第187話 傭兵隊長対魔将軍(前編)
---ザンバルド視点---
さて、勢いと流れでタイマン勝負を受けたが、どうしたものかな。
コイツ――アイザックはそれなりには強いだろう。
ただしあくまで四大種族の中ではな。
だが魔族の中には、コイツ程度の奴はゴロゴロ居る。
オレはこう見えて前大戦の経験者。
あの大戦中はオレはまだ百歳足らずの若僧だったが、当時でもそれなりに強かった。 少なくとも
今でも思い出すぜ、あの時は
今にして思えば、あの頃が一番愉しかったかもしれん。
だがムルガペーラ様はあの大戦以降、変わられた。
所謂、
まあ実際、あの大戦以降、
でもムルガペーラ様は、その企ての殆どを自分の手で叩き潰した。
オレと同様、単細胞に見られがちだが、あの人は頭の方もかなり切れた。
だが次第に猜疑心が強くなり、オレをはじめとした部下達に八つ当たりを頻繁に繰り返した。
そして業を煮やした魔王様は
魔王様の新たな肉体の器として選ばれたがのが、今の魔王レクサーだ。
だが結果は――。 まあ今はその話は止めておこう。
今は単純にコイツとのタイマン勝負を愉しもう。
しかしコイツもなかなか度胸あるよな。
コイツ――アイザックもそれなりの使い手だ。
だからこそオレとの力量差が分からないわけがない。
こいつは何故、今になってオレに一騎打ちを挑んできたんだぁ?
単なる功名心か、それは少し違う気がする。
そうだな、ここは軽く探りを入れてみるか。
「少し訊いてもいいか?」
「……何だ?」
アイザックの野郎は、憮然とした表情でそう返した。
まあ当然こういう反応するよな。
でもここは軽く駆け引きしてみるか。
タイマン勝負において、駆け引きは重要だからな。
「……何で今になって、オレに挑んできたんだよぉ~」
「……そうだな、俺自身よく分かってない。 だがあえて云うならば、俺の戦士としての矜持がそうさせたのかもしれない」
……ふうん、まあ三十点って感じの答えだなァ。
こういう奴は前大戦にも居たよ。
なんというか勇者気取りとか、英雄気取りな奴。
そしてその殆どが口先だけで、どうってことない奴等だった。
あ、待てよ。 少し思い出してきた。
前大戦の時に事もあろうに、ムルガペーラ様に挑んできた奴が居た。 だがそいつはかなり強かった。 ムルガペーラ様は歴代の魔王の中でも、単純な戦闘力に関しては、五指、いや三本の指に入ると云われた超武闘派の魔王だった。 その魔王相手に、そいつは一騎打ちでかなり良い勝負をした。
とは云え、最終的には魔王様の圧勝だった。
だがあの人が相手なら戦いの形になるだけで、かなり善戦したと思う。
正直、オレじゃ、あの人が相手ならタイマンでは勝負にならねえだろう。
それぐらいあの人は圧倒的な
確かアイツも竜人族だったと思う。
まあでもアイツが負けた後に、他のエルフやヒューマンの奴等が大見栄きって、魔王様に挑んだが、全員ほぼ瞬殺だった。
なんつーかあの時はムカついたぜ。
エルフとか、ヒューマンってな~んかセコいんだよな。
その点、あの竜人の男は正々堂々としていた。
そういう意味じゃ此奴ら、竜人は戦士としての誇りを持っているのかもな。
「ほう~、云うじゃねえかァ。 ならテメエの実力を見せてもらおうか」
オレはそう言って、両手で
「……ほう、本気でオレとやり合つもりか? その度胸は褒めてやろう。 だが状況が悪化すれば、そこに居る連中に助力を請うつもりだろ?」
「……何が云いたいのだ?」
「へっ、つまりいざとなりゃ約束事やルールを平気で破るってことだよ。 オレは前大戦でも似たような光景を腐るほど、見てきたからな。 要するに
「成る程、だが貴様が云う事も一理ある。 それに俺には前科があるからな。 分かった、俺はこの戦いにおいては、正々堂々と戦う事を約束しよう。 そういうわけでナース隊長、それとライル、この戦いに関しては俺に任せてもらいたい。 ただし俺が死んだ場合は、俺に変な義理立てなどせず、思った通りの行動をして欲しい」
「……承知した」
「同じく」
なんだかエルフのリーダー格の男と前に、オレとやり合ったヒューマンの長髪の小僧も納得したようだ。 ふうん、こういう所に気が回るところを見ると、コイツ、只の
「成る程、それが落としどころとしては、無難なところだろう。 オマエ、駆け引きってものが分かってるじゃねえか」
「これでも俺は傭兵隊長だ。 自分のエゴを周囲に押しつける程、
ふうん、傭兵隊長かあ~。
ああ、そういえばムルガペーラ様と戦ったアイツも傭兵隊長だったような気がする。
要するにコイツは戦士として矜持だけでなく、職業意識も高いんだな。
ふん、ふん、ふん、こりゃタイマンの相手としては悪くねえ。
さて、探り合いはこれくらいにするか。
ここからは身体と身体のぶつかり合いの勝負といこうか。
コイツは見たところ剣士だな。
今までにも何度かコイツの戦い方を見たが、基本的に物理攻撃に特化したタイプだ。 魔法は……あまり得意ではないと思う。 まあ精々使えても中級レベルだろう。 だが注意すべき点が一つある。
それは奴が両手に持っている漆黒の長剣だ。
こりゃ並の武器じゃねえな。 恐らく魔剣の類いだろう。
しかも並の魔剣じゃねえ。 相当の代物とみた。
だからいかにオレと云えど、奴があの魔剣で全力で
いいじゃん、いいじゃん、いいじゃん。
やっぱこういう生と死のせめぎ合いこそ、タイマン勝負の醍醐味じゃねえかァ。
無論、オレはコイツに負けるつもりはねえ。
というか今後も簡単に死ぬつもりはない。 だからこの身体が朽ち果てるまで、一人でも多くの敵を
まあいずれは限界点に達するだろうが、その時はその時だ。
とりあえず今はコイツとのタイマン勝負に全力を注ごう。
んじゃそろそろやろうか、恐らくこれが最後のタイマン勝負だ。
ゴチャゴチャ理屈を云うのはもう終わりだ。
「んじゃそろそろ行くぜ、アイザック!」
オレはそう云いながら、ゆっくりと前へ進んだ。
んじゃアイザック、このオレ様が直にテメエの実力を試してやるぜ!
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