第11話 水上の狩人②

1941年7月22日


 3水戦に砲門を向けられたのは、オハマ級軽巡洋艦3隻から成る第11巡洋艦戦隊であった。


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合衆国海軍 オハマ級軽巡洋艦「ミルウォーキー」


全長 169.4メートル

全幅 16.9メートル

基準排水量 7050トン

速力 35.0ノット

兵装 53口径15.2センチ連装速射砲 2基4門

   53口径15.2センチ単装速射砲 6基6門

   7.62センチ単装高角砲 8基8門

同型艦 「オハマ」「シンシナティ」「ローリー」「デトロイト」

    「リッチモンド」「コンコード」「トレントン」「マーブルヘッド」

    「メンフィス」

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 2番艦の「ミルウォーキー」の艦橋には、「第1戦艦戦隊、敵戦艦2隻撃沈」「『オハマ』被弾多数。戦闘不能」との報告が届いており、フォレスト・B・ロイヤル艦長は、「オハマ」から「ミルウォーキー」に砲撃を切り替えようとしている敵1番艦を睨み付けていた。


「砲術より艦橋。第3射、敵1番艦に命中弾1。次より斉射に移行します」


 砲術長エンツィ・グーシー中佐が報せ、程なくして連装、単装計10門の15.2センチ砲から火焔がほとばしった。


 口径152ミリ、砲身長7600ミリの大きさを誇る15.2センチ砲から、初速850メートル/秒の速さで重さ70トンの鉄の塊が発射され、砲声が周囲の大気を震わせる。


 発射間隔は4秒から6秒。発射炎が「ミルウォーキー」の艦上を埋め尽くし、薬莢が海面へと落下してゆく。


 敵1番艦が砲撃を再開し、2番艦以降のフブキ・タイプと思われる駆逐艦も砲撃を再開する。


 「ミルウォーキー」の第1斉射弾が落下する。


 着弾の瞬間、敵1番艦が水柱によって隠され、一撃轟沈を期待させるような情景が現出する。


「敵1番艦との距離8000!」との報告が見張り長トーマス・ロバーツ大尉から上げられた直後、敵1番艦が水柱を切り裂くようにして姿を現した。


 被弾の直前に、「ミルウォーキー」に対して14センチ砲弾を放った第1主砲、第2主砲は、鉄屑の堆積場に変貌しており、艦内から大量の黒煙が噴出していた。


 「ミルウォーキー」の第1斉射弾は、敵1番艦の主砲2基を一時に破壊し、大損害を与えたのだ。


「よし!」


 戦果を見たロイヤルは拳を握りしめ、「ミルウォーキー」が第5斉射を放った。


 衝撃が艦内を包み込み、艦齢15年を優に超える「ミルウォーキー」の艦体を振動させる。


 敵1番艦から放たれた砲弾が命中したのは、次の瞬間であった。


 至近弾による水中爆発のエネルギーによって艦底部が突き上げられた――ロイヤルがそう思った直後、艦橋直下に設置されている4番単装高角砲から閃光が発せられ、大量の破片が四方八方へと高速で飛び散った。


 飛び散った破片は甲板上にいた多数の乗員を殺傷し、1拍置いて艦上十数カ所から絶叫と悲鳴が上がった。


「4番高角砲損傷!」


との報告がグーシーから報され、被弾に悶える「ミルウォーキー」の頭上を多数の15.2センチ砲弾が高速で通過していった。


 「ミルウォーキー」に続いて、3番艦の「シンシナティ」も敵1番艦に命中弾を得、斉射に移行したのだ。


「敵1番艦に命中弾多数! 損傷大の模様!」


 ロバーツが報せ、ロイヤルも双眼鏡を敵1番艦の方向に向けた。


 敵1番艦の火災は前部から後部へと急速に拡大しつつあり、敵1番艦の速力も徐々に低下しているように見えた。


 「ミルウォーキー」「シンシナティ」から放たれた15.2センチ砲弾は敵1番艦の艦上だけではなく、艦底部も相当痛めつけたようである。


 敵2番艦~敵8番艦が放った砲弾が「ミルウォーキー」の前方に纏まって着弾し、多数の水柱を奔騰し、「ミルウォーキー」の艦首が束の間、持ち上がる。


 数だけは多いが、全体的に狙いが甘い。敵2番艦以降の艦は、敵1番艦から噴き上がる黒煙によって射撃の照準が困難になっているのだろう。


 そして、「ミルウォーキー」の第5斉射弾の内、3発が命中した時、敵1番艦の命運は決した。


 敵1番艦は力尽きたように右舷に急速に傾いてゆき、敵2番艦が敵1番艦を追い抜かし、その直後に偶然ではあったが、「シンシナティ」から放たれた15.2センチ砲弾が敵2番艦、敵3番艦に相次いで命中した。


 この時点で彼我の部隊の相対距離は1000メートルを切っており、この至近距離から放たれた15.2センチ砲弾を駆逐艦では到底耐えきることは出来なかった。


 2隻とも誘爆を立て続けに起こし、主砲発射時とは比較にならないほどの強烈な閃光を発したかと思いきや、海面上から消失していた。


「敵部隊、本艦横を通過します!」


 ロバーツが報せ、敵艦を射界に捉えられなくなった15.2センチ砲が順次砲撃を中止していった。艦の後部の15.2センチ砲はまだ砲撃を継続しているようであったが、この状況では、もう命中弾は望めないだろう。


「後続の『シンシナティ』に伝えろ! これより敵戦艦部隊に雷撃を敢行するとな!」


 ロイヤルは通信室に命じ、頭の中で、「ミルウォーキー」「シンシナティ」か放たれた多数の魚雷が、敵戦艦の下腹を抉る様を想像したが、その機会は永久に訪れる事はなかった。


 敵部隊とすれ違ってから、1分後、「ミルウォーキー」の艦底部が破壊音と共に急に突き上がり、立ち昇った火柱がロイヤル以下の「ミルウォーキー」全乗員をひとしなみに飲み込んだのだった・・・





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