19 積極参加はいたしません2
納屋なら泊まっていってもいいと許可を得る。
「雨風はしのげるし、寝藁も借りれるし、まあいいんじゃないですか」
野宿ではないだけましと言うわけだ。
男女同部屋雑魚寝がどうとか言える状況ではない。
清六が納屋の外で夕食を支度する。そんなに大きな荷物ではなかったのに、鍋など一式持ってたことに驚く。
食事ができるまでの間に千佐に話をしておく。
「事情も知らないのに、なんでも首を突っ込むのは良くないと思うよ」
「はい」
「口に出す前にもう少し考えてからにしようね」
「はい」
千佐は素直に頷いている。
そのしおらしく落ち込んだ様子がなんとも可憐で、かわいいから許すと言いたくなる。
言わないが。
夕食は干し飯をゆでて戻した簡易なものである。具材は芋がら縄だ。
「味噌もつけますかね」
味気ないと思ったのか、追加で味噌を焼き出す。
「……それ投げてた武器じゃないの」
「
どうしても気になったので口に出してしまった。千佐が武器の名を教えてくれる。
「洗ってますよ」
「そう……」
衛生面がどうとか言いたいわけではないのだが、本人がまったく頓着してないので、言っても響かないだろう。
「多分ね、あれは本気で参加をして欲しがってる訳じゃないと思うんですよ」
「と言うと」
「別所側に密告されて邪魔されるのを恐れてるから、足止めしたいんでしょうね」
「なるほど」
「あとは頭数が多ければ多いほど、これだけの人間が不満を持ってると主張しやすい。だから、こっちが棒立ちしてても文句は言ってこないと思いますよ」
そんなものか、とうなずく。
「だから、適当なとこで抜け出して魔物探しに行きましょうか」
「明日、どんな流れなんだろう」
「別所の屋敷に大挙して押し掛けて年貢取り下げを嘆願と言うか、脅迫。ついでに倉を襲って貯めてある年貢米を強奪できれば上々ってとこですかね。そこまで行くまでに鎮圧されるでしょうけど」
それにしても物騒な話である。
「一揆をする前に解決方法なかったんだろうか」
「一揆以外の方法ですか? 領主の上、郡代辺りに嘆願書でも送ればいいんでしょうかね? でも、百姓連中で字を満足に書ける人間なんて少ないですよ。せいぜい仮名ぐらい、自分の名前の漢字も書けない人間もいるでしょうし。代筆を頼むにしても、僧侶に頼むのも金が要りそうですし、武士に頼んでも味方にはなってくれないでしょう」
「字が書ける人」
ぴっと清六を指差す。
「おっと薮蛇ですか」
指差されて苦笑した清六は、にやりと表情を変える。
「私は協力しませんよ。早川の人間ですからね。そんな証拠が残りそうなものに手を出しません」
「早川の人間だとばれるとまずいのか」
「そりゃあ、もう。別所側からしてみれば、自分達の統治に早川が口を出すのかと思うでしょう。うっかり戦が始まりかねません」
「それは確かにまずい」
難しい問題だな、と思ったところで千佐の表情が変なことに気づく。
「なあ、千佐なんか不機嫌じゃないか?」
慌てて清六に小声で聞く。
「あれは話を聞いているうちに、ようやく自分がやったことがやばいことだと実感して気まずくなってる顔です」
「さっき話したときしょんぼりしてたけど?」
「それ、クリフ様に怒られてしょげてただけですよ」
そんなものか、とあきれ半分おかしさ半分苦笑いがわいてくる。
「別所領は年貢がきついんだな」
「やりくりが大変なんでしょう。この辺は数年前まで結構激しい戦闘をしてたんですよ。
そのとき滅ぼされた大将が、この別所領の親戚筋でね。城持ちの大領主だったんですが、兵糧攻めの末に破れ去りました。
そのときに敵側に味方したので、今も滅ぼされずにここの領主をやってるんです。
で、今仕えてる大名に覚えめでたくあらねば、と戦の召集があれば積極的に馳せ参じなければいけないわけで。
そうすると、戦準備に持ち出しがいるわけです」
こちらの国は中々に世知辛い。
「じゃあ、ちょっと村の様子とか別所領主の話とか聞いてきますね」
食後、片付け終わったあとに清六が言ってくる。
「先に寝ててください。お留守番お願いしますよ」
「えっ」
二人きりにされてしまった。
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