第184話 エルドリア城の戦い(後編)


湧きおこる怒号と雄叫び。

瓦解した魔王軍に容赦なく襲い掛かり、怒号をあげてたくさんの傭兵、冒険者、各騎士団の騎士達が、自ら手に武器を取り、「エルドリア城を奪回せよ!」と怒涛の進撃を続ける。 口から口と伝えられて、連合軍の兵士達が奮い立たされる。


アームラックが率いるヒューマン王国騎士団の騎士達が、敵味方、入り乱れて混戦の最中にあった。 このような乱戦になると、小手先の戦術や兵法は意味もなくなり、怒声と金属音が入り乱れた戦いの中、遮二無二に敵を斬り捨てる。 異様な熱気と興奮状態のまま絶叫しながら戦いを繰り広げた。 人のうめきと断末魔、折れ飛ぶ剣や槍の鈍い金属音が響く。


「くっ、敵の大半はゴーレムだ。 狙うならゴーレムを召喚した魔導士を狙え!!」


騎士団長アームラックがそう叫んだ。

だが周囲の騎士達は、数十体に及ぶゴーレムとの奮闘で返事を返す余裕すらなかった。

他の部隊の者達はそれを遠巻きに見ながら、高見の見物を決め込んだ。

ゴーレムを倒したところで、大した手柄にはならない。

どうせ倒すなら、ゴーレムを召喚した魔導士を倒すべきだ。


そう思いながら、アイザックやラサミス達は周囲を見渡したが、それらしき人影は見当たらなかった。


「とりあえずゴーレムの相手は、彼等に任せよう。俺達は無駄な交戦は避けて、上の階に進むぞ!」


「「了解です!!」」


アイザックの言葉にドラガンとライルがそう答えた。

そしてドラガンは後ろを振り向き、顎をくいっと上げて、ラサミス達に「ついて来い」と合図した。


「我々、山猫騎士団オセロット・ナイツも後に続くぞ!」


 と、ケビン副団長。


「我々もだ。 今こそネイティブ・ガーディアンの結束力を見せる時だ!」


 と、ナース隊長も叫んだ。


右翼部隊に続くように山猫騎士団オセロット・ナイツとネイティブ・ガーディアンの騎士、兵士達は、怒号と硬質な金属音、血と火花が交錯するなかに二階を目指した。 アイザック率いる右翼部隊が先陣をきり、暁の大地の面々、山猫騎士団オセロット・ナイツ、ネイティブ・ガーディアンが後に続いた。 すると二階に続く左側の階段の前に、多数のゴーレムの群れが立ち塞がっていた。


「またゴーレムか! 魔法部隊、奴らを倒せ!」


 アイザックが後ろに振り返りそう叫んだ。


「了解ッス。 みなさ~ん、ちょっと中央を空けてくださいな。 我は汝。 汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う水の精霊よ。 我に力を与えたまえ! せいやぁっ! 『シューティング・ブリザード』ッ!」


呪文の詠唱と共にメイリンの周囲の大気が震えた。 

そしてメイリン杖の先端の魔石が眩く光り、凍えつくような大冷気が迸った。

凍えつく大冷気がゴーレム軍団目掛けて、放射状に高速で放たれた。


「誰か、第二射お願いします!!」と、叫ぶメイリン。


「承知した! 我は汝、汝は我。 我が名はベルローム。 ウェルガリアに集う風の精霊よ。 我に力を与えたまえ! 砕けろぉぉぉっ!! ワール・ウインド』!!」


メイリンをアシストするように、エルフ族の賢者セージベルロームが中級風魔法を唱えた。

ベルロームが放った激しい旋風が、凍り付いたゴーレムの身体に絡みつく。 

すると魔力反応『分解』が発生して、ゴーレムの身体に放射状に皹が入り、粉々に砕け散った。


「よし、今のうちに二階へ駆け上がるぞ!」


 階段を登り二階に駆け登ると、数十名の魔族兵が待ちかねていた。


「――邪魔だぁっ!」


即座に間合いを詰めて、剣を振るう傭兵隊長アイザック。

立て続けに二人が切り捨てられ、警戒心を高める魔族兵。

その時、前方から黒衣を纏った人影が高速でアイザックに向かって来た。

すかさず剣を振るうアイザック。 


すると黒衣を纏った人影も剣を振るう。

かきんっ、という斬撃音が鳴り響くなか、アイザックは眼前の人影を凝視する。

顔の作りこそ人間、あるいは魔族っぽいが、よく見ればその顔も人工的なものだと分かる。 更にその金属製の四肢を見れば、人間じゃないことは明らかだった。


「こ、こいつ!? 魔族じゃない、機械だ! 人工機械人形オートマタだぁ!!」


そう叫びながら、アイザックは後方に飛んで、一旦、間合いを取った。


人工機械人形オートマタ!? つまり此奴こいつらは機械人形ってわけか!」


「よく見ると確かに人形だ。 噂によれば人工機械人形オートマタの弱点は胸部のコアとのことです。 こいつらは、機械人形だから疲れ知らずだ。 長期戦はこちらが不利だ。 確実にコアを破壊しましょう!」


戸惑い気味のボバンにそう言うライル。

だがボバンだけでなく、周囲の者達も突如現れた人工機械人形オートマタに戸惑っていた。

その間隙を突くように数十体に及ぶ人工機械人形オートマタが次々と襲いかかって来た。


「こ、此奴ら!? 速いぞ、お前ら油断するなぁっ!」


アイザックは人工機械人形オートマタの斬撃を切り払いながら、そう指示を下した。

一撃一撃の威力はそこまで高くないが、斬撃の速度に関しては速かった。

更に疲れ知らずに加えて、人工機械人形オートマタは恐怖という感情とは無縁だ。 マスターに命じられたまま、ただ任務を遂行する。 


気がつけば、アイザック、ボバン、ライル、ラサミス、ミネルバ、アイラの六人が人工機械人形オートマタと対峙していた。 残る四体の人工機械人形オートマタは、驚き慌てふためく連合軍の兵士に狙いを定め、二体が同時に襲いかかり、確実に一人ずつ始末していった。


「やべえな、こいつらすんげえ速いよ。 これは一体ずつ確実に倒していくべきだ。 ケビン副団長にナース隊長! 俺達が人工機械人形オートマタを引き受けるから、周囲の魔族兵はあんたらが相手してくれ! それと敵がまた何か仕掛けないか、よく周囲を観察してくれ!」


ラサミスは戦槍を持つ銀色の装甲の人工機械人形オートマタを戦いながら、そう叫んだ。

ケビン副団長とナース隊長もこの場においては、ラサミスの提案は正しかったので、彼等は黙って頷き、部下達に「我々は周囲の魔族兵を倒すぞ!」と命令を下した。


だが気がつけば、また新しいゴーレム達が下の階から二階まで上がってきた。

更には敵の魔導士が召喚した精霊エレメンタルもいつの間にか、連合軍を囲んでいた。


「こ、これってヤバいんじゃね?」


 と、乾いた舌を舐めるラサミス。


「ええ、ヤバいわね。 これは油断していると死ぬわね」


 ミネルバが戦槍ハルバードを構えながら、ラサミスの言葉に同意した。


「だが落ち着いて戦えばなんとかなる。 エリス、メイリン、マリベーレ。 君たち三人は私の後ろに居ろ。 私が君たちを護る。 だから三人は補助、回復、対魔結界を使って我々をアシストしてくれ」


「はい、分かりました!」


「アイラさん、了解ッス!!」


「わ、分かったわ」


 アイラの言葉にエリス、メイリン、マリベーレは素直に従った。


「ドラガン、アンタもアイラの後ろに回って、付与魔法エンチャントと魔力供給に専念してくれ。 ラサミス、ミネルバ、俺達三人は人工機械人形オートマタを仕留めるぞ! 確実にコアを破壊するんだ!」


「分かった、拙者もサポートに回ろう」


「了解だぜ、兄貴」


「了解です、ライルさん」


ライルの言葉に従い、ドラガンはアイラの後ろに回った。

ラサミスとミネルバは手にした武器を構える。

するとアイザックは味方を鼓舞するようにこう叫んだ。


「ここが踏ん張りどころだ! お前ら、意地を見せるんだ!」


「おおっ!!」


アイザックの言葉に呼応するように、周囲の者達は声を揃えて叫んだ。

そしてそれぞれの役割を果たすべく、敵に目がけて突貫する者。

味方をサポート、回復する者。 

全員が全員、自分の役割を果たすべく懸命に動き回った。

まずはゴーレムを確実に破壊していき、次に人工機械人形オートマタを一体ずつコアを狙い、確実に一体ずつ破壊していった。


人工機械人形オートマタの動きは速いが、基本的に決められた動きしかしない。

要するに人間と違って、自分の意思を持たないのだ。

故に戦いに慣れてくると、その動きにも随分慣れてきた。


「――レイジング・スパイク」


ラサミスは銀色の装甲の人工機械人形オートマタの胸部に、振り上げたミスリル製の翠玉すいぎょく色の戦斧を振り下ろした。 斧刃が人工機械人形オートマタの胸部を強打すると、その途端、人工機械人形オートマタは動きが遅くなり、しばらくすると停止した。


「よし、こいつらの動きは結構単調だ。 焦らず確実に攻撃を躱して、胸部を狙えば勝てる!!」


すると周囲の仲間も次々と人工機械人形オートマタコアを破壊して、行動停止に追いやった。 これによって戦局は再び連合軍に傾きつつあったが、魔王軍も最後の意地を見せた。


こうしてエルドリア城における不毛な戦いは、まだ終わりを見せず、無駄な屍が積み上げられていくのであった。

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