第11話 二人の距離

 カフェを出た副所長私は馬車に乗り、マーティン様に会う為に移動している。


 カフェを出る時にどちらが支払うか、お土産を受け取れなどと一悶着があった。


 マーティン様への手土産だけではなく、私とデイジーへのお土産も貰ってしまったけど、今の私にはそんな事は気にしていられないぐらい緊張していた。


 ずっと憧れていた、尊敬していた方にお会い出来るんなんて…


 変な所はないかしら。控えめながら上品な服装にメイク、鞄の中にはマーティン様の本も持ってきている。


 手鏡で自分の顔や髪型を見て、変な所がないかを確認する。


 色々な角度から確認していると、ジーと私の事を見つめている副所長と目が合う。



「変な所はないでしょうか?」


「変な所はないが……」



 副所長の視線に耐えきれず聞いてみると、副所長は身体を前に傾け腕をスッと上げる。


  

 副所長の顔が近づいたのと、腕が伸びてきたのに驚いて私は固まってしまう。


 手のひらで私の頬を包み込んだかと思うと、親指で目の下をなぞると「よし」と満足そうに言うと腕を下ろした。



 えっ?今のは何?私は副所長に頬を撫でられたの?


 副所長がこんなに近くに来る事なんて今までなかったから、驚いてしまう。



 固まる私に副所長は「まつ毛が付いていたから取っただけだ」と手を払う。


 何でもない様に言う副所長に頬を撫でられと勘違いした私は頬が熱くなってしまう。



 そうよね…副所長がそんな事する筈ないもの。


「どうかしたか?」



 私の気持ちを知らず、「顔が赤いけど」と聞いてくる副所長に、恥ずかしさを誤魔化す様に私は笑顔で答える。



「何もありません。ありがとうございます」


 シャーロット。落ち着くのよ。

 ただまつ毛を取ってもらっただけ、それ以上でもそれ以下でもない……


 副所長はこんな事するタイプではないから、頬を撫でられたと勘違いするのも当たり前だわ。


 それに、副所長は顔が綺麗すぎるから、驚くのは当然よ!


 私は胸に手を当て、副所長に気付かれないように深呼吸をする。



「そうか?それならいいが」


 

 そんな私を見た副所長は何故か満足そうに笑っていた。

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