第10話 闘気(オーラ)


「……へえ、なかなか似合うじゃない」


「いいわね。 鎧姿もいいけど、こっちもカッコいいわよ」


 冒険者ギルドの預かり屋の前で、メイリンとエリスが俺の格好を見て褒めた。

 今の俺の格好は、綿製の武道着の上から革製の胸当てと金属製の篭手、

 同じく金属製の膝あてを装備している。 


 アイラが聖騎士パラディンという上級職の盾役タンクという事もあり、

 パーティバランスを考えて、俺は拳士フィスター転職クラスチェンジ

 

 これで聖騎士パラディン拳士フィスター、魔法使い、

 僧侶プリーストというバランスの良いパーティ構成になった。


 アイラ曰く


「魔法戦士で魔力と魔法数値を底上げした今なら、君ももう闘気オーラを扱えるだろう。 闘気オーラの扱いはこの私が助言するから、君は存分に戦ってくれ!」


 との事で俺は久しぶりに拳士フィスターになった。

 今までやった四職の中で一番活躍した職業ジョブである。 


 剣術の才能はなかったが、単純な殴り合いの才能は無駄にあったようだ。 

 でも闘気オーラが扱えず、挫折したんだよな。 

 まあ今ならちょっとは出来るんじゃね? と俺も少しやる気を出す。


 そして俺達はギルドで地図や回復アイテム、

 通行許可証などの必要アイテムを購入。


 目指すは中立都市リアーナ!


 中立都市リアーナではヒューマン、猫族ニャーマン、エルフ、竜人の王族や支配者が分割統治してる区域だが、ここではどのような種族も平等に受け入れられる。 中立都市リアーナでは種族間の争いや差別はなく、各種族が和気藹々と過ごしてるとか。 恐らく各種族の王や支配者の苦肉の策、あるいは統治の秘訣なのであろう。


 実際、個人個人では異種族で気が合い、友人や恋人になったりする事も珍しくない。 そう言えば昔、兄貴が――ライルがこう言っていた。


「個人と個人の間では友情や愛情は簡単に生まれる。 それが異種族でも珍しくはないだがそれが国家となる話は別になる。やはり誰しも自分が可愛いからな。 でもどの種族にも嫌な奴は居るし、いい奴もたくさん居るだろう。 だから俺個人はあまり種族という色眼鏡を通さず、そいつ個人という存在を見る事を大切にしてる。 ……だがそれはあくまで俺の考えだ。 お前はお前の感覚で判断するがいいさ、ラサミス……」


 その時の俺にはその言葉の意味が理解出来なかった。

 だが今では少しだけ分るような気がする。 

 やはり何をするにおいても、自分で経験して学ぶのが一番大切だと思う。


 ヒューマンの俺が言うのはなんだが、結局このウェルガリアの動乱の原因は、

 ヒューマンが諸悪の根源とも言えなくはない。 


 知性の実グノシア・フルーツなんかを猫に食わせるなよ! 

 それで猫が擬人化して人間と戦争。 いやこれ普通に自業自得じゃん。


 更に猫族ニャーマンと和平を結びつつも、

 内心ムカついて異世界のゲート開く?


 んで余計な種族呼び込んで、結局自分の領土失ってんじゃん。 

 ヒューマンって馬鹿?


 挙句の果てには魔界のゲート開くって……本末転倒じゃねえか!

 と思わず突っ込みたくなるが、俺もヒューマンだからヒューマンの掟に従うしかない。


 まあとにかく現代では各種族、自陣に篭って睨み合いを聞かせてる感じだ。

 だがそういう中でも最低限の交渉のパイプが必要とされる。

 

 例えば猫族ニャーマンは魔タタビという植物を非常に好んでいるが、

 猫族ニャーマン領土内では魔タタビはあまり採れない。


 だがヒューマンの領土内では普通に摂れる。 

 だから冒険者ギルドなどを介して、商品を他国に流通する場合が多々とある。


 同じ様な事はヒューマンにもエルフ、竜人にも当然ある。

 主義、主張は合わなくても嗜好品という分野においては、

 国境がないという事であろう。


 だが基本的に各種族国境付近には軍隊や警備隊を駐在させており、

 無許可での他国の侵入は非常に罪が重く、最悪死罪である。 


 他国へ渡るには自分の種族の貴族、王族の書状や許可がないと

 基本的に許されない。 一応今では各種族、争うつもりや戦争を

 仕掛ける気配はないが、何がきっかけで火種になるかはわからない。 


 故に正しい秩序と言える。

 

 だがそれだけでは経済は衰退する。 

 そこでリアーナのような都市の出番だ。


 ここでは種族だけでなく、経済面においても垣根がなく、

 様々な嗜好品や珍品が集まる。


 それが人が人を呼び、需要と供給が生じて、経済を潤わす。

 故にリアーナで市民権や永住権を得ようとする者が自然と生まれる。


 初期の頃は比較的簡単に市民権や永住権を得られたらしいが、この自由市場を牛耳るマフィアなどを生み出す土壌となり、一部の区域がスラム化。 


 当然、治安も乱れた。

 そういった経緯もあり、現在ではリアーナの市民権や永住権を

 得るのはかなり難しいらしい。 

 成功した冒険者のステイタスの一つがリアーナの市民権や永住権を得る事だ。


「なあ、アイラさん。 アンタや兄貴はリアーナの市民権を持ってるのか?」


「……アイラでいいわ。 そうね、私は持ってないけど、ライルや団長のドラガンは市民権は持ってるわ。 ラサミス、貴方もリアーナに興味あるの?」


「まあね。 冒険者なら一度は夢見る場所でしょ? 

 まあ出来れば観光で来たかったってのが、本音だけど。 

 正直ワクワクするなあ」


「私は猫族ニャーマンのサーカスが見たいわ!」と、エリス。


「わかる、わかる。 というかアタシ未だに生猫族ニャーマン見た事ないわ」


「……ウチの団長のドラガンは猫族ニャーマンよ。 

 更には彼は旅芸人一座の座長を務めているわ。 

 リアーナではそれなりに知られた旅芸人一座よ」


 アイラの言葉にエリスとメイリンが目を輝かせる。


「ホントですか! スゴい、スゴい。 

 猫さんが連合ユニオンの団長さんで座長さんも務めるなんてスゴいですわ!」


「んじゃコネで猫族ニャーマンのサーカスを特等席で見る事も可能!?」


「まあ出来なくはないが、二人は猫好きなのかい?」


 と、苦笑を交えてアイラ。


「好き、好き。 大好き! アタシは断然犬より猫派です!」


「私も大好きです! 犬も好きだけど、やっぱり猫さんが一番なんです!」


 テンションを上げまくるメイリンとエリス。 

 お前等、どんだけ猫好きなんだよ?

 いや俺も好きだけどさ。 猫族ニャーマンをただの猫と同列に扱うのは……。


「それは良かった。 だが団長――ドラガンをただの猫のように扱うのは止めていただきたい。彼は猫族ニャーマンとして誇りを持って、生きているからな……」


「「……はい」」


 と、少しテンションを下げる二人。

 な? 猫族ニャーマンも今では四種族の一種族なんだよ。 

 見た目は猫でも、強い魔力を持ち、ヒューマン以上に魔法に長けてるんだよ。 

 そりゃプライドも生まれるさ!


 それから先はしばしの間、無言が続き、俺達はひたすら徒歩で

 目的地に向った。 アイラが道中の地理と出現モンスターを

 把握していたので、無駄な戦闘は比較的行わず、先を進んだ。

 それでもどうしてもモンスターと遭遇エンカウントする事はある。


 ヒューマン領の国境付近の湿原で俺達はリザードマンと交戦した。

 リザードマンはその名の通りトカゲが擬人化したモンスターだ。

 

 ゴブリンやコボルトよりも強く、体格も平均170セレチ(約170センチ)とヒューマンの成人男性とそう変わらない。


 ヒューマンと同じ様に金属製の鎧を着込んで、両手に片手剣や戦槌、

 片手盾の武具を手にして、集団で群れをなして人や冒険者に

 襲いかかる中級モンスターだ。


 俺達が遭遇したリザードマンは三匹の群れだった。 

 鎖帷子を着て右手に片手剣と左手に片手盾を装備したのが二匹。


 そして身長180を越えている青い金属製の鎧で全身を固めて、

 バスタードソードのような両手剣を持った連中のリーダーらしき、

 リザードマン。 ……コイツはデカいな。


「私が『雄叫びウォークライ』で敵の注意を引きつけるから、ラサミスは炎の闘気オーラで攻撃してくれ! リザードマンは炎が弱点だ。 そして隙を見てメイリンは炎属性の魔法を、エリスは私に『プロテクト』をかけて、状況を見て回復を頼む!」


「了解!」「任せてよ!」「わかりました!」


 アイラの指示に口々に答える俺達。

 そしてアイラは敵の注目を一身に集める聖騎士パラディン

 職業能力ジョブ・アビリティである『雄叫びウォークライ』を発動!


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ…………『雄叫びウォークライ』ッ!!」


 周囲の大気が震えるような大音声だった。

 このスキルは敵の注目を盾役タンクに集めさせる上に、

 相手を驚かせるという二重の効果がある。 


 前方の二匹のリザードマンも面食らったように硬直している。

 その間隙を逃すまいと、アイラは構えた盾を前方に突き出して、

 前進する。 アイラの鉄の盾がリザードマンに命中! 

 堪らず後退するリザードマン。


「こちらの一匹は私が引き受ける! 

 ラサミス、炎の闘気オーラは激しい闘争心によって生み出される! 

 腹に力を入れて集中力を溜めるんだ。 エリス、補助を頼む!」


「――了解、はあああああぁぁぁっ……!!」


「は、はい。 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 

 レディスの加護を我が友に与えたまえ、『――プロテクト』!!」


 エリスの防御力強化魔法を受けて、アイラはリザードマンに

 身体を押し付けて、揉み合う。 

 そして俺は腹から声を出して、闘争心を最大限まで高めた。


 すると赤い炎のような闘気オーラがうねりを生じて、俺の右拳に宿る。

 おおお、これが闘気オーラか! 確かに強い力が右拳に宿るのが分かる。

 どうやらあの苦痛でしかなかった魔法戦士生活の意味があったようだ。


「ギャギャギャギャ……アアアアアアアッ!」


 俺が軽く感動している内に、

 もう一匹のリザードマンが奇声を上げて襲い掛かって来た。

 手にした片手剣を水平に払うが、俺は左右に動いて、その剣筋から逃れる。


 そして素早く踏み込み、懐に入り込んで渾身の力で右拳を叩き込んだ。

 ドゴンッ! という鈍い音と共に確かな手応えを右拳に感じた。


「ギョアアアアアアッ!」


 リザードマンが悲鳴を上げて、後ろによろめいた。

 胸部の鎖帷子が大きく破損している。 スゲえ! これが闘気オーラか!


「ラサミス、どきなさい! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。

 炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 行くわよ! 『フレイム・ストリーム!!』


 軽く感動していた俺を尻目に、メイリンが火炎魔法を詠唱して、

 手にした魔法の杖の先から激しく燃え盛る炎の柱をリザードマン目掛けて放った。


「ギャアアアアアアッ……」


 瞬く間に炎の柱で包まれ、声にならない声で断末魔を上げるリザードマン。 

 リザードマンの肉が焼けて、少しばかり良い匂いがする。 


 コイツの肉は意外と美味いんだよな。 

 ってメイリンの奴、横から人の獲物を掻っ攫うなよ!!


「メイリン、美味しい所持っていくなよ!」


「ふふん、アンタがボヤボヤしてるからよ! ホレ、次行くわよ! 

 アイラさん、一端リザードマンから離れて!」


「……わかった!」


 メイリンの声とほぼ同時にリザードマンから離れるアイラ。

 メイリンからリザードマンの距離は約十メーレル(約十メートル)。


 十五メーレル(’約十五メートル)前後なら、

 メイリンの魔法の有効射程圏内である。

 メイリンは手にした魔法の杖をクルクルと回転させて――


「ちょっと本気を出すわ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 

 ウェルガリアに集う炎の精霊よ、我に力を与えたまえ! 

 はああああああっ……『スーパーノヴァ!!』」


 すると先ほど以上に強い魔力を帯びながら、杖の先から紅蓮の炎が生み出された。メラメラと燃え盛る紅蓮の炎。 それが激しくうねりながら、大気を駆け抜ける。


「ギ、ギ、ギギャアアアアアアァァァッ……!?」


 紅蓮の炎がリザードマンの全身を包み込んで、

 焼きつかさん勢いで燃え盛る。


 皮膚や肉だけでなく、装着した鎖帷子を溶かさん勢いで高温で溶解する。

 火達磨になったリザードマンは地べたに転がり、

 苦しんだが三十秒もすると息絶えた。


「ふふふ、見たか! 我が魔力、これがハイネガル一の美少女魔法使いの実力……

 あ、ああああああ……ま、魔力を使いすぎたわ。 ラサミス、あ、後は任せたわ……」


「おい! 魔力の残量考えて魔法撃てよ! お前、いつも同じ失敗してるだろ!」


 だがメイリンは力なく地面にペタンと尻餅をついて、力なく「にへへ」と笑う。

 コイツの魔法は確かに強力だが、すぐガス欠するのが難点だ。


 とはいえ残り一匹。 ここは俺とアイラで戦うしかない!

 巨大な両手剣を持ったデカいリザードマンは赤い瞳でこちらをみている。


 俺の身長が175、コイツは180はゆうに越えてるな。 

 チッ……トカゲの分際で人間様よりデカいとは生意気な野郎だ。


「ラサミス、私がコイツを引き寄せるから、君は風の闘気オーラを呼び起こせ! 

 風の闘気オーラは、呼吸を整えて魔力を練り上げると生まれる。 

 するとその両手に真空波のような刃が生じるから、

 それで敵を滅多打ちにするんだ!」


「……あいよ。 相手はデケえからアンタも無理すんなよ!」


「フッ、見くびるな。 これでも私は騎士だ。 ――では行くぞ!」


そう言うと同時にアイラは盾を構えながら、

リーダー格のリザードマンに迫る。

 

リザードマンがデカい身体を生かしたダイナミックな振りで、

重い両手剣を縦横に振るう。 


カキン、カキン。 

両手剣がアイラの鉄の盾を乱暴に斬り払う。


だがアイラも聖騎士パラディン。 

堅さには定評がある。 レベルも35だ。

ブン、ブン、ブンと振り回される両手剣を、上下左右に動き、綺麗に躱す。


この機会を逃す手はない。 俺は呼吸を整えて、大きく息を吸い込んだ。

そして全神経を集中して、魔力を練り込む。 

すると俺の全身が緑の闘気オーラで覆われた。 

これが風の闘気オーラか。 ふむ、悪くない感じだ。


俺はもう一度息を吸い込み、肺から空気を吐き出した。

すると緑の闘気オーラが明滅しながら、俺の両拳に宿る。


風の闘気オーラは真空波のような刃が生まれるか。 ――ならば!

俺は両手を振り上げて、Xの字を描くように交差させた。


すると俺の両手の先から、びゅん! 

という音と共に鋭利な風の刃が生み出された。

その風の刃がグルグルと旋回しながら、リザードマンに向って行く。


その気配を察知したアイラが素早くサイドステップする。

一瞬、リザードマンが硬直する。 


そして次の瞬間にXの字の真空波がその青い金属の鎧にめり込んだ。 

「グギギギギ」と低い声で唸るリザードマン。 


――チャンスだ!


「エリス、怪我したら回復頼むな! ――行くぜ、うおおおおおおぉぉぉっ……」


「りょ、了解! 任せて!」


俺は雄叫びを上げながら、全速力でリザードマンに突貫。

だがリザードマンも痛みを堪えて、手にした両手剣を大きく振り上げる。


リザードマンの両手剣が水平に空を裂いた。

即座に地面にしゃがんだが、俺の髪の毛が二、三本の空に飛散する。


あ、アブねぇ。 だが当らなくては意味がない。 

そして次はこっちの番だ。


俺はしゃがんだ状態からリザードマン目掛けて、

地を掬うように拳を突き上げた。


「――クアァッ……!!」


俺の右拳がアッパーカットの軌道を描きリザードマンの顎を捉えて、

大きく頭を揺らした。 

リザードマンは口から青い血を吐き、歯も数本吹き飛んだ。


顎を殴ると足に来るんだよな。 

それはヒューマンもリザードマンも同じようだ。

意識が朦朧しながらも、リザードマンも生存本能に従う。


手にした両手剣で突く、払う、突くという動作を繰り返すが、その速度は遅い。

 明らかに足に来ている。 俺はそれを懇切丁寧に躱す。


「いいぞ、ラサミス! 相手の動きをよく見れば、おのずと隙が生まれる!」

 

アイラの言葉に耳を傾けながら、俺は左、右、左、右と拳を繰り出した。

両拳に鈍い感触が走る。 リザードマンの顔面を連打、連打、殴打する。


リザードマンの巨体が大きく上下左右に揺れる。

だがなかなか倒れない。 流石百八十を超える巨体だ。 ――しぶといぜ。


「ハアハアハア、コイツマジでタフでやんの……」


次第にパンチを連打する俺の方が疲れてきた。 

なんか妙に気だるい。


最近兎狩りばかりしてたからな。 持久力下がってるのかもな……


「ラサミス、闘気オーラの使い過ぎだ! 魔力切れ一歩手前状態だ!」


「ま、魔力切れ? ああ、だから妙に身体がダルいのか、納得……」


「バ、バカッ! ちゃんと前を見るんだ! 敵の反撃が来るぞ!」


「へっ?」


慌てて前を向く俺。 

すると巨体のリザードマンがその赤い瞳をギラギラさせて、

両手剣を振り上げながら、こちらに突撃して来る。 

コイツ、反撃の機会を待ってたのか!


ブルン、ブルン、ブルン。

巨体を生かした豪快な振りで縦横無尽に両手剣を振るうリザードマン。


「お、わっ、くぉっ!?」


俺はリザードマンの連続攻撃をかろうじて躱して、後ろに下がる。


「ギョギョアアアアアアァァァ―――!!」


リザードマンの両手剣の切っ先が俺の右肩を抉った。


「クソッ……いてえじゃねえか、このトカゲ野郎!!」


突く、払う、突く。 

リザードマンの剣戟に俺の身体に切り傷が刻まれていく。


身体の節々が痛む。 だが敵も余裕はなさそうだ。 

俺は腰を落として、大きく構えた。


「エリス! 回復を頼む!」


「は、はい! 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 

 レディスの加護のもとに……『ヒール』!!」 


エリスが手にした銀の錫杖から眩い光が放たれて、俺の全身を包み込む。

切り刻まれた傷口が塞がっていく。 

俺は呼吸を整え、大きく息を吸い込んだ。


「ラサミス、無理はするな! 私と代われ! そいつは私が倒す!」


アイラが後ろからそう叫んだが、俺は下がらず闘気オーラを練りこんだ。


「ギャァギャァギャァッ!」


リザードマンが奇声をあげて、両手剣を振り上げて突貫して来た。

俺は闘気オーラを右手に集中させた。 緑の闘気オーラが右手を覆う。


「ラ、ラサミス! 危ないわよ!」


だが俺はリザードマンが両手剣を振り下ろすと同時に

左にサイドステップする。


振り下ろされた両手剣が地面を叩いた。 


――今だ、行くぜえええぇぇぇっ!!


俺は緑の闘気オーラに覆われた右手を手刀の形にして、

リザードマンの首を水平に裂いた。

風の刃と化した俺の手刀がリザードマンの喉笛を切り裂いた。

ブシュッ……という音が出て、喉笛から青い血が噴水のように周囲に飛び散った。


「ギョ、ギョ、ギョエエエエエッ――――!!!」


首を押さえる動作で両膝を地面につくリザードマン。 

そこから俺は渾身の力で右足を蹴り上げて、

リザードマンの頭部にたたき付けた。


ゴキン、という鈍い感触がして、リザードマンの首が

とんでもない角度に折れ曲がる。


十秒程、ピクピクと身体を痙攣させたが、しばらくすると動かなくなった。


「ふう、トカゲの分際で人間様を苦しめるなよ。 ああ……疲れたぁ……」


急にドッと疲労が押し寄せて、俺は力なくその場に片膝をついた。 

すると俺の右肩に誰かが手を置いた。 条件反射的に振り向く俺。


「無茶する奴だな、君は。 だが良い戦いっぷりだったぞ」


と、アイラが苦笑を交えながら、俺の右肩を強く握った。


「へっ……ちょいマジになっちまったよ。 俺の闘気オーラどうだった?」


「悪くはない。 だが魔力の残量を考えず、連打したのはいただけない。 

 以後、気を付けたまえ!」


「はいよ、以後気をつけます!」


この後も俺達は日が落ちるまで、リアーナまでの長い道筋を歩んだ。

夜はテントを張って野営。 

交代で見張りを変わり、モンスターの夜襲に備えた。


だがメイリンが交代の番なのに爆睡していたので、

仕方なく俺とアイラが交代で番を変わる。

 

呑気な顔で熟睡しやがって! 

というか涎、涎、……子供か、お前は!


結局、寝不足のまま俺とアイラは朝を迎えた。

テントをたたんで、再びリアーナへ向う俺達。


その道中にも何回かモンスターと遭遇エンカウントして、

戦ったが次第にお互いの呼吸が分かり、アイラが敵を上手く引きつけ、

俺やメイリンが攻撃。 エリスは回復。


という具合にパーティの役割分担をキッチリこなして、危なげなく進んだ。

あのデカいリザードマンを倒したおかげか、俺のレベルも一つ上がった。


これで拳士フィスターのレベルも21か。 俺は自分の冒険者の証に目を通す。

するとスキルポイントが三ポイント加算されていた。 


レベルが上がればスキルポイントが加算され、このスキルポイントを

割り振れば戦闘スキルや魔法が覚えられたり、パッシブスキルに

割り振れば相対的な力の底上げに繋がる。  


俺は自分の冒険者の証を指で触りながら、スキルポイントを

戦闘スキル闘気オーラの項目に全部割り振った。 


すると『全職業で闘気オーラの威力5%アップ』の効果を習得。


これで闘気オーラの威力が少々増しただろう。 少しテンションが上がる。

それからも俺達は休む事無く、ひたすら歩き続けた。 


国境の関所で通行許可証を見せて、ヒューマン領からリアーナ領内に入った。

日の光はまだ高い。 時間的に昼過ぎというところか。 


ようやくリアーナに着いたか、後少しで兄貴に――ライルに再会出来る。

それが楽しみでもあり、不安でもあった。 


だが良くも悪くも兄貴が居たから、今の俺がある。 

だから俺は兄貴に会う。 兄貴を助ける。 


そう決意して俺達はリアーナの地を突き進んだ。

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