お嬢様が言おうとした事を、先に言われてしまいました~炎の獅子と氷の竜と~

大月クマ

変身の魔法が解けない!?

 ここは、とある剣と魔法の国のお話――



「私の生まれた国、ロムラン帝国は尻尾の数で身分差がありました」


 わたし、キャスリン・マルグルーの愛猫、ローアは突然、立ち上がったのです。

 それは剣士のマイケル・マーティン=グリーンと、ヒーラーのビバリー・マクファーデンが、わたしの特別な執務室に来たときでした。

 マイケルを『炎の獅子』の子孫。わたしを『氷の竜』の子孫と呼び、ローア――本人曰く、本名はキラ・ヴィジター――は、語りはじめたのです。

 なんだか話が長くなりそうなので、侍女に紅茶を持って越せました。

 キラのほうは牛乳を――


「すまない。牛乳はお腹に悪い」

「そうでしたの?」


 そういえばローアに牛乳を与えると、素直に飲んでくれました。でも、いつの間にか姿を消していたような――


「まあロムランは、有尾人ゆうびじんが作った国だからなぁ。キツネだったけ?」

「オオカミです。獅子の子孫」

「いや、帝国時代は『神聖なオオカミ』って言っていたけど、結局『キツネ』って今は言っているぞ」

「そっ、そうなのですの!?」

「88年も経つと変わっているんじゃない?」

「この姿になったのは、50年前です」


 ローア……キラの猫の姿は、仮の姿らしい。話を推測するに。


「お師匠様が私を逃がすために、この姿にしたのです。魔王の手下に見つからず、貴方達が揃うまでこの姿に――」


 やはり――

 有尾人とは言っても、ほとんどわたし達と姿は同じ。ただ、尻尾と動物のような耳ぐらいで、帽子など被っていたら、区別が付かない。


「揃ったけど、猫のまんまじゃないか?」

「あれ?」


 ――マイケルの言葉にあれっ? て……魔法で猫の姿にされたのはいいけど、元の姿に戻っていないのは何故なのかしら?


「お師匠様は確かに、あなた方が揃ったら、「元の姿に戻る。必ず魔王を倒せ」と……」

「まあ、この50年だっけ? 有尾人の中で内戦が起きて、婆さんが言う『魔王』は倒されたけどな」

「婆さんではなく。お姉さん! 注意しなさい。獅子の子孫」

「はいはい。歳は止まるのか?」

「そのはずです。なので、18歳のままです!」

「じゃあ年下か」


 マイケルが言うように、わたし達は20代中盤。いい加減、結婚を……と、ちらほら言われている年頃にはなりました。

 マイケルはその所為で、婚約者を叩きのめし、勘当されたのです。

 わたしのほうは、領主代行という使命があります。よく考えたら、皇太子を彼女のほうに回した原因はわたしかしら?


「おかしい――お師匠様が私に魔法をかけた時に、ちゃんと元に戻ると言ったのに……」


 キラはかなり落ち込んでいるようだ。

 信じた『お師匠様』の言葉通りにならない。自分の姿が戻らず、黒猫のままなんて。


「騙されたんじゃないの?」


 ズバズバ言いにくいことを言うわね、マイケルは。

 それが貴女なのかもしれないけれど、もう少し言葉を選びなさい。

 言葉は、人を傷つけるのだから――


「そんなことはありません!

 孤児だった私をお拾いになり、弟子として育ててくれました」

「へぇー……」


 マイケルはつまらなそうに紅茶をすすり、クッキーに手を出す。


「ちゃんと聞いて下さい。私のお師匠様は偉大な方だったのです。

 資金を投じて、孤児院まで設立して、私のような身寄りのない者を集めて、生活を保障してくれました。それに魔法を教えて下さ――」

「――孤児院は何人ほど居たんだ?」

「えっ、はい?」

「孤児院には何人、居たか覚えているかって聞いているんだ。婆さん」


 マイケルは睨み付け聞き返した。ほぼ恫喝だ。

 まあ睨んでいる相手が猫だというのは、置いておいて――


「さあ、何人、居たかと言われても……」

「結構な数、居たんだろうな。ジイさんが昔話で語った帝国の情勢からしたら。

 婆さんのような1本の尾っぽの連中はざらにいたからな。

 で、だ。婆さんみたいな、猫系の種族は、当時は二級市民奴隷階級だったんだろ。そんな雑魚兵がうじゃうじゃいたと言うし、最低限の生活を保証だけで――」

「そっ、そのような――」

「二級市民に武器である魔法なんて教えるのって、どうかしている。

 一級市民キツネの連中を脅かすかもしれないのに、魔法を教えるなんて何かあるとしか思えない」

「ですから、魔王を――」

「ロムランのどこにいたか判らんが、反乱組織の一味か……」

「そっ、そのような!」


 キラが驚愕して、目前のティーカップに膝(?)をぶつけた。


 ――マイケルの言い方!


 しかし、細かい階級制度の中、奴隷的扱いを受けている人達が、自分達であったならどうするだろうか。

 打開すると考えるだろう。

 まあそれは、自由を自分が知っているからであって、現状が当たり前の状態では。理解できないものは、改善の余地など無いはずだ。


 キラが言っている『お師匠様』なる人物は、何者であろうか?


 恐らく外国人。自国の人であれば、現状の状況に満足してしまい、改善など考えない。

 外国人なら他にも理由がある。

 帝国に脅威を抱く周辺諸国なら、弱体化を狙う事もあり得るからだ。


 ――ということは……。


 無垢な子供を集めて、「今の世界は間違っている」と教え込み、戦闘員にして……イヤなことを考えてしまった。しかし、マイケルはそれを突き止めているのかもしれない。

 彼女が単なる筋肉馬鹿ではないことは、知っている。

 マイケルのお祖父様は戦略家であった。

 わたしよりも遥かに高度な教育を受けているが……ただ女性を捨てている場所が――


「お師匠様は、素晴らしいお方です。そのような反乱組織の一味などと!」

「いや、十分考えられる」

「あの方にお会いになれば――」

「50年も前に生きていたヤツに会えると思うか?」

「――そっ、そうでしたねぇ。今は、もう帝国も魔王もないのですのよねぇ……」


 冷静になったのか、急に意気消沈する。

 まあ、理解は出来ることだ。

 本当かどうか知らないが彼女キラは、50年間眠り続けたことになる。


「もう一度、お師匠様にお目にかかりたかったです。そうしたら、私の想いを伝えたのに……」


 そう言って、キラは天を仰いだ。


「ああ、そういうことか……」

「何ですか? 獅子の子孫?」

「そういうことを、その『お師匠様』に伝えたのか?」

「えっ、ああ……あなたのような男女おとこおんなでも、解るのですね」

「おい。三味線にするぞ」

「失礼。少しは――」


 そう答えたキラのことを、マイケルは笑い出した。


「それってていのいい厄介払いじゃない?」

「ずっと聞いていれば、マーティン=グリーン。言い方を気をつけてあげたら?」


 それは言い過ぎでしょ。私はさすがな我慢ならずに声を出した。


「だってよ、キティ。反攻組織内で色恋沙汰は、内部分裂の可能性がある。

 危ないだろ、放っておくと」

「それはそうだけど……」

「だから、魔王を倒すためとかで、猫の姿にしてしまった。変化の魔法の解除には、まだ何か必要かもしれないが、厄介なのは追い出すことに――」


 その瞬間、猫キックが飛んできたのは、いうまでもない。




【つづく……かも】

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お嬢様が言おうとした事を、先に言われてしまいました~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978

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