第4話
学校を出てどのくらい歩いただろう。行き先も分からないまま俺は瑠愛の背中を追いかける。
太陽は完全に沈み、街は街灯で照らされている。
「ここ」
なんの前触れもなく瑠愛は立ち止まり、どこかに指を指す。指した方向を見ると、そこにあったのは綺麗な外観のマンションだった。
「入るよ」
ついてこいと手でジェスチャーをしてくるので瑠愛に続いてマンションに入る。中に入ると瑠愛は鍵を使って、奥のドアを開ける。
こっちは入った時の自動ドアと違って鍵、もしくは中の住人によって開く、マンションの一般的なドアだ。
「広いな」
エントランスは思わず口を開いてしまうほど広い。複数あるソファーに自販機、挙げ句の果てには大きい水槽なんかもある。ホテルなのではと疑いたくなってしまう。
そんな俺の驚きとは裏腹に瑠愛は一目散にエレベーターのある方へ進んでいく。
毎日通ってたらそりゃそうなるか。
エレベーターが来るまでの間、何もすることがないので本題に入る。
「それでそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか」
「そうね」
瑠愛はどうしようか考えていたが、やがて覚悟が決まったのか口を開く。
「無期限で私をあなたの家に泊めて欲しい」
「はぁ」
瑠愛の言葉に驚きよりも呆れが出てしまう。
あんなに大袈裟にやっといてこんなものかと思ってしまった。
「まぁ別にいいけど、無期限ってのはどういうことだ?」
瑠愛の言葉で引っかかったことを聞く。
「そのままの意味。私が飽きるまで泊めて欲しいの」
つまり瑠愛の目的というのは自由に泊まれる場所が欲しかったのか。
付き合えば自由に泊まれると思うだなんて杜撰な計画だな。それとも俺の家の事情を知ってなのか、だとしたらどうやって……。まぁその辺の疑問は今考えてもしょうがない。
むしろこんな立派なマンションに住んでいながら泊まれる場所が欲しいなんて、まさか。
「家出か?」
俺は思っていたことを口に出す。
「……」
無視と言うよりもどう答えようか悩んでいるようだった。
「半分正解で半分間違ってる」
そこでポーンと音が鳴る。エレベーターが降りてきたようで、中に誰も乗ってないのを確認し二人で乗り込む。
このマンションはボタンを見る限り十五階建てで、瑠愛が住んでいるのは十二階のようだ。
「私両親がいないの。正確には一緒に暮らしてない」
エレベーターに二人きりということもあり補足の説明をしてくる。
その後は何を喋るでもなく目的の十二階に着く。瑠愛が先に降り、俺が後を追う。
瑠愛が自分の部屋であろう場所で立ち止まり、扉を開ける。
「鍵は」
「してない」
俺は驚いてしまう。いくらマンションとはいえ普通は鍵を閉めると思う。
「不用心だな」
「取られて困るようなものないから」
だとしてもと思うが俺に関係ないのでこれ以上突っ込まないことにした。
「それより俺も入っていいのか」
「好きにして」
瑠愛の許可を貰ったので中に入る。最初に感じたのは不気味さ。
入って右に洗面所とお風呂があり、奥に進むとキッチンとリビングそれと左に瑠愛が入っていった部屋があった。
そこまで入って理解した。俺が不気味さを感じたのは生活感がないからだ。
リビングには机と小さめのクッションしかなく、キッチンは使われている形跡が全くない。
まるでここには誰も住んでいないのかと錯覚してしまうほど。
「行きましょ」
程なくして自室から出てきた瑠愛の手には小さい、それこそ一日、二日泊まるようのカバンを手に出てきた。
「そんなんで足りるのか」
「えぇ」
瑠愛とともに外に行く。相変わらず自分の家に鍵を閉めることはせずマンションを出た。
ここからは俺の家に行くため、俺が前を歩く。道中、向こうから話しかけてくる訳もなく、そして俺も聞きたいことはあるが気軽に聞けることでもないため、結局何も喋らないまま夜の道を歩いていた。
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