第二十六章 一騎撃ち(タイマン)

第132話 再び奴がやって来た


「ふんふんっ!! 小僧、なかなかやるなっ!」


「五月蠅せえぞ、この青狼男あおおおかみおとこっ!」



「俺は人狼ワーウルフだっ!」


 俺の言葉を眼前の青い狼男が否定する。

 別に何でもいいよ。 お前は敵に過ぎない。

 しかし魔族とか人狼ワーウルフみたいに言葉を喋れる奴の相手ってなんか疲れるね。


「どっちでもいいよ! ハイアァッ!!」


 俺は身を屈め、右足で強烈な蹴りを放った。

 下半身がら空きの人狼ワーウルフの左足に、俺の右足のローキックが炸裂。 僅かに身体を揺らす青い人狼ワーウルフ。 


 それと同時に俺は右拳にありたっけの光の闘気オーラを滾らせる。

 そして地をすくうような軌道で、強烈な右アッパーカットを突き上げた。 

 俺の右拳に鈍い感触と痛みが走り、それと同時に青い人狼が血の混じった唾液を吐く。

 

「がはあぁっ!? い、いいパンチだ」


「流石、人狼ワーウルフ。 タフじゃねえか。 だがこれならどうよ!」


 俺はすかさず左で相手の距離を測り、渾身の右で眉間を打ち抜く。 またしても拳に鈍い感触と痛みが伝う。 だが俺はそれでも手を止めずに、左、右、左、右と交互に拳を繰り出した。


 ガシッ、ガシッ、ガシッ!!

 俺の左右のワンツーパンチが三連続で命中。

 だが相変わらず青い人狼ワーウルフは倒れない。

 ほへえ~。 綺麗にワンツーの三連発が決まったのにねえ。

 流石は魔王軍に従軍する獣人。 一味違うじゃん。


「ぐふふ。 軟弱なヒューマンの拳じゃ俺は倒せんよ」


「あっそ、んじゃこれならどうよっ!」


 俺はそう言いながら、眼前の敵の懐に飛び込んだ。

 そして右手を大きく開いて、相手の胸部を強打した。


「が、がはあああっ……あああぁっ!?」


 俺の十八番おはこの『徹し』が決まり、青い人狼ワーウルフは勢いよく後ろに吹っ飛んで、背中から地面に倒れた。 青い人狼ワーウルフは、口から泡を吹きながら、陸に上がった魚のようにピクピクと身体を痙攣させた。


「ふう、これで本日十体目っ!!」


 周囲を見回しても、敵と味方が入り混じっている状態だ。

 戦いが始まって今日で三日目になる。

 昨日も俺達が所属する右翼部隊は、怒涛の快進撃を見せたが、一昨日同様にこちらの左翼部隊が敵の右翼部隊に押されるという状況となった。

 

 それ故に右翼部隊は遊軍化する前に後退せざるを得なかった。 

 だが本陣から派遣された救援部隊が、左翼部隊を救い何とか陣形を立て直す事に成功。


 兵士達の噂によると、猫族ニャーマンの第二王子マリウスが、余計な口出しを止めた事により、本陣の指揮系統がうまく機能し始めているとの事らしい。


 どうやらドラガンの忠告は無駄ではなかったようだ。

 その後、一進一退の攻防が続いたが、この日も戦局に大きな変化は訪れる事なく夜を迎えた。 

 深夜には敵のサキュバス部隊の夜襲があり、一部の兵士達が魅了状態になったが、サキュバス部隊の夜襲はある程度の予想の範囲内であった為、周囲の回復役ヒーラー達が状態異常解除の魔法をかけて、事なきを得た。 その後、サキュバスの夜襲は何度か続いたが、こちらは追撃せず、仲間の状態異常解除に専念した。


 恐らく敵にしても、本気ではなく一種の嫌がらせ行為だったのであろう。 だがそのせいか、一部の兵士と回復役ヒーラーはあまり眠る事は出来なかったとの話。


 そして夜が明けて、戦いは三日目に突入。

 昨日同様、膠着状態が続くと思っていたが、魔王軍は左翼、右翼の両翼を大きく前進させて、中央の本陣も前線に押し上げて、攻勢に出てきた。


 対する連合軍は、攻撃の中心は右翼部隊に任せて、左翼と中央の本陣は防御に徹して、敵の攻勢を防いだ。 そういう訳で俺達右翼部隊は必然的に激戦に巻き込まれた。


「――ヴォーパル・スラスト!」


「グアアアァ……アアアッ!!」


「せいっ! ――ファルコン・スラッシュ!」


「ギョアアアァ……アアアッ!!」


 そう技名を叫びながら、眼前の蜥蜴人間リザードマンを斬り捨てるミネルバと兄貴。 しかし周囲には敵がまだまだ居る。


「くっ……流石にこんだけの数はきついわ!」


「ぼやくな、ミネルバ。 確実に一体ずつ倒していくんだ」


 と、兄貴。


「了解っ!!」


 ミネルバは文句を言いつつも、漆黒の斧槍ハルバードを突き刺したり、振り回したりして、周囲の敵を次々と撃破する。


 同様に兄貴も標的を一体に絞って、確実に仕留める。

 流石は我が連合ユニオンが誇るツートップ!

 二人に続くように、俺も周囲の敵をひたすら殴り倒す。


 そんな原始的な戦いが続く事、三十分。

 ようやく敵の数も減ってきた。 とはいえきつい事には変わらない。


「ハア、ハア、ハアァッ……両拳が痛てえよっ……」


「泣き言を言わないの、男でしょ?」


 愚痴を零すと、ミネルバにそう一喝された。 こういうのに男も女もないと思うが、女である彼女がここまで奮闘しているんだ。 確かに泣き言を言っている場合じゃねえな。 そう会話を交わしている内に前線に異変が起きた。


「くっ……無理だあぁっ!! 俺達じゃ奴の相手にならん!」


「後退するなぁっ!! 貴様らそれでも傭兵かぁっ!!」


「五月蠅えっ! 命あっての物種だ!」


 竜人族の傭兵同士で何やら揉めている。

 俺達は自然と視線を前方に向けた。

 すると視線の先に知った人物が立っていた。


「はい、はい、はいっ! お前等じゃ話にならんよ! 奴を――アイザックを連れて来いやぁっ!!」


「ぎ、ぎゃあああぁっ!?」


 前方に居た竜人族の傭兵が漆黒の大鎌で斬り捨てられた。

 200セレチ(約200センチ)を越える屈強な体躯。

 ざんばらの銀髪。 そして嗜虐的な笑みを浮かべている。

 そう奴だ。 

 どうやらあのザンバルドが再び前線に出てきたようだ。

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