第10話 実は箱入り息子?

「街で調査するには地の利を知ってる者の助けが必要だ。魔力の流れを読む者は多いほうが調査が捗る。それに、僕は市街捜査が初めてな上、僕は外国に来るのも初めてだからな」



 初めて?聞き間違えじゃないわよね。

 市街捜査が初めてなのは分かる。若い頃から魔塔に所属し、高い地位にいた副所長は市街捜査をする機会がなかったのだろう。


 だけど、外国に来るのも初めてなの?

 瞬間移動を使える副所長が?瞬間移動が使えるなら何処へでも行き放題なのに……



「本当に外国に来るのは初めてなのですか?」


「そうだ」


「ゲートを使わずに瞬間移動の魔法を使える副所長が?」


「……あぁ」


「………」


 副所長の返答に言葉を失っていると、副所長は気まずそうに視線を逸らしスイーツを食べだした。


 長距離の移動は魔法使いが管理、維持しているゲートを使う事が一般的だが、例外として高位の魔法使いは瞬間移動を使う。


 副所長は数少ない例外の高位の魔法使いだ。 


 魔塔に籠りっぱなしで出掛ける姿を見るのはあまりなかったけど、外国に行った事がないのは意外だわ。


「副所長は実は…箱入り息子ですか?」



 魔力は貴族で受け継がれる事が多く、魔力量が多く、容姿端麗な事から貴族出身かと思っていたけど、私は副所長の事をあまり知らない事に気づく。


 実力主義の魔塔でわざわざ「貴族出身ですか?」なんて興味がないから聞く事がないし、「貴族です」と自己紹介する者もいない。



 副所長のエルバートという家門名を聞いた事はないけど、ラミア国の貴族に詳しくないから気にした事がなかったけど、知り合ってから2年と少し経つのに知らない事が多いわね。


「そんなんじゃない」


そう言って目を逸らす副所長の耳は赤く染まっていた。


 恥ずかしがっているらしい副所長は、ここに来るまでの間、熱心に馬車から外を見ていると思っていたけど、初めての海外を楽しんでいたらしい。



「意外ですね。外国に行った事がないのは何か理由があるんですか?」


「僕にも色々と事情があるんだ」 


 理由を聞くとさっきまでの恥ずかしがっていた姿が嘘の様に、濁された返答と冷たい表情で逸らされた視線に、私は副所長との壁を感じる。


 魔塔の同僚と話す事がない副所長が、私と外国のカフェで食事をしている事に気が緩んでしまったのかもしれない。


 あまり自分の事を話したがらない副所長に個人的な事を聞いてしまうなんて……



 話し声が聞こえる店内で、私と副所長の席は沈黙が続いた。


 私はこの空気を打破するために口を開く。



「そうだわ!外国が始めての副所長の為に、私が案内をして差し上げます」


 そう言ってフフッと笑うと、副所長は不思議そうに見てくる。


「シャーロットが?」


「はい、私が。確かに、本にはシェルロン国の有名な場所が載っています。でも、何処にでも現地の人しか知らない、"穴場"というのがあるんですよ」


 そう言って胸を張ると、副所長は小さく笑みをこぼす。

 


「それは楽しみだな」



 そう言って笑う副所長の笑顔を見て、私はホッと息を吐いて「楽しみにしていてくださいね」と笑った。

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