第9話 相談する者

 アルフレッドは、アレキサンダーも見たことが無いくらい深い皺を、眉間に刻んでいた。

「難しいな。前例がない」

「はい」

アルフレッドの返事は、アレキサンダーの予想通りだ。アレキサンダーも知っていることだ。


「王太子であるお前を暗殺しようとした一家の、それも直系の子供たちの助命など、お前もするべきではないと分かっているだろうに」

「はい」

アレキサンダーもわかっている。だが、ロバートが助かりそうな今、最初にあの兄妹に感じていた怒りは薄れていた。妹を助けてほしいという兄の嘆願に心を動かされたのもある。あの兄は一度も、自分を助けてくれとは言わなかった。


「ただ、ロバートが目を覚ました時、あの子供たちが死んでしまったと聞くと、悲しむと思いました。何も言わないでしょうが」

アレキサンダーの言葉に、アルフレッドも頷いた。

「そうだろう。だが、助命したと聞いたら、法令に基づき極刑にすべきだと言うだろう」

「おっしゃる通りです」

アルフレッドもアレキサンダーも、ロバートのことはよく知っている。


「王太子を暗殺しようとした男の二人の子供に恩赦を与えるに足るような何かなど、相当なものが必要だ」

「おっしゃるとおりです」

少々の罪ならばともかく、王太子の暗殺未遂だ。食事に眠気を誘うものを混ぜてまでの、念入りな作戦だった。何かの間違いではありえない。


 実際、アレキサンダーの部屋を警護していた近衛兵達は、殺されていた。


「元伯爵が、死刑の直前に罪を悔い改め、聖アリア教会に多額の寄付をすると言っていたなどは理由になりませんか」


 カイラー伯爵家の財産は、既にすべて王家で没収している。だが、書類さえあれば、寄付にしてしまえるのではないかと、アレキサンダーは期待した。


 アレキサンダーの言葉に、アルフレッドはゆっくりと首を振った

「捕らえられて、財産を没収されたあとに、寄付など申し出ても、意味のないことだ」

 

 暫く考えていたアルフレッドが、片目を瞑ってにやりと笑った。

「そうだな、あの、型破りな大司祭だ。何かを忘れていないか、よくよく確認してみる価値はあるかもしれない」

「父上、ありがとうございます」

アレキサンダーの言葉にアルフレッドが苦笑した。

「いやいや、大司祭がちょっとうっかりした場合でも、こちらの都合がよいように、うっかりしてくれるとは限らんぞ」

「はい」 

「あと、アレキサンダー。ロバートに小言を言われるときはお前も一緒だよ。覚悟しておきなさい」

「はい」

アルフレッドは笑顔だった。

アレキサンダーの胸にまた、不安がよみがえってきた。ロバートが小言を言えるほど、元気になる日が来るだろうか。


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