第20話 第2次バトル・オブ・プリデン②

1941年8月3日


 ハルトマンを始めとする第8飛行師団の後続を受け持ったのは、ドイツ空軍の部隊ではなく、盟邦イタリア空軍の部隊であった。


「指揮官機より全機へ。敵機はB17。繰り返す、敵機はB17。機数90機!」


 イタリア空軍第25飛行隊隊長エジェーオ・ピットーニ少佐は膝下全機に警報を送り、自らも戦闘準備を整えた。


 イタリア空軍第25飛行隊はドイツの要請に基づいてフランス北部に派遣された部隊であり、装備機は増加試作機G.55であった。


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イタリア海軍 試作戦闘機G.55


全長 9.37メートル

翼幅 11.85メートル

発動機 フィアット 1200馬力

最大速度 時速623キロメートル

兵装 20ミリ機関砲 1門

   13ミリ機銃  4挺

乗員 1名

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 G.55はイタリア空軍の中で「最良の戦闘機」との評を得ている機体であり、量産に移行した暁には、イギリス・地中海から迫ってくる多数の連合軍機を片っ端から叩き落とす役割を期待されていた。


 ピットーニは直卒する7機のG.55を一番左のB17の梯団の上方に誘導した。


「かかれ!」


 ピットーニは号令し、ほぼ同じタイミングでB17数機の機体各部に閃光が走り、無数の赤い曳痕が第1中隊に殺到してきた。


 並の人間ならば反射的に機体を翻してしまいそうであったが、ピットーニは迫り来る機銃弾の暴風雨に構うことなく、機体を突進させた。


 ピットーニ機の照準器の白い環が、B17を捉えた。


 ピットーニはG.55の20ミリ機関砲1門、12.7ミリ機銃4挺を同時に出し惜しみすることなく発射した。


 太い1条の火箭と、細長い4条の火箭が、B17から放たれる機銃弾をはらいのけるようにして突き進み、長大な機体に突き刺さった。


 ピットーニ機の後続の2番機、3番機が立て続けに20ミリ機関砲弾、12.7ミリ機銃弾を撃ち込み、損傷に耐えきれなくなったB17は黒煙を盛大に噴き出して高度を落としていった。

 

 ピットーニが急降下から機体を立て直した時、中隊の約半数の機体がはぐれていた。


「ドイツ軍の皆さんに露払いをやって貰っているんだ。鈍重なB17如き全機墜とさなければ合わせる顔がない」


 そう言ったピットーニは、後続の3機を率いて、G.55の機首を新たなB17に向けた。


 再びB17から機銃弾が発射され、ピットーニ機にも3、4発が命中する。


 だが、G.55は火を噴くことも、機体の一部が欠損して墜落することもなかった。G.55はそれ以前のイタリア軍機と比較して防御力が著しく強化されており、その強化された防御力が被弾からピットーニを守ったのである。


 「空の要塞」がピットーニ機の間近に迫り、ピットーニは機銃の発射把柄を握った。


 今度はピットーニ機から放たれた機銃弾は殆どB17の機体を掠めるだけに終わったが、それでも2基の機銃座を沈黙に追い込み、後続機への道を開いた。


 止めは2番機以降に任せ、ピットーニ機は最高速度を保ったまま、敵機の射程外へと離脱した。


 水平飛行に戻し、後続の3機の無事を確認したピットーニの目に、乱戦の巷と化している空戦の戦場が飛び込んできた。


 戦闘開始前、緊密な陣形を形成していた3隊の梯団はそのいずれもが大きく崩されており、1隊は消滅しかかっている。


 G.55にも火を噴く機体があるが、その数は極めて少数であり、B17に対するG.55の優位性が早くも十二分に証明されていた。


 奮戦する味方機を見て闘志を奮起させられたピットーニは、B17がくるであろう空域で待ち構え、斜め単横陣を組んでいるB17が真下にくるまで待って、操縦桿を奥に押し込んだ。


 視界が一気に回転し、G.55の機首がほぼ真下を向いた。


 エンジン・スロットルをフルに開き、後僅かで激突するのではないかという距離まで彼我の位置が縮まってゆき、ピットーニは機銃弾を放った。


 ピットーニ機から放たれた5条の火箭は、B17の左主翼の付け根付近に集中的に命中し、激しい火花が散る。大量のジュラルミンの破片が空中へとばらまかれ、空気抵抗に耐えきれなくなった主翼が後方へと大きく折れ曲がり、吹っ飛んだ。


 一瞬にして左右のバランスを失った機体は、右に大きく傾きながら、視界外に消えてゆく。


 ピットーニ機のバックミラーに火焔が映り、G.55が急降下によって離脱していく姿が映った。


 ピットーニが1機撃墜の戦果を挙げている内に、2番機以降の機体も他のB17を撃墜したのだろう。


「機銃弾切れか・・・」


 ピットーニは呟いた。G.55に装備されている20ミリ機関砲、13ミリ機銃は威力は大きいものの、装弾数が7.7ミリ機銃と比べて少ないため、直ぐに弾切れになってしまうのである。


 戦闘は急速に終結しつつある。どのG.55もピットーニ機と似たり寄ったりの状況であり、これ以上戦闘を継続することが出来ないのだろう。


 ピットーニは第1中隊の残存機を集結させ、集結後、戦場からの離脱を開始した。


 90機いたB17は40機以上が撃墜されており、健全な機体は数えるほどしか残っていなかった。


 後は各地の高角砲連隊の奮戦を期待するのみであった・・・




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