第22話 第2次バトル・オブ・プリデン④
1941年8月8日
この時、ポーツマス泊地には、戦艦2隻、巡洋戦艦1隻、巡洋艦8隻、駆逐艦19隻が停泊しており、各艦の艦上ではひっくり返したかのような騒ぎになっていた。
その内の1隻、ネルソン級戦艦「ネルソン」では、「対空戦闘!」の号令が飛び、12センチ単装高角砲、2ポンドポンポン砲、20ミリ連装機銃に多数の機銃員が取り付きつつあった。
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英国王立海軍 ネルソン級戦艦「ネルソン」
全長 216.5メートル
全幅 32.3メートル
基準排水量 33950トン
速力 23.8ノット
兵装 45口径40.6センチ3連装主砲 3基9門
50口径15.2センチ連装砲 6基
45口径10.2センチ連装高角砲 4基
2ポンド8連装ポンポン砲 6基
20ミリ連装機銃 5基
20ミリ単装機銃 58基
同型艦 「ロドネー」
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「接近してくる敵機の機数約50!」
「艦長より航海長。前進微速!」
レーダー室からの報せに対して、「ネルソン」艦長オリバー・クック大佐は、航海長ポール・フレミング少佐に泊地から出るために前進微速を命じたが、何分突然の事であり、艦を出すにはあと10分以上はかかりそうであった。
後方から砲声が聞こえてきた。「ネルソン」よりも一足先に戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」、巡洋戦艦「レパルス」、巡洋艦「ダイドー」「フィービ」「ボナベンチャー」といった諸艦艇が頭上から迫り来る危機に対して応戦を開始したのだ。
「ネルソン」も砲門を開く。高角砲、ポンポン砲、機銃群が一斉に火を噴き、多数の火箭が敵機に向かって突き上がっていった。
多数の艦艇が対空砲火を盛んに放つ様は、追い詰められた獣さながらであり、その直中に飛び込んだ敵機は1機残らずかみ殺されるのではないかと思わせる程であった。
無数の弾片が高空を飛び交い、機銃弾の投網がドイツ軍機を1機、2機と搦め捕る。
燃料タンクを撃ち抜かれた機体は一瞬にして火だるまとなり、風防に一撃を喰らった機体は搭乗員を失い、急速に高度を落としてゆく。1機が撃墜される度に、「ネルソン」の艦上ではお祭りさながらの騒ぎになり、拳を突き上げている兵士や、口笛を吹いている兵士も多数散見された。
「ネルソン」に最初に接近してきた敵機はクックの予想に反して爆撃機ではなかった。
「メッサー!!!」
見張り員が叫び、猛速で接近してくる4機のBf109に対し、機銃群の火箭が集中されるが、反応が僅かに遅れた事もあり、1機のBf109も撃墜することができなかった。
「伏せろ! 本艦頭上に敵戦闘機!」
クックは艦内放送を通じて注意を喚起し、自らも手で頭を守りつつ、その場にしゃがみ込んだ。
Bf109の機首・両翼が閃き、放たれた20ミリ弾、12.7ミリ弾が「ネルソン」の艦上に狙い過たず吸い込まれた。
40センチ主砲に命中した機銃弾は何の被害も及ぼさなかったが、20ミリ機銃に命中した機銃弾は弾倉の誘爆を引き起こし、不運にも体を機銃弾によって貫かれた水兵は、絶叫を上げながら甲板上をのたうち回った。
「敵爆撃機投弾!」
「500ポンドか!? 1000ポンドか!?」
見張り員からの報告が届き、クックは落下してくる爆弾のサイズの確認を求めたが、返答が返ってくる事はなく、爆弾の着弾が始まった。
最初の1発は「ネルソン」の右舷側海面に着弾し、大量の泥を含んだ海水が水柱となって突き上がり、それが崩れようとしたとき、「ネルソン」の艦体が少しずつ動き始めた。
まだ命令を発してから7分程度しか経過していなかったが、フレミング以下の航海室要員が頑張ってくれたおかげで、「ネルソン」は予想よりも早く動き始めたのである。
だが、被弾そのものを回避することは出来なかった。
艦首付近から爆発音と共に破壊音が轟き、クック以下の艦橋要員も凄まじい衝撃によって思わずよろめいた。
「第1砲塔被弾! 旋回不能!」
ゴードン・メタン砲術長から報せが届けられ、それに新たな破壊音が重なった。
今度の衝撃はさっきのよりも格段強烈であった。おそらく艦橋直下に配備されている10.2センチ高角砲群の近くに敵弾1発が着弾したのだろう。
連続する衝撃に振り回され、クックは新たな指示を出すことが出来ず、ただ「ネルソン」の無事のみを願っていた。
不意におどろおどろしい炸裂音が「ネルソン」の右舷側より聞こえてきた。
「駆逐艦1隻に大型爆弾が命中した模様! 轟沈です!」
「くっ・・・!!!」
味方駆逐艦1隻の轟沈が報され、更に新手の敵機が「ネルソン」に殺到してくる様子も報された。
「敵第2波、投弾!」
残存する高角砲・機銃群の必死の応戦によって投弾後の敵機2機を撃墜することには成功したが、艦尾付近に2発の敵弾が立て続けに命中した。
「不味い・・・!!!」
クックが短く叫んだ直後、艦尾から爆炎が噴き上がり、焼け焦げた艦内構造物が多数海面へと落下していった。
「航海長より艦長! 本艦舵故障の模様! 航行の自由を完全に喪失しました!」
フレミングからの悲痛な報告に対し、ショックの余りクックがその場で失神したのは次の瞬間であった・・・
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