第2章 欧州の戦い
第19話 第2次バトル・オブ・プリデン①
1941年8月3日
「右前方20海里、敵機!」
ドイツ空軍第5航空艦隊第8飛行師団所属のエーリヒ・アルフレート・ハルトマン大尉が搭乗するメッサーシュミットBf109の機上レシーバーに、指揮所からの報告が届いた。
2ヶ月前から今日にかけてフランス北部には多数のレーダー・サイトが増設されており、ハルトマンに敵機の位置情報を送ってきたのだ。
5分近くが経過した時、第8飛行師団の面前に敵機の大軍が出現した。30機程度の梯団が6隊、計180基といった所であり、迎撃に上がったBf109、90機の約2倍の数であった。
「さて、墜としてやるか。最低5機だ」
ハルトマンの撃墜機数は91機。もう少しで100機に届くかといった所であり、ハルトマン自身も英空軍が欧州に攻め込んでくるのを、手をくすねて待っていたのであった。
「第8飛行師団は戦闘機を相手取れ!」
飛行長からの命令が入った直後、ハルトマンはエンジン・スロットルを開いた。1800馬力を誇るダイムラー・ベンツDB605エンジンが高らかに咆哮し、Bf109の機体が一気に加速し始めた。
ハルトマンは小隊長であり、同じ小隊に所属している3機のBf109もハルトマン機に後続している。
英軍側もBf109の動きに反応するかのように変化が生じた。6隊の梯団の内、3隊が前に出てきた。
彼我の距離が縮まるにつれ、敵機の形状がはっきりとしてきた。英空軍の主力戦闘機であり、Bf109のライバルとも目されているスピットファイアであった。
開戦早々、ハルトマン機に3機のスピットファイアが勝負を挑んできた。
スピットファイアの両翼に発射炎が閃き、無数の機銃弾が青白い曳痕となって殺到するが、その時には、ハルトマン機はそこにはいない。
旋回性能に優れるBf109の特徴を生かしてスピットファイアの後方に回り込み、間髪入れずにハルトマンは機銃の発射レバーを握った。
20ミリ機関砲、13ミリ機銃から機銃弾が発射され、スピットファイア2番機、3番機に立て続けに突き刺さった。
エンジンを破壊されたスピットファイアはその場で木っ端微塵に爆散し、プロペラを粉砕されたスピットファイアは推進力を喪失して墜落していった。
ハルトマンは空戦中に後方を振り返って僚機の様子を確認することはない。ただ目の前の敵機を撃墜することに全力を挙げるのみであった。
ハルトマンは時速621キロメートルの速度を生かして、新たなスピットファイアに狙いを定めた。
ハルトマン機の接近に気がついたスピットファイアが翼を上下に振って回避を試みるが、歴戦のハルトマンにはその動きが鈍牛そのものにしか見えなかった。
未来位置を予測して放たれた機銃弾は狙い過たずスピットファイアの機体に突き刺さり、コックピット内の搭乗員を射殺した。
早くも3機を撃墜したハルトマンであったが、ほぼ同じタイミングで小隊の3番機がスピットファイアの銃弾を受けて墜落していく様が目に入ってきた。
小隊の内、1機を失うのは痛かったが、今は3番機の搭乗員が無事に機外へパラシュート脱出をしていることを祈るのみであった。
スピットファイアが後方から迫ってきていた。機数は2機であり、ハルトマン機を挟み込もうとしているのを伺わせた。
「甘いな」
そう呟いたハルトマンは操縦桿を目一杯引きつけた。
Bf109の機体が機首を上向け、上昇を開始し、ハルトマン機の機位を見失ったスピットファイア1番機の動きに乱れが生じた瞬間を、ハルトマンは見逃さなかった。
挟み撃ちに失敗したことを悟ったスピットファイアは急降下によって離脱しようとしたが、この動きもハルトマンにしたら遅すぎた。
20ミリ機関砲弾がスピットファイアの機体後部を破壊し、ささくれだった部位が露出するのが確認できた。そのスピットファイアが撃墜に至るかは微妙な所であったが、少なくともこれ以上の空戦の続行は不可能であるように思われた。
機体を水平方向に戻したハルトマンは周囲の様子を確認した。
Bf109、スピットファイア両者に被弾・撃墜機は出ているようであったが、空中戦全体としては、ドイツ側の方が優勢であった。昨年のバトル・オブ・プリデンで迎撃側の英空軍が優勢であったように、空中戦というのは、やはり迎撃側の方が圧倒的に優位なのであろう。
「優位に内に多数の敵機を墜とす。それがハルトマン流だ」
そう呟いたハルトマンはスピットファイアを探し求め、3機のスピットファイアの小隊を発見した。小隊が3機しかいない事を見ると、1機が既に撃墜か、はぐれてしまったのだろうが、ハルトマンとしてはそんなことはどうでも良かった。
3機のスピットファイアがハルトマンを搦め捕るべく機銃弾を相次いでぶっ放すが、ハルトマンは急角度の水平旋回やスロー・ロールによって敵機の照準を巧みにずらし、13ミリ弾を叩き込んだ。
13ミリ弾がスピットファイアの胴体部に多数命中し、そのスピットファイアは力尽きたように墜落していった。
やがて、飛行長から「全機離脱。爆撃機は後続の部隊に任せるぞ」との命令が入ってきたが、機銃弾がまだ6割以上残っている事を確認したハルトマンは、新たな空中戦の戦場に身を投じていったのであった・・・
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