第2話 少年の懇願

 夜、遠慮がちに扉をノックする音でアレキサンダーは目を覚ました。目を覚ますと同時に、晩餐でのことを思い出し、アレキサンダーはシーツを頭からかぶり、ノックを無視することにした。


 再度のノックの音がアレキサンダーの耳を打った。遠慮がちな音に騙されたが、扉の外にいるのは相当しつこい相手らしい。

「誰だ」

「ジャックです」

誰何の声にこたえたのは、小姓見習いのジャックだった。主であるアレキサンダーを、夜中にたたき起こす権利などないはずだ。護衛は何をやっている。アレキサンダーは何心毒づいた。

「何用だ」

「夜分遅くに失礼いたします。どうしても、お話しせねばならないことがあります」

「このまま話せ」

「どうか、扉をお開け下さい」

「開けろ」

「開きません」


 ジャックの言葉に、アレキサンダーは就寝前、自分で鍵をかけたことを思い出した。ロバートであれば、用事があるとなると、鍵を無理やり外からでもあけてしまう。あるいは窓からでも押し入ってくる。ロバートのことを思い出し、ついでに晩餐でのことを思い出し、沸き起こってきた後悔をアレキサンダーはねじ伏せた。


「待て」

鍵を開けてやると、寝間着姿のジャックがいた。

「恐れながらアレキサンダー様、ご同行ください。御覧にいれたいものがあります」

「断る」


 扉を閉めようとすると、ジャックが無理やり体をねじ込んできた。ジャックの教育係はロバートだ。要らないところまで似てきた。舌打ちは、心の中だけにとどめた。

「無礼な」

「無礼を承知で申し上げます。どうか、ご同行ください」

「下がれ」

アレキサンダーの言葉にも、部屋の外の護衛が動いた気配はなかった。本来ならば、アレキサンダーの命として、ジャックを部屋からつまみ出してしかるべきだ。


「どいつもこいつも何をやっている」

アレキサンダーの口からは、愚痴がこぼれた。

「同行くだされば、おわかりいただけます」

ロバートによく似たジャックの誘い言葉を、アレキサンダーは受け入れることにした。




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