21 話をしよう2

 千佐は寝てしまった。

 クリフォードは寝れそうにない。


 かわいい無防備な寝顔を眺める。気にしなくていいとは言ったが、他ならぬクリフォードが千佐のことを気にしている。触れたら止められなくなりそうだから、手は出さない。

 千佐は自分の容姿をどこまで自覚しているのだろうか。少し幼く見える穏やかな寝顔が清らかで汚したくない。


 ため息だか嘆息だかつかない息が漏れる。

「あれ、まだ寝てなかったんですか」

 清六が戻ってきた。

「仲間外れになるのもあれですし、聞いてきたことは明日の朝言います」

 言って、さっさと寝る準備に入る。


「……寒」

 千佐が寝言を漏らす。寝藁をもう少しそちらにやろうとしたところで、寝返ってこちらに身を寄せる。

「え!?」

 動揺すると横で清六が静かに笑う。


「甘えておいでだ」

「ええ……」

「外、出ときましょうか」

「なんもしないよ!」

 つい強く否定してしまう。


「って言うか、いいのか!?」

「主家の娘に手出すほど飢えちゃいませんぜ」

「そうじゃない。そうじゃなくて、君らから見たら、俺は得体の知れない男だろう」

 安易に勧めてくる態度がクリフォードにはわからない。


「でもいい御家の人なんでしょう。ちょっとでも気に入ってるんなら、貰ってやってくださいよ。今のうちですよ。器量はいい方だし、武家の娘は政略から逃げられませんから、嫁入りの話はその内来てしまいます」

「なんで……」


 なぜ、クリフォードが身分が高いと知っているのか、政略から逃げられないなどと言いながらクリフォードに勧めるのか。


「あなた、普段の態度が世話されることに慣れてる人のそれなんですよ。それに、名字がないとおっしゃった。この国だと身分が高いのに、僧や神職でもなしに名字がないなんて限られてくる。そして、ガウェインと名乗ることもあると言った。早川や別所のように、土地の支配者はその土地の名を名乗るもの。ガウェインてのは、どのくらい大きい土地なんです?」

「……うん」

「どっかの地侍に嫁にやるより、より良い家に行けるんならその方が良いでしょ?」

 親心のようなものか。心情は納得した。


「政略に関してはいいのか」

「そんなもん、死んだって言えば納得しますよ」

 大分適当である。


「千佐の俺に対する神様扱いはどうにかならないんだろうか」

「無理ですね!」

「俺は人間なのに」

「人間は普通手から火を出しませんよー」

 清六に笑われて、軽くいなされる。


「この国の帝は神様の子孫だと言われてるんですよ。だから、帝は現人神あらひとがみとされてるんです。あなたが私の思う通りの身分の人なら、どっちにしろ神様扱いされてしかるべき、なんですよ」

 クリフォードは反論も肯定もしたくなかった。身分と言えば、清六の身分はなんなんだろうか。


「清六は侍? 農民?」

 農民にしては、色々とおかしい。

「私は、なんにでもなれる男です。戦の人手が足りないならば参加して、農地を耕す人手が足りないならば耕す、あの城に火をつけてこいと言われればつけにいくし、どっかに潜り込んで内情を探ったりもする。そういうなんでも屋です。この手のなんでも屋はいれば便利ですから、国に帰ったら何人か用意することをお薦めしますよ」

「確かに、清六がいれば頼もしいな」

「私はお国について行きませんよー」

 くくくと笑われた。


「とにかく怖いお兄様が帰ってくる前が勝負ですよ」

「あ!」

 クリフォードはその男を知っていた。

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