今の一撃はあくまで牽制フェイントだ。

  だがザンバルドの腹部に鋭い剣傷が刻まれた。

  まださ、まだこんなもので終わらんさ!



「――秘剣・『神速しんそく太刀たち』」




  俺はこの瞬間的に闘気オーラを高め、渾身の薙ぎ払いを放った。

  狙いは奴の左腕だ。 神速の速さの薙ぎ払いが奴の左腕を切り裂いた。



「ぐ、ぐあぁぁぁっっ! ・・・・・・こ、こいつ速い!」



  またしてもバックステップで回避されたが、

  左腕を切断するまでには、至らなかったが、

  腕の神経を切るには充分な一撃だった。

  これで此奴の左腕は使い物にならない。

  ここまでは順調に、着々と布石を打っている。

  となれば奴の次の一手は――



  ザンバルドは手にした漆黒の大鎌を地面に投げ捨てた。

  そして右腕を前に突きだして、眉間に力を篭めた。

  ――よし、狙い通りだ!



  俺はそう思うと同時に、左手に持った青いブルーミラーシールドを前へ突き出した。 次の瞬間、俺の左手に凄い衝撃が伝わった。 だがあくまで衝撃で済んだ。 その代わり、ザンバルドは「なにっ!?」と叫んだが、対魔結界を張る余裕はなく、反射された魔法攻撃を正面からまともに喰らった。



  どおおおん!

  轟音と共に爆風が生み出された。 

  しかし初級か、中級魔法だった為か、その爆風はすぐに止んだ。

  


  ザンバルドは全身から焦げた匂いを放ちながら、背中の黒マントで全身を覆い、

  凄い形相でこちらを睨みながら、仁王立ちしていた。

  くっ。 もしかしてあのマントは耐魔力が高いのか! まずい!?



  俺は咄嗟に後ろに下がった。

  それと同時にザンバルドが「キエェッ!」と気勢を上げながら、突進してきた。

  くっ、恐らく奴はあの掌底打ちで攻めてくるだろう。



  ボバンさんやアイザックさんを一撃で倒した技だ。

  多分俺も喰らったら、一撃で倒されるだろう。

  だから絶対に喰らうわけにはいかない。

  その後は零距離で攻撃魔法を撃ってくると思う。

  そうなれば一貫の終わりだ。



  俺はそう思いながら、右に左、後ろとステップを必死に刻んだ。

  しかしザンバルドは野生の勘で、俺の逃げ道を咄嗟に封じた。

  くっ、駄目だ。 距離を取られたら、魔法戦になる。

  魔法戦になったら、俺に勝ち目はない。

  また一度、青いブルーミラーシールドを使ったから、同じ手はもう通用しないだろう。 ならば俺も腹を決めて、ここで勝負に出る!



「――ジャイロ・スティンガァー!」



  俺は右腕を錐揉みさせて、宝剣の切っ先から、薄黒い衝撃波を放った。

  薄黒い衝撃波は矢のような形状になり、床を削りながら、大気を裂いた。

 


「――その技はもう見切ったぜ!!」



  ザンバルドは、そう言って左側にサイドステップする。

  それと同時に俺は闘気オーラの軌道を変えた。

  すると矢のような薄黒い衝撃波が右側に曲がりながら、

  低い軌道に変わり垂直に落ちて、ザンバルドの左足の甲に命中した。



「ぐっ、グアアアァァァ・・・・・・そう来たかァ!?」



  これで足も封じた。

  いくら奴と言えど、この状態では戦闘行動も限られてくるだろう。

  だが奴は「ぬおおっ!」と呻き声を上げながら、右腕を前に突きだした。



「――ダークネス・フレアァァァッッ!!」



  次の瞬間、ザンバルドが放った闇の炎が急速度でこちらに迫って来た。

  どうする? 躱すか? 盾で防ぐか?

  躱す余裕はない。 ならばここは青いブルーミラーシールドで防ぐ!

だが俺が盾を構えた瞬間、ザンバルドがニヤリと笑った。

  すると闇の炎が急に起動を変えたように、垂直に落ちた。



  や、ヤバい! そう思った矢先に放たれた闇の炎が床に着弾するなり、

  爆音が鳴り響き、床が破壊されて、その破片が弾丸のように周囲に飛び散った。



「くっ!?」



  俺は必死に後ろにバックステップして、地面を転がりながら飛び散る破片を躱す。

  チッ。 奴め、こちらの使った戦術を模倣したな。

  やはり奴は戦闘においては、知恵が回るタイプだ。

  長期戦になれば、俺の戦術と戦闘パターンが全て読まれるな。



  俺は床から立ち上がり、腰を落とし、再び剣と盾を構えた。

  前方は爆煙により、視界がはっきりとはしない状態だ。

  この状況はまずい。



  俺は何か手はないかと、周囲を見渡した。

  すると頭上のシャンデリアを視界に入れた瞬間、策を思いついた。

  よし、一旦あのシャンデリアの上に乗り、上から奴を探そう。



  俺はそう思うなり、両足に風の闘気オーラを纏い、

  全力で床を蹴った。 そして助走をつけてハイジャンプした。

  そして剣と盾を構えた状態で、シャンデリアに飛び乗った。

  床から天井の距離は約四メーレル(約四メートル)ぐらいか?



「――は汝、汝は――。 ――ザンバルド。 暗黒神――よ。 

 我に――与えた――アークヒール」



  途切れ途切れだが、奴が回復呪文を詠唱する声が聞こえた。

  どうやら奴もプライドを捨てて、勝利を掴みにきたようだ。

  とすれば奴が治したのは、どの部位か?

  多分、左足だろう。 俺が奴の立場ならそうする。

  これ以上、奴に時間を与えるのは危険だ。 



  そして爆煙が弱まり、遠巻きに奴らしき人影が見えてきた。

  よし、この状態ならば充分狙える。




「――ジャイロ・スティンガー!!」



  俺はそう叫びながら、再び自分が得意とする英雄級の剣技ソードスキルを使った。

  そしてそれと同時にシャンデリアから飛び降りる。

  やや間があって、両足から地面に着地。



  足は・・・・・・大丈夫だな。 よし、ならばここは攻勢に出る。

  もうそれしか勝つ手段はない。

  俺はそう覚悟を決めて、剣と盾を構えながら、前方にダッシュした。



  ――次の攻撃で一気に勝負を決める!


  

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