18 積極参加はいたしません1

「別所と関係ないなら参加できるだろう!」

「いやいやいや」

 全力で首を振る。


「我々、先を急ぎますので」

「関係ないからこそ参加できません」

 クリフォードと清六はそれぞれ矢継ぎ早に断りをいれる。


 聞く気があるのかないのか、彼らを無視してかき集めて来たと武器が運び込まれる。

 大量の刀に銃が山と積まれて、クリフォードは目を見張る。

「なんでこんな武器が大量に?」

「敗残兵から奪ったんでしょうねぇ」

 さらりと簡単に教えられる。

 戦いに敗れた上に農民に武器を奪われるとは気の毒だ、とクリフォードはおののく。


「一揆は無視して魔物退治しましょう。気配はまだあるんですか」

 清六が小声で聞いてくる。

「なんか濃くなってる」

 この屋敷に連れられてきてから、より一層の不快感に苛まれていた。


「じゃあ、ここを離れられないですね。参加してるふりだけでもしますか」

「参加自体したくないんだけどな」

 一揆そのものを中止に追い込むように持っていけないものだろうか。

 思っていると、今度は寝たきりのじいさんが運び込まれてくる。


「村長! 俺たちに一言授けてくれ!」

 寝かせといてやれよと思うが、具合の悪そうな村長は揺すられてうめきながら目を開ける。


「一揆を、やるんじゃ」

 村長は息も絶え絶えになりながら、そんな焚き付けるようなことを言う。

 寝てろよじいさん、と言ってやりたい。


「聞いたか、各々! 絶対に一揆を決行するぞ!」

「未だにためらっているやつはいないか!」


 ためらっているやつは普通にいる。

 村人の中にも、表情がすぐれないのがいる。

 盛り上がりがいまいちなことに、声を上げた面々は苛立っている。


 その様子を黙って見ていると、苛立った表情がこちらを向いた。


「お前らが士気を下げている!」

 勝手に巻き込んでおいて随分な言い種である。

 ひと悶着あるか、と自然と腰に指した刀に手が伸びる。


「見誤るな!」


 明瞭に発せられ、みんな黙る。

 それまで黙っていた千佐の一声だ。


「お前らの真の敵は誰だ! 私たちか? 戦うべきは今か? 今、戦うと言うのなら、返り討ちにしてくれる! だが、ここで戦力を失うのは得策か? よく考えられよ!」

 千佐の言葉には力があった。

 強く出された言葉の節々が脳に染み渡るように響く。

 大したことを言ってるわけではないが、妙に納得させられてしまう、そんな雰囲気があった。


 これは、もしかして聖女の持つ能力だろうか?不意にそんな仮説が頭に浮かんだ。


「お前らの敵は誰だ!」

 別所だ、と声が上がる。


「一揆をするのはいつだ!」

 明日だ! と答える。


「ならば今は力を蓄えよ!」

 そうだ! 方々で同調する。


「皆のもの、今は決戦に備えて休むときだ! 銘銘家に帰って過ごされよ!」


 千佐の発破かけに村人たちはこれ以上ないくらい盛り上がる。

 不安げな顔をしていた者もすっかりと晴れ晴れとした表情に変わっていた。

 明日の一揆の成功を願って一本締めなどをして意気軒昂に解散していく。


「盛り上げちゃったよ」

 清六がぼやく。


 クリフォードはとても危ういものに感じた。放っておくと稀代の悪女になるのではないか、と思わされた。

「この子には教えて諭す人間が必要だな」

「それをするのは、クリフ様の役目でしょう」

 言われてクリフォードは考え込む。


「この子、俺の言うこと聞くかなあ」

 大いに不安であった。

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