愛対

彼岸キョウカ

愛対

 小さい頃からキラキラした人が好きだった。自分を顧みずに戦う魔法少女やヒーロー。どんなに辛いことがあっても、前を向いて自分の夢に向かって頑張る人。そんな人を見るたびに、心がキラキラでいっぱいになったし、私もキラキラした人になりたい、あわよくば私自身がキラキラになりたいと思った。

 いつからか、自分が嫌いだった。

 直接的な原因はない。ただ生きてきて、他人がキラキラ輝いている所を見たり他人に比べられたり他人と比べたり、そんな時に少し、また少し自分に絶望して擦り傷が増えてしまっただけだ。

「やっほー。元気してる?」

 目の前には、にやにやと気持ち悪い微笑みを顔面に張り付けたワタシ。

「……別に。」

 私を見つめているはずなのに、私という存在を見ていないかのようで、目を合わせていると黒目の奥に広がる闇に取り残されてしまいそうで、私は下を向いた。

 「あれぇ? 下なんか向いてどうしちゃったの? 何か嫌なことでもあった?」

 優しそうな声で私に一歩近づく。

 「心配していないくせに、そんなこと言わないで」

 他人が落ち込んでいたら、心配をする。慰める。それが対人関係における正しいリアクションなのだ。心の底ではめんどくさいとか、自業自得だろとか思っても決して口にしてはいけない。なぜならそれは正しくないから。そう思って、私はいつも他人が落ち込んでいたら心配してきた。

 「あっははっ。じゃあ、どうしてほしいの? あたしと愚痴でも言い合う? 愚痴ってすっきりするし自分の正義をぶん回せるから楽しいよね~」

 正義には正しいという漢字が入っているけど、正義って100%正しいわけじゃないと思う。

 「私は、愚痴を言いたくない。キラキラになりたいから、誰かに悪い感情を持ちたくない」

 私がそう言った途端、ワタシから微笑みが消えた。

 「あんたが言う悪い感情って何なの? 誰かの言動に迷惑したり、嫌な気持ちになったり、怒ったり、嫉妬したり、それのどこが悪いのよ?」

 どこが悪いと聞かれると、わからなかった。でも私は嫌なんだ。私はキラキラになりたいから、あなたが邪魔なんだ。黙っている私にさらにイラついたのか、ワタシが続ける。

 「ってか、あんたってあたしを認識してからあたしのこと嫌いすぎじゃない? そもそも自分のこと嫌いなヤツが誰かに負の感情を抱かないようにできると思う? あんまりバカなこと言ってると——」

 「ぅぐっ」

 両手で私の首を絞める。

 「——殺すよ?」

 く、るしい。息ができ、ない。

 「あんたとあたしは2人で1人なの。それにね、良いこと教えてあげるけど、光と闇も2つで1つなのよ。光が強ければ強いほど、闇は濃くなる。あんたが光になろうともがけばもがく程、あたしからは逃げられない。」

 すっと、私の首を絞めるのをやめた。立っている力もなく座り込んでしまった私は、急いで身体に酸素を送ろうと肩で息をした。

 「はあっ、はぁっ、はぁ……それ、でも」

 ワタシをきっと睨む。

 「私は、変わってみせる。あなたがいなくても生きていける、キラキラしたわたしになってみせる」

 「ふふっ……あっははははははははっ!!!! ほんっと、バカだよねあんた。まぁいいわ。いつかあんたがあたしを忘れた頃に、あたしがいなくても生きていけるきらきらになれたと思いあがった時に、殺してあげるわ」

 そう言い終わった途端、力強い蹴りを入れられ吹っ飛んだ。痛い。

 「じゃあね。また、会いましょう」

 ワタシは闇に溶け込むように消えた。

 痛む身体を抱きかかえるようになんとか立ち上がる。

 たとえ何年かかろうとも、私は絶対に、ワタシとさよならしてやる。

 「……私はキラキラになるんだ」

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