第5話 残した者と残された者の再会

 月が明るい夜だった。

 

 男達が動かない誰かの襟首をつかみ、吊るし上げているのが見えた。男達より小柄な誰かの頭部はのけぞり、両手足が力なく垂れ下がっていた。

「ロバート」

アレキサンダーは目の前の光景に思い切り叫んだ。男たちが振り返り、ロバートを投げ捨てた。重い音がした。ロバートは、抵抗する様子もなかった。地面に放り出されても、動こうとしなかった。


「ロバート」

アレキサンダーの声にロバートが答えてくれないことなどなかった。放り出されたロバートの元に、アレキサンダーが駆け寄ろうとした時だった。近衛兵たちが、迷ったのが分かった。アレキサンダーの警護か、不審者を追うか、アレキサンダーの結論は一つだった。

「あいつらを捕えろ。絶対に逃がすな。生け捕りにしろ」

「は」


 二人だけを残して、近衛兵達は男たちを追っていった。生け捕りが難しいのは分かっている。だが、この件の首謀者を捕まえるには、絶対にあの男たちを生け捕りにせねばならない。


 判断を間違えて、ロバートに呆れられるのだけは絶対に嫌だ。だが、もう二度と、呆れてもくれないかもしれない。仕方ないですね、と言ってくれないかもしれない。倒れたままのロバートは人形のようだった。


 アレキサンダーは恐る恐る動かないロバートに触れた。温かかった。

「ロバート」

固く閉じられた目は開かない。胸に耳をつけたが、鎖帷子が冷たいだけだった。


「殿下」

近衛兵達もどうしたらいいかわからないのだろう。アレキサンダーもそうだ。実戦経験などない。また、別の足音が聞こえてきた。今回の視察の要である文官の男達だった。


「アレキサンダー様」

ロバートと同じ呼び方に少し安堵した。

「ロバートが」

泣きたくなり、アレキサンダーはそれ以上、つづけられなかった。


 男の一人がロバートの上に身をかがめた。

「息はあります。今はまだ。カイラー伯爵の屋敷は危険です。天幕に運びましょう。そこならば手当てできます」

的確な指示を出した男は、ロバートを軽々と抱き上げた。


「…」

微かな声がした。

「ロバート」

「大丈夫。アレキサンダー様はご無事だ。よく頑張った」

アレキサンダーの呼びかけや、男の声にも、ロバートは答えなかった。


「アレキサンダー様、申し訳ありませんが、ご同行願えますでしょうか」

男達の歩き方は、屋敷にいた護衛達によく似ていた。強い者は、みな同じように歩くらしい。走るのとほとんど変わらないくらいの速足で進む彼らに、アレキサンダーは黙ってついていった。

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