14 女神様かく語りき

 鏡による対話が終わると相手の姿は消え、鏡は掌に収まる大きさに縮んだ。この鏡は持っておかねばならないと、着替えの上に置く。

 クリフォードはそのあとすぐに寝た。


「クリフォード様」

 裸の千佐が現れた。

「ええええ! なんで!?」

 クリフォードは勢いよく起き上がる。



「……夢か」

 そこには当然、千佐はいなかった。

「夢か……夢かぁー」

 夢なら夢で、もっと見ておけば良かったと後悔する。


「せっかくいい夢見せてあげようと思ったのに、なんで起きちゃうのよ」

 がっくりしていると、横から知らない人の声が聞こえる。

 はっと振り向くと頬杖をついて座っている女性がいた。


「誰ですか?」

「月と運命の女神ディアナテールよ! 導けっていったでしょー」

 その女性は女神の名を口にする。

「ディアナテール様!?」

 目の前に現れた女神に驚く。何より、想像より横に大きい。


「横に大きいとか思ってんじゃないわよー! あんたの考えてることなんてまるっとお見通しよ!」

 女神は怒り出す。どうやら、思考が読めるらしい。


「ディアナテール様は一体何をされに来られたんです」

 なぜ裸の姿の夢を見せたのだろうか。

「かわいそうだから、ちょっといい思いさせてあげたいなーと思って。運命的に出会った人間たちの営みって尊くて一生懸命で見てて楽しいのよね」

 趣味が悪い、とクリフォードは引く。

「せっかく女の子が勇気出して寝所に来てるのに、それをふいにしたりしてるから」

「……初対面ですよ?」

「はっ! これだから箱入りの王子さまは」

 やれやれと首を振る女神を何となく冷めた目で見てしまう。


「なんか敬われてる感が減ってきたから、本題に入るわね。今からあなたが死ににくくなるように加護を与えます」

 女神が腕を振ると頭上より光が降りてきてクリフォードの体を包む。

「これは?」

「筋肉とか皮膚とか内臓とか、とにかく体を全体的に頑丈にしてみました。こっちの世界の女神様ってばとにかく厳しくて、絶対死なないようにする加護とかは使うのを許してくれなかったのよね」

 なにか恐ろしいことを言われたような気がする。


「こっちの神様、本当に怖いのよね。聖女召喚の予定だったんだけど、早川があなたの手を引っ張ったときに、ビビッと来たのよねー。だから、早川をあっちにやってあなたをこっちに送り込んだんだけど、勝手なことすんなってすっごく怒られちゃって」

 それは怒られてもしょうがないのではないだろうか。


 クリフォードの思いなど気にも留めずに、女神は語る。

「でも、こっちの世界って回復魔法すらないでしょう? しかも、戦乱の真っ只中だし、死亡フラグはそこら中に転がってるじゃない。だから、死ににくくなるように体を強くする加護あげちゃう。それくらいならしてもいいって言われたから」

「あの」

 気になる単語に引っ掛かって、女神の発言を止める。



「回復魔法ってなんですか?」


 ベラベラと饒舌にしゃべっていた女神はびたっと動きを止めた。

「回復魔法よ? 傷を治したり病を治したりできて、なんなら魔物避けにも使えるって言う便利魔法よ?」

「そんなすごい魔法があるんですか!」


「そんな異世界人みたいな反応しないで!回復魔法が廃れてるーーーー!」


 女神は悲鳴をあげて、その場に突っ伏した。

「嘘でしょ……そりゃ、適性を持つ人間が元々少ないとはいえ、こんな重要魔法が廃れるとかある……? 確かに、ここんところずっと平和が続いてたけれども」

 落ち込んだ様子を見せても、女神の口はぶつぶつとよく回る。

「じゃあ、早川も死んじゃう可能性があるじゃない……こっちの女神様に絶対殺すなって言われてるのに……」


「あのー」

 放って置かれてどうしていいかわからず、女神に声をかける。女神は勢いよく体を起こした。


「お願い! 死なないように頑張って! 戦してるようなとこには近づかないでね! 多分、夢から覚めたらこの会話覚えてないと思うけど」

「意味ないじゃないですか!」

「ないことないわ!とにかく心に刻んで!」

 女神は凄むように大声で言う。

「とにかく死なないでね! 死なないで! 絶対無事に生きて帰ってね!」

 女神は叫びながら帰っていった。



「変な夢見たなー」

 朝起きると、奇妙な夢を見たということだけは覚えていたが、肝心の内容は思い出せなかった。

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