第37話 一難去ってまた一難

 治安隊に取り押さえられる男は、さっきまでの威勢が嘘かの様に大人しい。



 エドワードは治安隊が来て、私が彼等と話していると何処かに消えてしまっていた。



 男の下に行くと、男は私を見て恐怖で身体を震わせる。


 はぁ……副所長に何を言われたのかしら。これじゃあ、私がいじめたみたいじゃない。



「貴方に聞きたい事と訂正したい事があるの。私はエドワードの婚約者ではなくて……」


「"元"婚約者ですよね!間違えてしまってすみません」



 私の言葉を遮って慌てて言う男に、「あら、知っていたの?」と言う。



 先程までは、私がエドワードの婚約者だと言っていたけれど、言い間違いをしたのだろうか。


 元婚約者だと訂正する必要がなくなった私は、副所長と何を話したのか聞いてみる。



「それと、副所長とは何を話していたの?」



 私が聞くと、男は身体を震わせ、顔を青ざめさせた。



「何も聞いてもせん!話せません!」



 聞いてないのに、話せない?不思議に思ったけれど、治安隊が「連れて行きますね」と言った事で、何が男に恐怖を与えたのか気になるけれど男に聞く事が出来なくなる。



 連れて行かれる男を見送っていると、「シャーロット」と副所長に呼ばれる。



 振り返ると、副所長がローブで全身を隠す人を連れて、こちらに歩いて来ていた。



 隣の人は誰かしら?顔も身体も見えない人は、男か女かさえ判断出来ないけれど、私の事をジッと見ている気がした。


 私がローブを着た人をジッと見ていると、副所長は私の視線を遮るようにローブを着た人の前に立った。



 ローブを着た人を隠そうとする副所長を不思議に思っていると。



「シャーロット、すまない。僕はこの人をシェルロン国に送り返さないといけないから、今日は一緒に夕食を出来そうにない」



 「私と食事の約束をしたのに、その人を取るんですか」なんて言える訳もなく、「そう、ですか……」と言う事しか出来なかった。



 私がそれだけ言って黙ると、私と副所長の間に気まずい雰囲気が流れる。



 どうしよう……副所長に約束を破られたから、不機嫌になってるなんて思われてしまうかもしれない。


 「気にしてないから大丈夫です」って言った方がいいかしら。何て考えていると、副所長の後ろから声が聞こえる。



「送り返すなんて冷たい事を言うな。久しぶりに会えたのに寂しいじゃないか」



 聞こえてきた声は低めの声ではあるけれど、女性の声だった。



 副所長の後ろから顔を覗かせる人は、「君もそうは思わないか?」と私に聞いてきた。

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