第5話 開戦の号砲②
1941年7月22日
敵1番艦の艦上に直撃弾炸裂の閃光が走った様子は、「伊勢」の艦橋からも認められた。
「観測機より受信。『敵1番艦に命中弾1』」
「砲術より艦長。次より斉射!」
観測機からの報告に続いて、「伊勢」砲術長牟田口格郎中佐が斉射への移行を報せてくる。
「勝てるぞ! 畳みかけろ!」
高柳儀八「伊勢」艦長は弾んだ声で発破をかけ、主砲発射を告げるブザーが鳴り、「伊勢」が敵1番艦に対する第1斉射を放った。
6基12門の砲口から巨大な火焔が湧き出し、交互撃ち方のそれに倍する衝撃が、艦底部から突き上がってきた。
砲声が耳朶を打ち、主砲発射時の反動が、基準排水量38662トンの巨艦を激しく揺るがした。
敵1番艦の艦上にも、主砲発射を示す発射炎が躍る。
「持てよ『日向』・・・」
高柳は敵1番艦の40センチ主砲弾を繰り返し撃ち込まれている「日向」の無事を心から願った。
「日向」も「伊勢」と同様、主砲が長砲身の物に換装されていたが、防御力は36センチ砲弾にしか対応していない。運が悪ければ1発轟沈すら有り得るため、そうなる前に敵1番艦を撃破・撃沈する必要があった。
12発の36センチ砲弾が2万メートルの距離を一飛びし、待つこと暫し、敵1番艦の周囲に落下する。
「どうだ? 主砲塔の1基くらいは破壊できたか?」
高柳は、敵1番艦に命中した36センチ砲弾が、少しでも多くの損害を与えている事を願い、敵1番艦が姿を現すその瞬間を待った。
奔騰した水柱が崩れ、敵1番艦の姿が露わになり、敵1番艦の艦上に橙色の光が揺らめいているのが確認できた。
火災煙も弾着前より増えていた。
「観測機より受信。『命中弾2』!」
敵1番艦の第2射が唸りを上げて、「日向」に飛来する。
今度も命中弾はない。
敵弾は「日向」を飛び越えて、左舷側に着弾したようであり、艦上構造物が破壊されたり、主砲塔が被弾損傷するといった事態は発生しなかった。
「伊勢」が第2斉射を放つ。
36センチ砲12門発射の砲声が轟き、艦体が衝撃を受け止める。
「敵1番艦に新たな爆炎! 『日向』も命中弾を与えた模様!」
4回に渡り空振りを繰り返した「日向」であったが、ここにきて敵1番艦に対して命中弾を得たのだ。
「よし・・・!!」
「日向」が命中弾を得た事を知った高柳は拳を握りしめた。
「日向」も交互撃ち方から斉射に移行し、これからは2艦合計24発の長砲身砲から放たれた36センチ砲弾が敵1番艦に殺到するのである。
レキシントン級巡洋戦艦がいくら40センチ砲に対応した防御力を持っているといっても、手数で押し切る事ができるだろうと高柳は楽観視し始めた。
だが・・・
敵3番艦の第3射が飛来した時、高柳はそれが間違っているということを悟った。
40センチ砲弾が「日向」を囲い込むように着弾し、高柳には「日向」の艦尾が一瞬、大きく沈み込み、次いで艦全体が持ち上がったかのように見えた。
「『日向』・・・」
水柱が崩れた時、「日向」の第6主砲は文字通り消滅していた。敵1番艦の第3射弾4発の内、1発が第6主砲の側面に直撃し、第6主砲を海面下に叩き落としたのであった。
幸い第6弾火薬庫への注水は間一髪で間に合ったようであり、36センチ砲弾の誘爆からの轟沈という最悪の事態だけは避けることができたようであったが、「日向」はまだ斉射の1回も撃たない内に、主砲火力の6分の1を喪失してしまったのである。
「伊勢」の第2斉射弾が降り注ぎ、敵1番艦の姿が、束の間見えなくなった。
敵戦艦轟沈を期待する光景であったが、そうではない。斉射弾が敵1番艦を包み込むように着弾し、奔騰した水柱が敵1番艦の姿を隠したのだ。
「砲術より艦長。命中弾3!」
「どうだ!?」
高柳は身を乗り出して戦果を確認した。
「伊勢」が与えた命中弾はこれで6発。「日向」の命中弾を合計すると計7発となる。
36センチ砲搭載艦ならば、とっくにスクラップになっているほどの命中弾を敵1番艦に与えており、レキシントン級巡洋戦艦と言えども、そろそろ主砲の1基くらいは使用不能になっていても良い頃であった。
水柱が崩れ、敵1番艦が姿を現す。
敵1番艦の火災はさっきと比べて特段激しくなったようには見えなかった。「伊勢」が与えた命中弾3発は、ことごとく敵1番艦の主要防御装甲によって弾き返されたのかもしれなかった。
そして、敵1番艦の艦上に新たな発射炎が閃き、艦を覆っていた火災煙が爆風によって吹き飛ばされた。光量は、これまでのものとは比較にならない。敵1番艦は「日向」を撃沈に追い込むべく、斉射に移行したのである。
「日向」も負けてはいない。5基10門に減少してしまった36センチ主砲を振りかざして第1斉射弾を放つ。
「伊勢」は敵1番艦に対する第4斉射を放った。
計22発の36センチ砲弾が敵1番艦に向けて殺到し、それを押し返すかのように敵1番艦が第2斉射を放つ。
弾着と同時に、敵1番艦の艦上に火焔が湧き出した。これまでの命中弾は後部に集中していたが、今度は前部に集中的に36センチ砲弾が命中した。
奔騰した水柱によって敵1番艦の姿が隠されたが、高柳は最低でも4発の36センチ砲弾が命中したのを確信していた。
「砲術より艦長。敵1番艦の主砲1基の破壊を確認!」
「了解!」
「日向」の被弾によって追い込まれ気味だった「伊勢」「日向」であったが、ここにきて、敵1番艦の主砲塔1基を破壊し、戦況を五分に戻したのだった・・・
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次回、レキシントン級巡洋戦艦の猛攻が5戦隊を襲う――!!!
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2022年4月5日 霊凰より
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