14 地上人と初遭遇
「……あー、あー、マイクのテスト、テスト中
夫婦喧嘩のところ申し訳ないですが、聞こえてますかー?
聞こえていたら返事をしてください。
もしもーし?」
巨大ロボットのパイロットが、無線でやり取りしているのに気づいて、俺はその回線に割り込んだ。
暗号化も何もされていない無線通信なので、回線に割り込むのは簡単。
腕の端末を操作して、無線の周波数を合わせるだけでいい。
『『……』』
「あれ、おかしいな。繋がってないのかな?」
技術的には問題ないはずだが、何か間違えたか?
『『夫婦じゃない!』』
なんて思っていたら、ちゃんと返事が返ってきた。
「お、よかった。ちゃんとつながってた。
静かだったから、聞こえてないのかと思ったや。
それにしても息がぴったりですね」
『ピッタリじゃないわよ!
それより、無線に割り込んで、あなた一体誰なの?』
夫婦喧嘩を聞かれた恥ずかしさもあるのか、声に怒気が含まれている。
なお、話してくるのは女性の声だ。
ああ、50年前に爺さんが死んでからというもの、天空大地ではミーシャと2人だけの生活だった。
女性だった母さんなんて、ミーシャが生まれる前に死んでしまったよ。
100年以上も前のことだ。
俺たち黒のハイエルフの場合、母親の子宮でなく、機械的に作られた人工子宮から生まれてくる。
もともと人工生命の上に、生殖能力がゼロではないが恐ろしく低いため、人工子宮でないと生まれることができないのだ。
おかげで母さんが死んでも、生まれる前のミーシャが一緒に死ぬことはなかった。
でも、自分が生まれる前に死んでしまった母さんのことを、ミーシャは知らない。
写真や動画は残っているものの、直接肌と肌が触れ合ったことがない。
前世があるとはいえ、今世のミーシャは、母親のことを知らないわけだ。
そのせいか、ミーシャの性格はヒドイ。
兄である俺を、全然立ててくれない。
労わりの心もゼロだ。
常に上から目線で、俺を見下してくる。
そんな性格の悪いミーシャとは違う、女性の声だ。
俺、100年ぶりにミーシャ以外の女性の声が聞けて、テンション上がっちゃう。
「俺は……フゴッ!」
悲報、俺が余計なことを考えたのがバレたのか、ミーシャに横から襲われた。
100年以上兄妹やってるせいで、たまに話さなくても、相手の考えが分かる時がある。
「私は、ミーシャ・クラインベルク。
さっき話していた、バカの事は忘れてくれて構わない」
『……』
「すまないが、現在我々は道に迷っている。
可能であれば、近くの人里まで案内してもらえると助かる」
『つまり、迷子って事かしら?』
「……その言われ方は心外だ。道に迷っているだけだ」
『やっぱり迷子じゃない』
「……そうだ」
認めたくなさそうにしているけど、迷子だと認めるミーシャ。
『それにしても、随分幼い声に聞こえるけど、あなた何歳?』
態度は偉そうにしていても、ミーシャは見た目幼女で、声も幼く聞こえる。
「ムッ、女性の年齢を聞いてくるのか」
『いいじゃない、私も女だから気にしなくていいわよ』
「……ダメだ。バカ兄と、そっちにも男がいるだろう。
無線越しに聞こえてしまう」
『あら、残念。
でも、さっきの声の人はお兄さんなのね』
「大変不本意だが、血縁的にはそうなる」
『まあ、そうなの。クスクス』
そこでなぜか、面白そうに笑う女性。
『仲が良さそうね』
「それはありえない」
「横暴な妹にいつも困って……ヒギィッ!」
復活しかけた俺だけど、またしてもミーシャに強制的に黙らされてしまった。
『アハハハハッ、いいわよ。近くの村まで案内してあげるわ』
俺たちのやり取りをコントとでも受け取ったのか、通信から聞こえる女性の声は愉快そうだ。
俺たちはコメディアンではないのだが。
まあ、これで道案内してもらえることになった。
結果オーライだ。
という訳で、森から出て2体の巨大人型ロボット――巨大棺桶ロボットの方が、見た目的に合ってるかも――の前に、姿を見せる俺たち。
ただし、俺とミーシャ以外に、シュワルツロボが10体に、シンクが6体。
さらにメイドロボ3体と料理長も続く。
なお、No13とレディー6は姿を見せない。
彼らは人に姿を見せないことを信条とするスナイパーと、その相棒だ。
光学迷彩機能を搭載しているので、身を隠すものがない場所でも、俺たちの後をこっそりついてくることができる。
「えーと、初めまして。ヴァンフィールド・クラインベルクです」
「ミーシャ・クラインベルクだ」
巨大ロボの前で、とりあえず自己紹介をする俺とミーシャ。
「後ろの連中は、ただの護衛なので気にしないでください」
俺とミーシャだけなら、見た目がただの子供に見える。
相手に警戒されることはないだろう。
だが、シュワルツロボと料理長は、威圧感のある巨漢だ。
特にシュワルツロボは、全員レーザーライフルで武装しているので、山賊か何かに間違えられないよう、護衛だと事前申告しておく。
「コンニチワー、僕たちシンク」
「「「よろしくねー」」」
そしてシンクたちは、腕代わりのアームをフリフリして、巨大ロボットに挨拶する。
声は呑気だけど、装備している武装的にはシュワルツロボより、シンクの方が危険だったりする。
『エルフ……それに
えっ、えええーっ!!!???』
なお、俺たち一行の姿を見た途端、巨大ロボに乗る女性の悲鳴が響き渡った。
「おっ、拡声器がついてるのか」
驚く女性の悲鳴はさておき、俺は巨大ロボに拡声器が付いていることの方が気になった。
拡声器自体は珍しくもなんともないが、拡声器を巨大ロボに付けるんだなー。
「ハー、フーン、ホー」
ついでに巨大ロボの構造も気になるので、近づいて下から見上げて観察する。
「ふむふむ、随分質の悪い装甲板だな……どれだけ安ものなんだ?
これって爪で引っ掻いても、剥げるくらい脆くないか」
人の持ち物なので引っ掻くのはやめておくが、よくこんな代物でミノタウロスと戦ったもんだ。
そして、腕に付けている携帯端末を介して、巨大ロボの
「なるほど、機体に使っているのは、ミノタウロスの人工筋肉を加工したものか。
……かなり老朽化して、くたびれてないか?」
スキャンして分かったが、この巨大ロボはお古だ。
表面が安物の装甲の上に、内部もかなりくたびれている。
内部にある人工筋肉によって稼働しているようだが、その筋肉も老朽化のせいで、いつ切れて使えなくなるか分かったものじゃない。
そうとう使い込まれてる機体だ。
ただのボロだな。
俺たちの住んでいた、天空大地ほどではないけど。
『……お前、何してるんだ?』
「ちょっと気になったので、色々調べてみたいなーと」
俺の行動が不審がられてしまったのか、巨大ロボのパイロットの声が、拡声器からする。
今度は、男の方のパイロットだ。
まあ、それはそれとして、せっかく異世界転生してから、初めて出会った巨大ロボだ。
というか本物の巨大ロボなんて、前世も込みで、初めて遭遇だ。
始めて出会った記念に、四角い足に抱きついて、頬ずりしてスリスリと感動の出会いを祝し……
「ギャンッ!」
「兄さん、私は慣れてますけど、人前で奇行を見せびらかさないでくださいね。
捻りますよ?」
感動の出会いなのに、ミーシャにストップをかけられた。
「も、もうぶたれてるんだけど……」
「さらに捻られたいですか?」
「……」
俺は首を全力で左右に振って、捻られたくないとアピールする。
ちょっとばかし周囲の視線を無視して、欲望全開で動いてしまったが、妹には勝てない。
パワーでも、眼力でも、まったく適わないのだ。
「結構、それじゃあ離れた場所にいましょうね。
シュワルツ、連行なさい」
「イエス、クイーン!」
「え、ちょっと、どうしてこうなるー!」
俺は巨大なシュワルツロボ(全長2メートル程度)に両腕を掴まれ、その場から引きずられていく。
「ああ、せっかくの巨大ロボがー!」
俺の前から、みるみる遠ざけられていく巨大ロボ。
俺がシュワルツたちのマスターなのに、君たちミーシャの命令に忠実すぎだろ。
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