13 月明かりの下の会話2
「お前らのせいで、俺はこんなところで化け物退治をせねばならん。どうしてくれる」
「それは、本当に申し訳ないことをしたと思っている。なんとお詫びをすればいいか」
「お前の欠点は人が良すぎるとこだ!」
素直に謝罪を口にして悄然としている様を見て、早川は途中で口を挟む。
「そんなことでは、蛮勇ばかりが幅を利かせるその地ではやっていけんぞ!もっと我を出せ!自分が悪くても、少しも悪くない態度でいろ!」
「ええ……」
「お前の腕を引っ張って、召喚の邪魔をしたのは俺だ!」
「えー……」
自白したにもかかわらず、こちらを責めるでもなく困惑している。
「まあ、もう過ぎたことだから、これからの話をしよう」
「はい」
素直にうなずくのを見て、本当に心配になる。儀式の時には神々しく思えたのに、今の印象は普通の兄ちゃんである。
「お前らの国の魔物について教えてくれ。俺はあれと似た化け物と3年ほど戦っている」
「3年……すごいですね。俺の国では半年ほど前から、あれと戦ってます」
半年と言う短い期間しか戦ってないので、まだ温い対応になっているのかと納得する。
「半年で城にまで攻め込まれてるのか。一気に来てるな」
「城に出たんですか?」
クリフォードの表情がさっと変わる。
「まあ、見つけたやつは倒した」
まだいるかもしれないがな、とは口にしない。
「……あなたがいてくれて良かった」
「そうだな」
憂いを帯びた表情に、自分が手を出せない歯がゆさを抱いてるだろう心情がわかる。
「お前の国に出る魔物は俺の領地に出てるのと似てると言うか、同じなんだろうか。倒したら消えるし、人を襲うし」
「同じでしょうね。異形の姿をしている場合、鳴き声は近づかないと聞こえない特徴も同じです」
「しかし、
「3年も前から魔物が出ているのに、
違いが見えてきた。
「俺の領地に出てるのは、野良みたいな化け物ばかりだな。人里近くの山の中とかで人が襲われる」
「ガウェインでは、最初はとある貴族の領地の農村近くで魔物が出たんです。それを討伐するために、その貴族は所有する兵を率いて行きました。討伐は成功したかに思えましたが、数日後にその貴族は邸宅に居たところを襲われました。その後は、貴族の邸宅ばかりが狙われています」
「貴族が狙われてるのか!」
明確な違いに驚きの声が出る。
「魔物は何か行動がおかしくないですか?あいつら、こっそり人を襲うこともできるのに、わざわざ人前に出てきて襲ってくるんです。そして、わざと一人二人取り逃がして、その様子を他に伝えさせる。何でこんなことするんでしょうね」
「確かに」
早川領に出る魔物も、わざわざ爪や牙などで肉体を傷つけてから襲おうとしてくる。肉体よりも、中身を先に食べるくせにである。
「恐怖心が必要なんだろうか」
「恐怖心」
「あいつらの主食は肉体より魂だと思うんだが、その魂を食べるのに恐怖心が必要になってるんじゃないだろうか」
「なるほど……」
敵の正体がうっすらと見えてきた気がする。
「人形の出る出ないの違いもそこにあるのかもな」
「と言うと?」
「俺は別に人間の姿で出てこられても怖くない。そっちの世界の人間は大概そうだろう」
「なぜ、怖くないんです」
「戦をしてるからだよ。死体も見慣れてるし、実際に殺したことだってある」
「……ガウェインが最後に戦争をしたのは80年ほど前です」
「おお……それはすごい」
何となく、お互い黙る。クリフォードはこの世界では戦があると初めて知ったし、早川は戦争のない世界に来たのか、と感動した。
「戦い慣れてないから、色々後手に回ってるんだな。と言うか、それで攻めやすいと見なされて狙われたのか」
クリフォードはまだ黙っている。
「おい、大丈夫かー?」
「そういや、そっちは魔物倒せんのか?」
「一体は倒しました」
もう一体は自分でとどめを刺してないので、数に入れない。
「苦戦したか?」
「いえ、魔法で一撃であっけなく」
「お?」
こっちの世界で苦戦していたなら、そっちにいっても苦戦するのではと思っていたので、そうではないと知り意外に思う。
「と言うことは、お互い苦戦してたのが場所を変えればそうでもなくなったということか」
「入れ替わったことで、より有利に戦えるようになったと?」
「なるほど。あながちただの失敗と言うわけでもなさそうだな」
早川は自然と不敵な笑みが浮かぶ。クリフォードも沈んでいた気持ちが浮上する。
「いけるぞ、これ!」
「はい!やりましょう!」
二人は一致団結した。
「すっきりした。よし、寝るか」
「……あの、ところでお互い無事に帰れるんですかね」
「行けたんだから帰れるだろ」
前向きに雑な返事にクリフォードは内心呆れる。
「えーと、千佐のことだがな」
「はい」
「仏頂面だが、悪いやつじゃないんだ。元々泣き虫だから、色々我慢してるとあんな感じになるんだ」
「そうですか」
「結婚する予定が相手が死んで無くなってな。だから、優しくしてやってくれ」
「わかりました」
婚約者が亡くなったと言う話に同情心を抱きつつ、クリフォードはどこかで聞いた話だと思った。
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