第4話 二本足の獲物

 翌年、国王陛下主催の狩猟会に、また、パーカーはいた。


仲間と一緒に、あのロバートを待っていたが、やってこない。王太子様はいらっしゃるのが遠目に見えるが、控えているのは別の若者だ。いい加減、あちこち見渡すのに疲れてきたころだった。


「勢子の頭のパーカーさんを探しているのですが」

声をかけてきたのは、別の少年だった。

「パーカーは俺だ。お前は誰だ」

「ロバートに、あなたを探せと言われてきたものです。エリックと申します」

「ロバートはどうした」

「アレキサンダー様を庇って怪我をしました」

「おい、ロバートは、無事なんだろうな」

パーカーは思わずエリックと名乗った少年に詰め寄った。


 ロバートとは、一度会っただけだ。弓の腕前は一人前の狩人のようだった。貴族に仕えているくせに、村の狩人のように血抜きと解体をこなしてしまう若造には、親近感をもっていた。あのロバートの怪我だ。パーカーは心配になった。


「命は無事です。私が、不甲斐なかったばかりに」

エリックは歯を食いしばり、それ以上言わなかった。

「そうか」

死んでないなら良かったが、良からぬ企みというのは、今も続いているのだ。


「不敬きわまりないことに、王太子様のお命を狙う方は少なくないのです」

エリックの目が鋭くなった。

「今回も、そのような輩が紛れ込んでいるでしょう。露骨な嫌がらせや、王太子様の御身を狙う輩がいてもおかしくありません。ロバートに、パーカーという名の勢子頭を頼れと言われました。獲物を分けるように言われております。大変申し訳ありませんが、私はロバートほどの腕はありません。成果はあまり期待できないでしょう。分け前は、来年、ロバートの成果に期待なさってください」


 エリックは思いつめたような表情をしていた。

「私は、ロバートに大怪我をさせた輩の仲間を仕留めたい。この場にいるはずです。生け捕りにして、誰に雇われたか吐かせてみせます」


 丁寧な口調だが、エリックは明らかに冷静さを欠いていた。こういう若造は、危険な目にあいやすい。パーカーは一肌脱いでやることにした。


「おう、そう言うことなら協力するぜ」

勝手に返事をした若手の頭をパーカーは叩いた。


「なんだよ。パーカー、だって去年の冬を越せたのは、あの時の獲物のおかげじゃねぇかよ」

「そうだ。だから、お前が勝手に返事をするな。返事をするのは、頭の俺だ」


パーカーは仲間たちを見た。

「お前ら、去年の約束を覚えているか」

「おぉ」

「去年頂いた分け前の恩を覚えているか」

「おぉ」

「俺達は、恩知らずか」

「違う」

「んなわきゃねぇだろ」

「今年、俺達はどなたのために勢子をする」

「王太子様だ」

「もちろんだ」

「来年は、俺達はどなたのために勢子をする」

「もちろん、王太子様だ」

「わかったことを聞くんじゃねえよ、頭」

仲間たちの声を背に、パーカーはエリックに向き直った。


「こういうわけだ。お前さん。威勢がいいお前さんには悪いが、お前はこの辺りの地形も何も知らねぇ。あぶねぇから、王太子様のところで、狩りをしろ。俺達は冬、村では狩人だ。見かけねぇ奴は、俺たちが罠にかけてやるから、お前は王太子様をお守りしたほうがいい。俺たち勢子は、ここを知っている。元気な若造には勢子をやらせる。まぁ、任せておけ。二本足だろうが、四本脚だろうが、獲物は獲物だ」


 パーカーの言葉に、エリックも少し冷静になったらしい。

「二本足の獲物ですか。わかりました。あなた方にお任せしましょう。確かに、私はこの辺りのことを、何も知りません。アレキサンダー様を御側でお守りします。では、二本足の獲物はよろしくお願いいたします。私はアレキサンダー様の名誉のために、四本脚を仕留めます」


 エリックが立ち去った後、パーカーは年長者を集めた。皆、そろそろ走り回るのが辛い年齢だ。

「たまには、珍しい二本足の獲物を罠にかけてやろう」

「走り回るだけが能じゃねぇって、若造に見せつけてやらんとな」


 その年、パーカー達熟練の男達は、罠を使って、狩りの獲物としては大変珍しい二本足を五匹(人)、生け捕りにした。鳴き声も随分と珍しいものだった。もっとも、猿轡をかませたから、珍しい鳴き声もあまりよく聞けなかった。


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