第1話 腕白達との再会

 厨房にふさわしくない足音がかけてきた。

「マシュー」

飛びついて来た少年をマシューは抱きとめた。マシューの足を考慮し、手加減するなど、腕白坊主も随分成長したものだ。

「元気だったか坊主ども」

「マシューのスープが食べたかった」

全く返事になっていない言葉を返してきたアレキサンダーにマシューは苦笑した。


「いらしてくださり、ありがとうございます」

足音も立てずに現れたもう一人の少年が、丁寧に頭を下げた。ロバートの年齢不相応な、相変わらずの可愛げのない態度も可愛い。

「どうしても、慣れた味のあなたのスープが懐かしくて。アレキサンダー様と一緒に、アルフレッド様に我儘を言ってしまいました」


「おう、そうかい」

めったに自分を主張しないロバートが我儘を言ったということにマシューは驚いた。それは確かに、国王アルフレッド様から直々のお手紙が届くわけだ。アルフレッド様も相当驚かれたに違いないと、マシューも確信した。


 かつて、右手と右足を失い戦えなくなったとき、失意のどん底にあった。長に、王領にある屋敷で、調理人マシューとしての人生を歩めと言われても、素直に頷けなかった。だが、他の道が無いのもわかっていた。


 渋々、当時の長の命令に従い王都を離れた。王領の屋敷の片隅にある厨房で、ただ、自分の務めを果たしていただけだ。そんな自分が、もうすぐ王太子になるアレキサンダー王子に、調理人として請われたと聞いた。嬉しくなって、大鍋と一緒に迎えの馬車に乗っただけだ。


 王都の喧騒を離れて屋敷で育てられていた王子アレキサンダーは、乳兄弟のロバートと一緒に屋敷中を探検し、よく厨房にもやってきた。大鍋の番をしながら、かまってやった。


 小姓達が五人も死んだ悲しい事件のあと、ロバートはほとんど食事をとれなくなった。俺が鍋に張り付いてるのを忘れたかと言って、食べさせてやったことも、今は懐かしい思い出だ。

 

 マシューは少年達との再会を懐かしみながら、遠巻きに見ている王太子宮の調理人達を見た。王都の貴族の料理はマシューも知っている。この二人が屋敷の食事を懐かしがる理由も想像がついた。

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