第1話 生意気な若造

 毎年秋の国王陛下主催の狩猟会ともなると、集められる勢子は多い。


「見慣れねぇ顔が多くねぇか」


 勢子の頭、パーカーは気心の知れた仲間と顔を見合わせた。周辺の村々から集められるとは言え、毎年同じような面子が揃うから、全員顔見知りのはずだった。パーカーは狩りの腕を買われ、毎年勢子頭として、複数の村から集まってきた男たちを束ねていた。だからパーカーが顔を知らない勢子などいないはずだ。その逆もそうだ。


 今年は、村で畑を耕し、冬に狩りをしている自分達とは、明らかに雰囲気の異なる連中がやたらと目についた。勢子と言いながら、勢子頭のパーカーに挨拶にも来ず、勝手に群れて何か話をしている。


「ありゃなにか企んでるんじゃねぇか」

狩猟会は貴族の社交の場だ。時折物騒なこともある。

「俺たちを巻き込まないで欲しいもんだ」

気心知れた狩人の仲間たちとため息をついたときだ。


「その件で、一つ相談があります。勢子の頭はあなたでしょうか」

突然声を掛けられ、パーカー達は振り返った。見慣れない少年がいた。

「お前、猟犬はどうした」

番犬も兼ねているはずの猟犬達が、少年の足元に纏わりついていた。

「懐かれてしまいました」

そう簡単に、他人に懐くはずがない猟犬達が、見ず知らずの少年に愛嬌を振りまいている。


「そうかい。で何の用だ」

猟犬を手懐けられる程度には、犬のことをよく知っているのだろう。パーカーは少年の話を聞いてみることにした。

「先ほど、見慣れない方々がいるとおっしゃっておられるのを耳にしました。実はこの狩猟会で、よからぬ企みがあるのです。おそらくですが、あなた方にとって見慣れない方々は、その企みに関わっておられます」

「ンな企みなんざ知らねぇ。俺達は、勢子として集められただけだ」

「えぇ、ですから勢子のあなた方にお願いがあります。企みと言っても、せいぜい私の主に恥をかかせようというくらいでしょうから。私の主と、私のところにも、普段通り獲物を追い込んでいただきたいのです」

「んあ。優遇しろってか」

「いいえ。不利にならないようにしていただけましたら結構です。あとはこちらの責任です」

「お前、若いのに随分と自信があるようだな」

「いえ、まさか。獲物が無くては狩りようもないので、それを避けたいだけです」

「そんなこと言って、見返りはあるんだろうな」

「獲れた獲物の半分は差し上げますよ」


 少年の言葉に、パーカーを含めた勢子達が腹を抱えて笑った。

「随分な自信だな、若造」

「獲物が取れなきゃ何も無しじゃねえか」

散々笑ったパーカーたちが、一息ついた時だった。


「田舎の屋敷で育ちました。屋敷では、これ以上獲物は要らないと断られる程度には、狩っておりました。もっとも、ここは地形や風向きもよく知りませんので、今までのようにはいかないでしょうが」

少年の言葉に、パーカーたちは笑いを収めた。

「おい、お前、それは本当か」

「嘘などついても仕方ありません」


 弓を射るだけでは狩りはできない。地形や風向きを知る必要がある。パーカーたち、生きるために狩りをするものたちが、社交のために狩猟する貴族を、内心面白く思っていない理由の一つだ。


「お前がそこまで言うなら、地形もこの時期の風向きも教えてやる。お前の主も連れてこい」

「それが、主は彼方に居られまして」

少年の指した先をみて、パーカーたちは目が点になった。

「おい、あの天幕って、王太子様じゃねえか」

「えぇ。そうです。私はロバート。王太子様にお仕えする者です」

「なんで、王太子様に恥なんざかかせようって企む連中がいるんだ」

「あの方が王太子様となられることに、反対しておられる方々がおられるのです。些細な嫌がらせもさんざんありました。流石に狩猟会となっては、私個人での対応は難しいのです。勢子のあなた方に、ご協力をお願いするために、参りました」


 些細な嫌がらせに対応してきたと言う少年、ロバートを、パーカーは改めて観察した。確かに腰に差した剣は使い込まれているし、身のこなしに妙に隙が無い。弓も手になじんでいるようだ。

「おい、若造じゃねぇ、ロバート、獲物確かに半分よこせよ」

「お前の腕は確かなんだろうな」

「他の方々の腕を存じ上げませんので何とも申し上げられません。ご期待に沿えないようでしたら、途中でこの話はなかったことにしていただいても結構です」


 挑発的な提案に、パーカーはかけてみることにした。

「上等じゃねぇか。お前の話乗ってやる。俺はパーカーだ」

 

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