第136話 ついて行かねえよっ!


その後はもう激戦に次ぐ激戦だった。 敵味方が入り混じる中、俺や仲間もひたすら戦った。 俺は何度も何度も敵を殴打して、負傷した兄貴の代わりに前線に出てきたアイラは、仲間を護りながら戦う。



ミネルバは漆黒の斧槍ハルバードで何度も何度も敵を突き刺し、ドラガンは状況に応じて付与魔法エンチャントを使い分けて、魔力切れを起こした仲間に魔力マナパサー、あるいは魔力吸収マナ・アブソーブで敵から魔力を奪った。


メイリンとマリベーレは後方からひたすら魔攻撃及び狙撃スナイプ

エリスも後衛に陣取りながら、味方に補助魔法、状態異常の解除魔法、そして負傷者を回復魔法で癒した。


三時間後。

大激戦の末に連合軍の右翼部隊は敵の左翼部隊を撃破及び撤退させた。 それによって敵の陣形が乱れて、味方の中央の本陣が前進して、敵の中中央陣と激しく衝突。


ヒューマンの騎士団長アームラック率いる左翼部隊も敵の右翼部隊の猛攻に耐えながら、戦線を何とか維持する。 そして次第に敵の中央陣も崩れ始め、余裕のある右翼部隊の傭兵や冒険者が左側面から敵の中央陣に攻撃。


とうとう戦線を維持できなくなった魔王軍はじわりじわりと後退しながら、アスラ平原とテレサ高原の境目のテオドラ川付近まで壊走した。 


敵の総指揮官ザンバルドは古城エルシュタットまで戻り、後退させていたサキュバス部隊を前線に押し上げ、ひたすた魅了攻撃を仕掛けた。 それによって連合軍の追撃の手を弱らせて、その隙に全軍を古城エルシュタットまで撤退させた。


開戦の場所から名付けられた「アスラ平原の戦い」と呼称されることとなった一連の戦いは、魔王軍の敗退によって決着がついた。


魔王軍の死者数は連合軍の220名に対して約二倍強の452名という惨状であった。 ウェルガリア歴1601年8月13日。 四大種族連合軍は、魔王軍相手に初陣で勝利を収めた。 この勝利によって連合軍の士気は高まりつつあった。


しかし戦いはまだ序曲を迎えたばかり。

最後の勝者になるのは、連合軍か?

それとも魔王軍か?

それは現時点では分からない。

だが一つだけ確かな事がある。


それは連合軍と魔王軍、双方共に自軍の勝利を信じてやまない。 

そしてその勝利を自らの手で掴む為に、また多くの血が流されるという事だけは確かであった。


「四大種族連合軍の勝利に祝杯を!」


「くたばれ、魔王軍っ!」


「四大種族連合軍万歳っ!!」


初陣を勝利で飾った四大種族連合軍は、テオドラ川まで進軍して、その付近を野営地とした。

夜を徹してかがり火は延々と燃え上がり、兵士達が肩を並べて、勝利の美酒に酔いしれた。 作戦中は基本的に禁酒だが、レビン団長とナース隊長が今夜に限っては、兵士達の飲酒を許可した。


まあ俺は酒を飲まないし、ドラガンや兄貴、アイラも飲酒は控えていた。 ただ気分を味わう為にドラガンが作ったお手製のオレンジジュースを木のコップに入れて、軽く一口をつけた。


「このオレンジジュース美味しいっ!」


 と、目を輝かせるマリベーレ。


「ふふふ、拙者、特製のジュースさ」


 ややドヤ顔気味なドラガン。

 でもそのドヤ顔も許せる。 何故なら本当に美味いからだ。


「ホント、美味しいっ! 流石ドラさん!」


「ドラさんじゃない。 団長と呼べ、メイリンっ!」


「うひひ、さーせん」


 と、軽く舌を出すメイリン。

 少々あざといが、少しだけ可愛い。 少しだけな。


「でもこうしてゆっくりと夜を迎えるとはな」と、アイラ。


「そうね、でもサキュバス部隊の夜襲には注意すべきだわ。 あいつ等に掛かれば、男なんていちころだからね」


 と、俺の方を見ながらそう言うミネルバ。

 お、おいっ! こっち見んなよ? 

 ミネルバにつられる様に女性陣がこちらを見る。

 おいおいおい、なんだよ? その眼差しはっ!?

 俺は少しくらいなら、魅了されるのも悪くない。

 なんて思ってないぞ? ほ、ほ、本当だぞ?


「まあ、ラサミスも年頃の少年だからな」と、アイラ。


「うん、団長とライルさんは大丈夫そうだけど、ラサミスは心配ね」


 ミネルバは微笑を浮かべながら、そう言った。


「大丈夫よ、その時は私が魔法で治してあげるわ」


「エリス、それかえってラサミスに恨まれるかも?」


 お、おいっ! メイリンなんて事を言うんだ!


「えっ? 何で?」


 と、エリスが首を傾げる。


「うん、私も意味が分からないわ」と、マリベーレ。


「いやアンタは分からなくていいだわさ。 アンタはそのままが一番」


 と、妖精フェアリーのカトレアも会話に混じる。


「そうそう、マリベーレちゃんは分からなくていいのよ! ラサミス、とにかくサキュバスが現れたら、ほいほいついて行かないようにね!」


「つ、ついて行かねえよっ!」


俺はやや顔を赤くしながら、メイリンの言葉を真っ向から否定した。 だがまたこんな風に皆で談笑しながら、夜を迎えられるとはな。 明日になれば、また魔族との戦いが始まる。 だから今この瞬間だけは、全てを忘れて仲間と共に楽しい時間を過ごした。


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