第9話 デート?いいえ、仕事です。
「副所長。本当にこれが仕事なんですか?」
隣でショーケースを見ている副所長に小声で聞く。
「どこからどう見ても仕事だろう」
そう言った副所長は店員に何がおすすめか聞いている。
副所長が家に来た翌日、副所長に仕事だと街に連れ出された私は、副所長と本に載っていたパティスリーに来ていた。
「お土産にはこれが人気らしい。君の友人へのお土産もこれでいいか?」
「はい。本にもそれが載っていたので、それで大丈夫です」
「では、これを3つ頼む」
「かしこまりました。当店はカフェも併設しており、カフェ限定のメニューもありますが如何なされますか?」
「カフェもあるらしいが、シャーロットはどうしたい?」
どうするか聞いてくる副所長に私は戸惑う。
副所長と買い物をしているのでさえこれが仕事なのか戸惑っているのに、カフェで食事なんてただの遊びじゃない。
断ろうと口を開こうとすると、店員がタイミングよく「予約制なのでいつもは満席でご案内出来ないのですが、予約キャンセルが出たので直ぐにご案内出来ますよ」と話す。
店員の言葉を聞いた私はピタッと動きを止める。
予約制…今なら…仕事……
副所長は揺れ動く私の心を察したように意地悪な目で私を見つめている。
考えを巡らし、仕事と遊びの狭間で揺れる私は決心する。
「食べましょう……」
「ん?」
私の言葉が聞こえたはずなのに、副所長は聞き返してくる。
「限定メニューを、食べましょう……」
グッと手を握りながら話す私の言葉を聞いた副所長は、笑いながら「席を頼む」と店員に声を掛けた。
店員の「かしこまりました。こちらへどうぞ」という爽やかな声に導かれながら。カフェスペースへと足を進める。
案内された席で運ばれてくる限定メニューに目を輝かせていると、副所長が周りを見渡す。
「どうされましたか?」
副所長に倣うように周りを見る。
「ここにはないと思ってな」
副所長の言葉に私は緩んでいた顔と、背筋を伸ばす。
そうだ、スイーツを前に気が緩んでいたけど、今は仕事中だ。
私と副所長は現在、シェルロン国でラミア国製の魔法道具が違法改造され裏ルートで売買されているという情報があり、その捜査の最中だ。
ここに来るまでも、違法魔法道具がないか目を光らせていたけど、天才魔法使いである副所長がいるのに私が必要なのか疑問に思ってしまう。
「副所長…私がいる意味はありますか?」
「どういう意味だ?」
周りを見ていた目を私に向けた副所長は、怪訝そう聞いてくる。
「魔力の流れに敏感な副所長がいれば、私は必要ないと思うのですが」
「確かに、魔力の流れを読むなら僕だけで十分だ」
そうだ、副所長は1人で数々の業績をたててきた。私が必要なはずがない。
副所長の正直な言葉に私は視線を落とす。
「だけど、僕にはシャーロットが必要だ」
パッと顔を上げると、副所長が真っ直ぐな目で私を見ている。
「副所長…」
副所長の言葉に感動していると、次の言葉に私は驚く事になる。
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