信頼
katsumi1979
第1話
僕はこの3月をもって中学校を卒業する事になった。いろいろと思い出の詰まった学校生活だった。4月から無事受験に合格し高校へ行くことになった。僕はそこでまた新しい学校生活を始め、友達もより多く作るはずだった・・・。
でも僕が思い描いていた学校生活とは、かけ離れていた。
僕は生まれつき心臓が弱く、医者からもなるべく運動は控えるように言われている。だから体育は出来ても、運動部の部活には入れないのだ。
そして高校生活が始まり、最初は席の近い人と話すようになり、友達も自然と作れた。
そこまでは順調だった・・・。だが5月になったある日、担任の口から僕の病気のことをみんなに告げた。告げる前に先生も僕に確認をした。
それは恐らく先生なりの配慮だろうと思ったし、先生も無理矢理僕を走ったりはさせないようにという事を言って下さった。僕はその事について隠すつもりは全くなかったので、みんなに話したって構わないと思った。そしてそれを告げられてからしばらく経ったある日の事、高校生活にようやく馴染めた頃だった。僕の悲劇はそこから始まったのだった・・・。
◆◆◆
それは休み時間の出来事だった。一番後ろの席に座ってた僕は突然椅子を引かれ、いじめにあっていたのだ。
「うわっ!何するんだ!」
と、僕がそいつに言うと・・・
「ああ?!やるかテメー?!」
「やめた方がいいよ、こいつに関わると心臓病で移されるぞ!」
と、もう一人の奴がそう言った。移る・・・? いったいどういうことだ。心臓病というのは移るとかそんな話じゃないはず。
それからだった僕は学校に行けば不良たちから、
「移るから近寄るな!」
と言われた。僕はいつしか、いじめの的になっていた。
最初、友達だと思っていた人たちからも僕はいじめられていたのだった。小・中学校の時に一緒の高校へ行った信頼できると思っていた友達から『移る』という言葉はなかったものの僕は全く相手にされることもなくなり、結果裏切られる形となってしまった。もう絶対に人なんか信用しないそう強く思った。
そしていつものように廊下を歩いてると突然足を引っかけられた。
「うわっ!なんだよいきなりなんでそういうことするの?!」
僕がそう反論すると相手は・・・
「弱いから。お前が弱いからこうなるんだよ!」
それを言われてからだった。これはいじめてきたこいつらが悪いんじゃない!弱い自分が悪いと、そう思った。そしてそれから僕なりに自己流でケンカのやり方を学んだ。もちろん言葉使いだって変えた。そんな高校1年の終わりごろの話だった。それまでずっと毎日のようにいじめられ、我慢し続けた僕についに怒りが爆発する出来事が起きた。廊下を歩いていると後ろから突然何かを投げつけられた。
「あ、ごめ~ん。でも近寄らないでね移るから!」
そう言われ、僕の怒りは頂点に達してそいつを倒した。次の日もそいつが僕に挑んできたが返り討ちにしてやった。先生たちもこれには問題視されてしまい、厳重注意されてしまった。
そしていつしか誰も僕のことを病気でからかうやつはいなくなった。
その変わりそれは高い代償もついた。僕は男も女も容赦ない、僕に意見するものすべてにおいて暴力で解決してしまう人間になっていた。女だから手をあげちゃいけない。そんな話は僕には一切通用しなかった。
そうしているうちに同じ学年のクラスメイトとは信頼関係などない状態になってしまったのだ。誰にも話しかけてもらえず周りの人とは怯えるような目で僕を見た。もう居ても居づらいだけ。
やがて僕は素行の悪さがにじみ出てしまい、ちょっとした意見の食い違いにより女生徒の髪の毛を引っ張り上げてしまった事で高校2年生の時に、1週間の停学処分となってしまった。
ただその頃には僕の噂を聞いてか、悪い先輩と絡むようになった。僕も何かあったらその時はという気持ちもあり、何もない一人の状態よりかは良いと思い絡んだ。ただ本当上辺だけの付き合いだ。僕もその付き合い方で良く居心地が良かった。
何度か絡んでいるうちに一人の女と出会うことになる。彼女は僕と同じ学校の悪い仲間の先輩にあたる人だ。かといって特にその先輩とその彼女は何も関係もなさそうな感じだった。特に自分からは話かけはしないのだが、彼女のほうから自分の身の上話を僕に積極的に話しかけてくる。正直どうでもよい話である。そして彼女のほうから誘われる。
「ねぇ、明日午後1時にいつもあの場所にいるから二人で遊ぼうよ」
と、彼女は言った。
「何だよいいなぁ~俺も行こうかなぁ」
「おい、やめておけ」
「あ、そうかごめんな」
何だか先輩二人が変な会話しているようだが、特に気にすることもなく僕は
「はぁ? 気が向いたらな」
と、返事をした。
「いいから来いよ~」
あの場所とは先輩たちといつも会ってるあの場所だ。ただ明日は土曜日僕が行かなかったところで、僕に何もやることがない。なので行くことにした。
◆◆◆
「お? 来たか偉い偉い!」
そう言われ、頭を撫でられる。
「触るなうっとうしい!」
と、僕は彼女の手を避け頭を右側に傾けた。予定通り彼女と二人きりで遊んだ。ゲームセンターやボーリング場と様々なところへ行き、その日1日を楽しんだ。そして帰り際の出来事だった。
「ねぇ、今日楽しかった?」
「あん? 楽しいんじゃねーの?」
「何それ~冷めてる~・・・。でもまぁいいかじゃあここでいいよ」
僕と彼女とは使う路線の駅の入口が違っているため、ここで別れることにした。ふと後ろを向くと彼女が他の男に声をかけられていた。僕はそれを知っていたが、別に自分の女じゃないし関係ないと思ってそのまま歩きだした。
すると彼女が大きな声で
「うるせーなウザいんだよお前!」
少し気になって僕は足止めをした。でも駅前近くだし何かあったら誰か助けるだろうと思って僕は気にしないようにしていた。
「いやぁ、やめて。誰か助けて!」
僕はそこで立ち止まった。そして助ける事を考えてしまった。なぜ助ける必要がある? あいつがどうなろうと知ったこっちゃないはずだ! 関係ないんだ、僕には関係ない! あいつがあそこで襲われようと連れてかれようと関係ないんだ!
僕はそう自分に言い聞かせた。だけど僕の心の中で、あることを急に思い出す。
それは小・中学校時代の時だったあの頃は友達との思いやりがあった。先生たちもみんなも僕が心臓病って解っていながらもそれを気にせず接してくれたこと何かあったら助けるという先生の教え。どういう訳か僕は頭の中でそれを思い出そうとしている。なぜだ? なぜなんだ・・・。僕は彼女を無視し、帰ろうと思ったがなぜか足が先に進まない。
僕はこれからの生涯、人と深く接しない生き方をすると心に誓ったはず。ここで助ければ彼女に対し、情ができちゃう!
いらない! そんなものいらない! そんなものがあればまた必ず裏切れられる!
でも足は先へは進んでくれなかった。
むしろ彼女を助ける。そっちのほうに足が進む。
「お願い誰か助けて!」
少し彼女の声が遠く、さきほどの場所より違う方向から声が聞こえてくる僕はその方向に向かって叫ぶ彼女の声を便りに走った。明らかに数人の人だかりはあるものの誰も助けようとはせず、少し遠くから見ているだけだった。
「どけ! お前ら!」
と、言い人だかりがある先に行った。すると彼女の服が少し破れていた。
「まぁ、待てよ」
僕の肩を掴み、そう声が聞こえてくるのは二人の先輩だった。
「先輩! どうしてここに?!」
「まぁまぁ、それよりここの掃除は俺らに任せてお前は早く連れて行きな!ただ無理して全力で走るなよ!」
「何だお前ら?!」
彼女を襲った男たちは声を荒げてそう言った。
「俺らはただの掃除係でーす」
そして先輩の言う通りにして走って公園へと向かった。
「はぁはぁはぁ・・・」
息切れと、動悸がどうやらすごいことになってしまっているようだ。
「ねぇ大丈夫? 今日は本当ありがとう・・・」
ありがとう。久しぶりに言われた言葉だった。だが僕はその余韻に浸ることなく彼女に冷たくこう言い放った。
「もういいよ帰れば?」
僕はこれ以上深く関わりあいたくないせいかそう彼女をあしらった。しばらく呼吸が荒かったので僕は呼吸が落ち着くまで待った。なぜか彼女も僕の身体の事について心配そうに見ているものの、聞かれる事はなかった。
「私、あの時あなたのことだから助けてくれるかどうか心配だったの。
でも助けようとしてくれたどうして?」
「さぁな? ただなんとなくだ。それだけだ! それに本当に助けたのはあの二人の先輩だよ」
僕はそう言って助けた話を二人の先輩の話にすり替えようとしていた。
「確かにそうかもしれない。だけど、嘘ついてるでしょ? あなたは本当はそんな人じゃないはず」
「分かったような口をきくんじゃねー!」
僕は彼女を殴ろうとしたが、殴れなかった。どうして、どうして殴れない・・・。
僕はあの時から好き放題、殴ってきたじゃねーか?! クラスメイトの男も女も関係なく! どうして今殴れない・・・。自分にそう腹を立てた。
「ほら、殴れない! 今のが証拠なんじゃない? もしあなたが本当にただの悪い人で見境なく殴る人ならば今ので殴れたはず。あなたは本当は心の優しい人なんじゃないの? それがどっかで歯車が狂って自分で悪いイメージを無理に作り上げてるんじゃないの?」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ! テメーは!」
僕はそう言って、また彼女を殴ろうとした。しかし、殴れなかった・・・。
「もういいよ、無理しなくて・・・。私の前では素直になってよ」
彼女の目には涙が浮かんでいた。今まで相手が泣こうが何しようが
関係なしに思っていたが、この時ばかりは僕も彼女に手をあげることすら出来なかった。
「辛かったんでしょ? 痛かったんでしょ? 悲しかったんでしょ?
私にはあなたのその痛みは全部は分からないけど・・・私が半分にしてあげる・・・。
痛さも・・・辛さも・・・哀しみも・・・。すべて・・・だからもう一人で抱え込まないで!」
そう言われ、僕は涙を我慢することができなかった。泣き崩れた・・・。初めてだったここまで泣いて本気で想っていてくれる人がいるなんて。
僕はこの日から思った。時間はかかるかもしれないけど人をもう一度、人を信頼しようと思う。後日知った話だが、先輩二人についてだけど、今回は僕と彼女のデートを計画してくれた人みたいだ。
それは先輩の後輩つまり僕と同じクラスメイトの人から僕をこんな風に変えさせたのは俺らなんですという感じで相談された。それが返り討ちにしたあいつだったというのが驚きだ。
なぜそんな相談をしたのかは最後に僕が髪の毛を引っ張り上げた女生徒は実はあいつの彼女だったらしく、あの一件から僕をここまで変えたのはあの一言が原因じゃないかって、みんなからも責められてしまっていたからだ。周りの事をその時は何も気にしなくなった僕はそんな噂でさえ気づくことはなかった。なぜなら学校の途中で帰ってしまうこともあったからだ。
今日付き合った彼女は僕のそんな事情も知っており、僕がこうなった原因が原因なだけに何とかしてあげたいという気持ちで近づいたのだという。あと見た目も良かったんだとか。その辺は定かではないが。
ところであの時もし、僕が彼女のもとへ本当に向かわなかったとしたら、集団リンチしようなどと言われてしまったが、真実は分からない。あの事件自体は想定外の出来事だったが、でもそれを聞いた僕はさすがに怖かった。
ただ少し遅いと言われ先輩には怒られてしまったが、これにはさすがに素直に謝りました。でも先輩が彼女を最初の時点で助けなかったのは、僕が必ず助けると信頼していたからだそうだ。これも事前に先輩が僕がどういう人か同じ小・中学校一緒で高校までも一緒だった奴から話を聞いて、確信を得た上での信頼だった。それだけじゃない僕が彼女を最初から殴らない事までも解っていたというからすごい話だ。先輩がなぜそう思ったかは最初、彼女と会って僕が頭を撫でられた時に避けてはいたものの手を出して振り払わなかったことだ。
ここに先輩なりに違和感を感じていたらしい。本当に女に手を挙げるようなやつならあの時点で手を挙げるアクションをしてもよかったのにそれをしなかったこと。ここまで僕の行動を読む先輩もすごいと思った。ただここまでの読みが当たるかどうかは賭けみたいなものだったらしい。僕の事を信頼していないとできなかった事かもしれない。
そして停学期間も終え、クラスメイトには謝り、自分がやってきた今までの行為はもうしてはならないと思った。これから先は信頼関係ですべてを結ぶつもりでいる。無論時間がかかるのは承知の上だった。上辺だけの友達はいらない。と言っていたが、実はそう思っていたのは自分だけというなんとも恥ずかしい話であるという事が良く分かった。
やがて、クラスメイトの人たちも3年生に上がる頃までは和解できてきた。
ところでこの彼女とはその後どうしたかって?
あの一件以来、すぐに正式に付き合うこととになり、10年という歳月を経て結婚することになりました。言葉使いに関してはそういうほうが男らしさを感じるらしく、ちょっと変わった彼女・・・ではなく、妻かなと思いました。
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