第29話 空の戦い②

1941年9月4日 パラオ諸島南西20海里



 総数120機の零戦によって防空戦闘に努めた第1航空艦隊だったが、全ての敵機を防ぎきる事は出来ず、30機程度の敵機が空母の眼前に迫ってきていた。


 敵機は空母4隻の内の2隻――第1航空戦隊の「翔鶴」「瑞鶴」を狙う動きを見せており、敵機が距離1万2000メートルの距離まで接近した時、「翔鶴」艦長城島高次大佐は「面舵一杯」を命じた。


「敵艦爆10機以上、本艦に向かってきます!」との報告が上げられた直後、「翔鶴」は右舷側に回頭し始め、城島は砲術長に対空射撃の開始を命じた。


 「翔鶴」に搭載されている高角砲は、12.7センチ連装高角砲6基12門。12.7センチという口径は戦艦の主砲のそれには遠く及ばないが、発射間隔は早く、艦政本部でも好評であった。


 「翔鶴」上空に次々に爆煙が湧き始め、ドーントレスの1番機が黒煙を噴き出して、投弾コースから離脱していった。


 続く2番機も高角砲弾の弾片によって機体を切り刻まれ、これ以上は持たぬと見たのか、爆弾を投棄して投弾コースから離脱していった。


 2機のドーントレスを撃退したところで、近接火器である25ミリ3連装機銃、同単装機銃が射撃を開始する。25ミリ3連装機銃が発射された瞬間は、天高くに灼熱の槍を突き出しているかのようであり、その「槍」に2機のドーントレスが貫かれた。


 だが、僚機を墜とされ、「翔鶴」も転舵している状況下であったが、残存のドーントレスは投弾を諦めなかった。


 開戦前、海軍内では「贅沢に慣れきったアメリカ人など惰弱であり、我が軍がぶつかれば鎧袖一触である」といった空気が蔓延していたが、城島はそれが全くの誤りであり、日本人に大和魂あれば、アメリカ人にも開拓魂フロンティア・スピリットがあるのだろうという事を、今はっきりと認識していた。


 爆煙を突いて、ドーントレスが「翔鶴」を肉迫にし、心臓を掻きむしりたくなるようなダイブ・ブレーキ音が爆音に変わった直後、城島は敵機が投弾を開始し始めたということを悟った。


 ドーントレスが離脱し始めた時、急速転回をかける「翔鶴」の左舷側に白く長大な水柱が奔騰した。水柱の大きさは凄まじいものであり、いかに「翔鶴」が基準排水量2万トン強の正規空母とは言え、爆弾が命中すれば、ただでは済まないことは明らかであった。


 2発目が「翔鶴」の艦首前方に着弾し、奔騰した水柱に「翔鶴」が突っ込んでいった。水柱に突っ込んだ瞬間、「翔鶴」が大きく振動し、大量の海水が飛行甲板に叩きつけられた。


(どうだ? かわせるか?)


 城島はこのまま「翔鶴」が被弾ゼロで凌ぎきれるかと思ったが、3発目が着弾した瞬間、その考えが甘かった事を城島は無理矢理悟らされる事となった。


 1000ポンドクラスと思われる爆弾が飛行甲板の中央部に吸い込まれたと思いきや、引きちぎられた角材が上空に舞い上がった。第2エレベーターが即座に使い物にならなくなり、続く4発目が飛行甲板を貫通し、格納庫内で炸裂した。


 格納庫内で出撃を待っていた20機以上の零戦が即座に使い物にならなくなり、城島は即座に消火活動の開始を命じた。


「『瑞鶴』被弾! 火災発生!」


 見張り員から悲痛な報告が上げられた。「翔鶴」と第1航空戦隊を組んでいる「瑞鶴」もドーントレスから放たれた1000ポンド爆弾を回避することが出来ず、1発が飛行甲板後部に命中してしまったのだ。


「不味いな・・・。これは・・・」


 即座に事態の深刻さを察した城島は呻き声を上げた。元々この第1航空艦隊には1航戦、2航戦合わせて4隻の空母しか配属されておらず、その内、搭載機数が多い方の2隻が被弾し、使い物にならなくなってしまったのだ。


 米軍の空母から第2次以降の攻撃隊が来襲することを考えると、これから厳しい戦いになることは明らかであった。


「『瑞鶴』より信号。『被害状況知らせ』」


「被弾2、至近弾多数。発着艦不能。火災盛ん。打電しろ」


 城島が電信員に命令し、「瑞鶴」に座乗している1航艦司令部から駆逐艦2隻を付けて現海面から離脱するようにとの命令がきた。


 この海戦における「翔鶴」の戦いは終わったのだった・・・



 同じ頃、戦艦「紀伊」「尾張」「近江」「駿河」「加賀」「土佐」「長門」「陸奥」を中心として構成されている第1艦隊と、巡洋戦艦「富田」「上田」「春日山」「松山」「天城」「赤城」「愛宕」「高雄」を中心として構成されている第2艦隊は来襲が確実視されている米主力艦隊を求めて進撃を続けていた。


 フィリピンの運命を決める大砲撃戦が始まるまで、あと僅かであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――皆さん、お久しぶりです。


「八八艦隊奮戦記 大艦巨砲の彼方」の執筆を再開したいと思います。完結するころには200話を超える長丁場となると思いますが、八八艦隊計画艦を始めとする日米戦艦群の活躍をお楽しみください。


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2022年8月30日 霊凰より







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八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~ 霊凰 @reioudaisyougun

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