15 アーティファクトだそうです
シュワルツロボに捕まり、捕獲された状態にある俺。
「カシュナンシュさんですか、よろしくお願いしますね」
そんな俺の事など視界に一欠けらも収めることなく、ミーシャは巨大ロボに乗るカシュナンシュさんと、にこやかに話している。
兄であっても、男に対する時は無表情なのに、どこからその笑顔が出てきた!?
100年以上兄妹やってて、そんな顔初めて見たぞ!
あの後互いに名乗り合って、巨大ロボに乗る女性パイロットの名前を、カシュナンシュと知った。
男の方は、まだ自己紹介してもらってないので知らない。
とはいえ、カシュナンシュさんは巨大ロボに乗っているので、声だけで本人の姿は見えない。
『カシューでいいわよ、ミーシャ』
「では、カシューちゃんって呼びますね」
『さすがにちゃん付けは、やめて欲しいな。
もうそんな年じゃないもの』
「じゃあ、親愛を込めてカシューってお呼びしますね」
『ええ』
俺に対する時とは、完全な別人になっているミーシャ。
「ウフフ、まだ姿を見てないけど、可愛い声をしてるわね」
なお、小声で呟いた声は、カシューには聞こえてないだろうが、黒のハイエルフである俺には、しっかりと聞こえた。
無駄に身体能力の高い体なので、聴力もばっちりだ。
カシューの視線があるだろうから、舌なめずりはしていないが、ミーシャは一体何をするつもりだ!?
知りたくもねぇー。
『カシュー、そろそろ行くぞ』
なんてところで、ミノタウロスの素材をはぎ取っていた、もう1体の巨大ロボから、男の声がする。
『そうね。
ミーシャに、ヴァンフィールドくんだっけ?』
「ヴァンでいいです」
『じゃあ、ヴァン。
この辺りは
ついて来てちょうだい』
「分かりました」
ということで、俺とミーシャ。
それにロボと多脚戦車一行が、移動を開始する。
なお、解体されたミノタウロスの体だが、その一部を巨大ロボが担いで運んでいく。
ああっ、グロテスクな光景だ。
血がドロドロと垂れている。
ヒエーッ。
「ボス、敵だ」
なんてところで、シュワルツロボがゴブリンを発見する。
森にいる間は、散開したシュワルツロボが周囲を警戒していたが、現在の俺たちは1か所に集まっている。
そのせいで、発見が遅れたようだ。
ゴブリンの数は20体以上。
「迎撃する」
「「「僕たちもやるぞー」」」
「「「バリバリバリーッ」」」
シュワルツロボがレーザーライフルを放ち、さらにシンクたちが2本のアームからレーザーバルカンを連射する。
ライフルはともかく、バルカンはあまりばら撒きすぎないように。
ただのゴブリン20体に、オーバー
あ、ヤバイ。
レーザーで、体中が穴だらけにされていくゴブリンたち。
そしてレーザーで首を吹き飛ばされたゴブリンがいて、首から上の頭が、血をまき散らしながら空中を飛んで行く。
こういう時、無駄に能力の高すぎる黒のハイエルフの体が憎い。
動いている様子がスローモーションで見え、必要以上にゴブリンの姿が良く見える。
自分の命を奪われた無念さを醜悪な顔に浮かべる様子が、つぶさに見て取れる。
「ウ、ウゲェーッ」
「いい加減に慣れなさいよ」
気持ち悪い。
ミーシャは何とも感じないようだが、俺にこういうグロは無理だ。
なお、ゴブリンの殲滅自体は、発見からほんの数秒で終了した。
レーザーの火力を前に、武器も持たないゴブリンなどただの的にしかならない。
特にレーザーバルカンが強力過ぎる。
ゴブリンの体が、穴だらけ……
俺が作ったロボと多脚戦車たちだが、君たち怖すぎるよ!
「殲滅完了!」
マスターの俺は気分最悪だけど、シンクの1体がアームを空に掲げ、どや顔ポーズを取る。
ただし、シンクには顔がついていないので、どや顔はできない。
『なに、今の攻撃?
レーザー光線?
それもアーティファクトよね!?』
この殲滅劇を見ていたカシューは、ひどく驚いたようだ。
ただし驚くのは、ゴブリンを瞬殺したことでなく、使った武器の方。
さっきからアーティファクト、アーティファクトとやたら連呼しているが、アーティファクトって何のことだ?
単語としてのアーティファクトは、古代の遺産とか、そういう意味だと分かる。
もしかして天空大地と違って、地上ではレーザーや多脚戦車は、アーティファクト扱いされているのだろうか?
古代に失われてしまった、文明の遺物みたいな扱いなのか?
「よく分からんな」
地上に降りてきて、まだ1週間。
しかも、兄妹以外の人に会うのはこれが始めてだ。
俺たち兄妹は、地上の事に関して、ほとんど無知だ。
とはいえ、カシューの驚きがありつつも、移動を始める。
『あっちの不愛想なのは、アスベルって言うの。
別に名前を覚えなくてもいいわよ』
「なるほど、分かりましたカシュー」
移動を始めると、その間手持無沙汰な女性たちが、賑やかに会話を始める。
「アスベルさん、いいんですか、こんな扱いされてて?」
『……いつもの事だ』
「そ、そうですか」
そして男の俺たちも、こんな会話を交わす。
しかし、名前を覚えなくていいって、ただのモブ扱いされてないか?
怒った方がいいと思うぞ。
もしかして、アスベルさんは、
俺と同じで、
『それと、さん付けはしなくていい』
「分かった、じゃあアスベルって呼ぶよ」
『ああっ』
「……」
『……』
か、会話が続かねぇー。
この人、カシューが言った通り、マジで不愛想だ。
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