第13話 懇願する者
結局、アレキサンダーはまた、幼い二人を伴いロバートの病室を訪れた。今回は、どうしても同行したいと言う侍女も一緒で三人だ。罪人ではない侍女にまで縄をかけるのは気が引けたが、他に方法はなかった。
アルフレッドには最初、全く動けないロバートの部屋に、信用できない大人を入れるのは、絶対に避けるべきだと言われた。結局は、アルフレッドはアレキサンダーのわがままに付き合ってくれた。
その代わり今回はアレキサンダーに付き添う護衛は二名になり、ロバートの部屋にも、護衛が手配されることになった。
「アレキサンダー様」
相変わらず身を起こせないロバートに、呆れた顔を向けられ、アレキサンダーもさすがに、ばつが悪くなった。
「先日、申し上げたことをお忘れですか」
今日は、ロバートの病室に、手を縛られたままの三人を入らせた。ロバートの部屋には、布で顔を隠した黒尽くめの男たちがいた。護衛ではあるが、王国の影だ。影のいる病室には緊張感が漂っていた。ロバートと三人の間に影が立ち、病室に似つかわしくない、物々しい雰囲気となっていた。
「極刑にすべきだ。生き残ったところで生き地獄しかないとお前には言われた」
アレキサンダーの言葉にロバートは溜息を吐いた。
「お分かりであれば、なぜ、この場に連れてこられたのです。あと、そちらの女性はどなたですか」
侍女が床にひれ伏した。
「侍女のクレアと申します。どうか、どうか、セドリック様、ジェニファー様をお助け下さい。お二人は、伯爵様のされたことなどご存じありません。私は、お二人の御側で仕えておりました。本当です。お二人とも何もご存じないのです。どうか、お願いいたします」
侍女の言葉にも、ロバートは表情を変えなかった。
「カイラー伯爵は、王家への反逆が一族全員の極刑となることくらい、ご存じのはずです。それでも、今回の事件を起こされました。その時点で、お二人の命運は決まったのです。お二人を極刑に追い込んだのは、他ならぬカイラー伯爵です」
「それでも、どうか」
「貴族の子など、一人では何もできません。侍女として仕えるあなたもご存じのはずです。恩情など与えても、生きて行けない。飢えて野垂れ死にするよりも、極刑で即死したほうが苦しまずに済むでしょう」
ロバートは畳み掛けるように続けた。
「私が育てます」
クレアが涙ながらに訴えた。
「財産も収入もないのにどうやって育てると言うのです。反逆者であるカイラー伯爵家の子供二人を育てる侍女を雇う貴族がおられるなどと、お考えですか」
「それは、それでも、私が責任をもって育てます」
クレアが叫んだ瞬間だった。
ロバートが顔をゆがめ、口元を押さえた。医者の弟子が馴れた手つきで口元に添えた容器に、ロバートが吐いた。
「アレキサンダー様、わかりきっていることを、怪我人に言わせるのは、ちょっとどうかと思います」
ロバートの背を擦りながらの医者の弟子の苦言に、アレキサンダーはうつむいた。
「誰だって、子供を極刑になどしたくない。ロバートだって一緒ですよ。言いたくないことを怪我人に無理やり言わせないでください。何もできない子供二人が生きていけるほど、世の中は甘くない。それこそ孤児院にでも入れますか?落ちた物も拾わない、着替えも何もできない貴族の子供なんて、孤児院で爪はじきにされるだけですよ」
弟子はそれだけ言うと、ロバートの介抱をすることにしたらしい。アレキサンダーには見向きもしなくなった。影もロバートの介抱を手伝い始めた。
アレキサンダーは、何もできず、立ち尽くしていた。
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