第2話 腕は良いが随分変わったお二人

 気持ちよいくらいの狩りだった。

「お前、やるなぁ。なかなかじゃねえか。ロバート」

「そうおっしゃっていただけると、嬉しいですね。ありがとうございます」

パーカーの言葉に、ロバートが答えた。


 地形、風向き、この時期に多い獲物をパーカー達はロバートに教えてやった。ロバートと彼の主は、パーカー達の知識をもとに、上手く動き、パーカー達が追い込んだ獲物を次々と仕留めて行った。見ていて本当に、気持ちが良いくらいの腕前だった。


「狩人のあなた方に褒めていただけると、幸いです。主の名誉を守ることができました。あなた方のご協力のおかげです」

「ロバート、お前と主の腕前だろ。大したもんだ」

「追い込んだ獲物を、あれだけ気持ちよく仕留めてくれりゃ、こっちもやりがいがあるってもんだ」

勢子達の言葉に、ロバートが微笑んだ。

「ありがとうございます」


 よからぬ企みのために、やってきたらしい見慣れない連中達は、パーカーの仲間が猟犬をけしかけて追い回し、早々に疲れ果てさせてやった。ざま見ろってなもんである。この辺りでの勢子は、勢子頭のパーカーと仲間の仕事なのだ。余所者のくせに邪魔しようなど、図々しいことこの上ない。


 仕留めた獲物は、国王陛下の前で披露した後だ。既に、血抜きと解体が始まっていた。

「なぁ、ロバート本当に半分もらっていいのか。随分あるぞ」

なにせ、他の貴族に対して嫌味になりかねないと、獲物の一部は、国王陛下にすら披露しなかったほどだ。

「えぇ、半分よりも多く持って帰っていただいても構わないくらいです。勢子のあなた方のおかげで、予想外の成果を上げることができましたから」

「お前、随分、気前がいいなぁ」

「そうでしょうか」


 そう言いながら、解体を手伝おうとしたロバートにパーカーは慌てた。

「いやいや、お前さんにそんなことさせられねぇから」

「お気遣いなく。育った屋敷では、血抜きも解体もやっておりました」

本気で手伝うつもりのロバートに、パーカーも、なんと言ったものかと考えた時だった。


「ロバート」

少年の声がした。

「アレキサンダー様」

「その者たちが、今日の勢子か」

「はい」


 なんと、王太子様が自ら獲物の解体現場にいらっしゃった。獲物の解体など、高貴な方々にお見せするものではない。パーカー達も慌てた。

「今日は世話になった。久しぶりの狩りだったが、今日の成果はお前達のおかげでもある。礼を言う」

「あ、ありがとうございます」


 獲物の血まみれのままの姿で、高貴な方のお目に触れていいものかと迷いつつも、パーカー達は頭を下げた。

「手伝おうか」

「そうですね。手が多い方がよいでしょう」

王太子様とロバートの会話にパーカーは慌てた。


「いえいえ、お手伝いは駄目です。申し訳ありません。そんな、お高貴なお方にですね、させられません」

滅多にしない丁寧な言葉遣いに、パーカーは舌を噛みそうになった。


「なぜ。毎年手伝っていたが。獲物の始末は、狩った者の責任でもあるだろう」

それは狩人の話だ。お貴族様、王族様は違うのだ。

「殿下、恐れながら、私達、勢子の仕事です、ぜひ、どうか、あの」

手を出さないでくれと、丁寧に言うにはどうしたらよいのだろう。パーカーは必死に考えた。


「アレキサンダー様、彼らには彼らのやり方があるようですから、ここは彼らの言う通り、私達は手出しを控えましょう。それより、持ち帰る獲物を決めませんか。半分と約束しましたが、これでは厨房に迷惑になりそうです」

「あぁ、マシューに、またかと言われそうだな」

既に一言、言ってくれているらしいマシューとかいう誰かと、気を利かせてくれたロバートに、パーカーは感謝した。

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