第三十四章 魔将軍は誇り高き死を選ぶ

第181話 多勢に無勢


 夜が明けて迎えた翌日。

 両軍は早朝から戦闘を開始して、激しく競り合った。

 しかし魔王軍まで既に戦力の大半をエルバインへ撤退させており、戦力の絶対数で連合軍の猛攻に後退するしかなかった。

 

 それを見越して、ザンバルドが犬族バルデロンを初めてとした少数の部下に回復役ヒーラーを任させて最前線に出てきたが、連合軍側もアイザック、ボバン、ライル、更にはアイラ、ミネルバとラサミスの六人掛かりでザンバルドを食い止めた。


 ラサミスに関しては、基本的に回復役ヒーラーに専念して、アイラは聖騎士パラディン職業能力ジョブ・アビリティと回復魔法を駆使して、仲間をサポートする。 そしてその後方でドラガンが付与魔法エンチャントを状況に応じて、使い分けて、魔力が減ったら仲間に『魔力マナパサー』するという戦術。


 戦術としては比較的、単純シンプルだが、ザンバルド相手に実践するのは容易ではなかった。 しかしアイザックが的確に指示を出して、六人掛かりでザンバルドと戦う。


 流石のザンバルドもこの六人を一人で相手するのは分が悪く、時折、部下達がザンバルドのフォローに入るが、それを後衛に陣取ったメイリンやマリベーレが魔法や銃撃で狙い撃つ。


 次第に後退するザンバルドとその部下達。

 すると魔王軍の前線の兵士達も連合軍の猛攻に後退を始める。


「よし、今だ! 我が山猫騎士団オセロット・ナイツも前線へ出るぞ!」


「了解です、ケビン副団長」と、雌猫族めすニャーマンのジュリー。


「へいへいへい、ようやくオレ様の出番が来たぜっ! さあ、テメエらぁ、懺悔の時間だぜ! もっともテメエらが懺悔するのは、魔王や魔神か? だがそんな事はオレ様の知ったこっちゃねえ! だから貴様らはこのオレ様――ラモン・マルドナードが裁く!!」


 そう云ってカラカルの銃士ガンナーラモンは、

 両腰のホルスターから黒い拳銃を二丁引き抜いた。


「ラモン! あまり調子に乗らない方がいいわよ!」


 戦乙女ヴァルキリージュリーはそう釘を刺したが、団長のレビンに代わって、この場を指揮するスナドリネコの副団長ケビンは大声でラモンに命じた。


「いやジュリー、ここはラモンの好きにさせろ! ラモン、お前のやりたいようにやれ! 我々がフォローする」


「へいへいへい、そのお言葉を待ってましたぜ、ケビン副団長っ! というわけでお許しが出たから、オレ様の好きにさせてもらう! では行くぞ、魔王軍! 我が怒りの銃弾を受けてみよ!

オラ、オラ、オラァ! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう!」


 ラモンは回転式リボルバーの黒い拳銃ハンドガンのを両手に持ちながら、前方の敵の頭部目掛けて引き金を引いた。 放たれた光属性の魔弾丸が前方のトロルの頭部に二発とも命中。 更にトロルのすぐ傍に立っていたオークに銃口を向けた。 「パアン、パアン」という銃声と共にオークに額に銃弾が命中。


発砲はっぽう! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう!」


 ラモンは更に引き金を引き続けた。

 そして放たれたほとんどの銃弾が見事に標的の眉間を打ち抜いた。


「み、漲ってきたぜえぇぇっ! えい、それ! 発砲はっぽう! 発砲はっぽう!」


 ラモンは少し鼻息を荒くさせながら、ひたすら敵を狙い撃つ。

 時折、ジュリーの背中に回り、隙を見つけて手動で、拳銃に魔弾丸を補充しながら、ひたすら敵を射殺していく。


「な、なんだぁっ!? あの火の出る武器はなんだぁ!!」


 と、前方の鶏頭けいとうの獣人が慌てふためく。


「あ、あれは多分ジュウという武器だぁ! 敵が時々使う武器だ!」


 やや大柄な牛頭の獣人が大声で叫んだ。


発砲はっぽう! 発砲はっぽう! 発砲はっぽうだぜぇぇぇっ!!」


 ラモンは眦を吊り上げながら、やや唾液を飛ばしながらそう叫ぶ。 次第に魔王軍もラモンを危険視して、複数人掛かりで襲い掛かるが、ラモンは軽快なステップワークで敵の攻撃を回避。

そしてラモンの銃撃を後押しするように、ケビン副団長とジュリーが適度にラモンを護りながらも、程よくラモンが射撃しやすいように、時折配置を変えた。


 次第に連合軍の右翼部隊が魔王軍の左翼部隊を圧倒し始めた。

 それに負け時と連合軍の左翼部隊も魔王軍の右翼部隊に猛攻をかける。

 その先陣に立ったのが、ネイティブ・ガーディアンを中心となったエルフ部隊。

 ナース隊長、魔導士ソーサレスリリア、賢者セージベルロームもそれぞれの役割を果たすべく、敵を斬り捨て、あるいは魔法で攻撃する。


「……我々も負けてはいられぬ! 貴様ら、ヒューマンの意地を見せるぞ!」


「はいっ!!!」


 ヒューマンの王国騎士団の騎士団長バイスロン・アームロックが部下を奮い立たせるように、高らかにそうえた。 ヒューマンも自らの存在のアピール、あるいは戦果を求めてか、

右翼側に配置されたザンバルド配下の魔族部隊と激しく衝突。


 両軍入り混じった激しい戦いが続く。

 しかし戦力差に加え、士気の上がった連合軍の前に魔王軍の地上部隊もそろそろ行動の限界点に達した。


 そこで本陣の猫族ニャーマンマリウス王子がとある命令を下した。

 空戦部隊の竜騎士が騎乗する飛竜に猫族ニャーマンの魔法部隊を相乗りさせて、敵の空戦部隊、あるいは地上部隊に目掛けて全力で魔法攻撃するという作戦だ。


 一部の竜騎士ドラグーンはこの命令に不服そうな顔を見せたが、騎士団長レフは素直にこの命令を受け入れた。 そしてレフ、副団長ロムス、カチュアの三人でグリファムを食い止めた。 獣魔王ビースト・キンググリファムも流石にこの三人を同時にするのは厳しく、彼も妙なプライドを捨てて、残された少ない味方空戦部隊に「全軍で戦うぞ!」と命じた。


 しかし数の差、戦力差は明白で空中戦においても竜騎士団が敵を圧倒。

 そして中衛、後衛に控えていた猫族ニャーマンの魔法部隊を竜騎士ドラグーンと相乗りさせた飛竜の群れが味方を上手く盾に使って、猫族ニャーマンの魔法部隊が魔法を撃ちやすいようにスペースを作る。


 するとニャンドランド王国魔導猫騎士団おうこくまどうねこきしだんの魔法部隊が、一斉に魔法の詠唱を開始した。


「さあ、みんな行くだニャン! 我は汝、汝は我。 我が名はニャラード。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――喰らうだニャン! ……『スーパーノヴァ!!』」


「ニャン、ニャン、ニャニャッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャーラン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! はい、それニャンニャン! ……『ライトニング・ダスト!!』」


「――ハアだニャンッ! 我は汝、汝は我。 我が名はニャジロ。 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――みんな、燃えちゃえだニャンッ! ……『フレア・ブラスター!!』」


 ニャンドランド王国魔導猫騎士団おうこくまどうねこきしだんの騎士団長ニャラードがそう叫んで、地上目掛けて魔法を放つと、他の魔導猫騎士まどうねこきし達も後に続かんと魔族の弱点属性である光属性、あるいは炎属性魔法で攻撃する。


 上空から放たれた魔法が次々と魔王軍の地上部隊に命中。

 更に光と炎属性が混じり、魔力反応『核熱かくねつ』が発生。


「ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐあああぁぁっ! あ、あ、熱い!!」


「ヤバい!! 奴等、魔法で俺等を蒸し焼きにする気だ!」


「さ、流石にこれはキツい……しかし魔将軍閣下が前線におられる……」


「で、でもこのままだと全滅だぞ!?」


 一人の魔族兵がヒステリックにそう叫ぶ。

 するとまた別の魔族兵が何処か達観した表情でこう返した。


「ああ、そうだな。 それで? 貴様も魔族なら戦って死ね! というか前線におられる魔将軍が心配だ。 俺達はあの人の配下だ。俺達は死んでもいい。 だがなんとかしてあの人を救い出すぞ!」


「……そうだな」


「ああ、よし来たい奴だけついて来い!」


 そうしてザンバルドの一部の部下が捨て身の覚悟で、前線に躍り出て、ザンバルドに後退するように進言した。 だが強情なザンバルドはなかなか部下の進言を聞き入れなかった。 しかし敵の魔法攻撃に対して、部下達が身を挺してザンバルドを護る姿を見て、「流石にもう限界か」と一言漏らすと後退を開始。


 とはいえ基本的に自身と部下達で殿を務めながら、功を焦って前進する連合軍の兵士を漆黒の鎌カラミティ・サイスで次々と斬り捨てた。 だが敵の執拗な追撃が何度も何度も続く。

しかしザンバルドは慌てるどころか、少し興奮した感じの表情で追撃してくる敵兵を一人、一人確実に止めを刺す。



 三時間後。

 行動の限界点に達した魔王軍は遂に全軍をエルドリア城まで撤退させた。

 しかし敵の予想以上の粘りの前に、連合軍もすぐには追撃できず、マリウス王子が全軍に追撃中止命令を下し、ヴァルデア荒野の安全地帯まで下がり、野営の陣を敷いた。 こうして戦いが始まって七日目の夜。


 戦いの勝敗はほぼ決まった。

 だが魔王軍も深夜にサキュバス部隊を強襲させて、嫌がらせに近い魅了攻撃を時間差をつけて続けた。 それに対して、連合軍は各種族の女性、雌部隊で対応。 また二時間おきに交代制で仮眠を取り、最低限の睡眠時間を確保。


 そして夜が明けた。

 しかし魔王軍だけでなく、連合軍も憔悴しきっていた。

 だがそれでも気力を振り絞り、最後の勝利を掴む為に、また激しくて不毛な戦いに終止符を打つ為、全軍でエルドリア城に攻め込むのであった。

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