12 巨大ロボVSミノタウロス

 森林地帯を移動して、はや1週間。


 天空大地から持ち出した装備の中に、腕に装着するタイプの携帯端末がある。


 多機能端末で、機能的にはスマホの上位互換と思えばいい。

 あるいは、超小型化したパソコンでもいいか。


 これを介して衛星からのGPS情報を所得できる。

 ここに監視衛星からの映像情報を重ね合わせれば、カーナビの完成だ。


 この情報を元にして、森の外へ向かっていく。


 ――ガコン、ガンッ


「フゲッ」


 ただし、移動に使っているシンクが派手に揺れるので、カーナビを見続けるのはやめておいた方がいい。

 ただでさえ酔いやすい環境を、さらに強化してしまう。


 それと舌も噛まないよう、注意が必須。



ボスマスター、異変を感知した』


 そんな中、いよいよ森を出られるというところで、先行させていたシュワルツロボから無線通信が入った。


 なお、ボスとは製作者である俺の事。

 シンクたちは俺の事をマスターと呼ぶが、見た目が厳ついシュワルツロボからは、ボスと呼んでもらった方が格好がつく。


 単なる、俺の拘りだ。



「前衛以外のシュワルツロボは現場で待機、周辺の警戒に当たれ。

 シンクたちも全方位警戒」


 通信を受けて、真っ先に指示を出すのはミーシャ。

 前世が特務の軍人だからか、対応が素早い。


『『『了解した、クイーン』』』

「「「了解ラジャーですっ!」」」


 彼女の命令に、シュワルツロボとシンクたちが従う。



 周辺の事は彼らに任せ、俺は先行させたシュワルツロボが現在見ている視覚情報を無線で確認する。


「……携帯端末の画面じゃ、小さくてよく分からん」


 小型のモニターでは、何が映っているのか判別できなかった。



 しかし、ご安心召されよ。

 我ら黒のハイエルフは、人工生命体。


 見た目は、耳が尖っている以外は普通の人間にしか見えないが、この体は黄金の魔眼によって一から設計されている。


 体の筋肉は人工筋肉であり、骨格には強化骨格が採用されているので、非常に頑丈。

 そしてシュワルツロボのボディーを破壊できるパワーも出せる。


 具体的には、天空大地にいた頃、シュワルツロボの戦闘データを取るために、ミーシャと格闘戦をしてもらったことがある。


 その時ミーシャの放った周り蹴りで、シュワルツロボの腕が折れた。


 金属で出来た腕を生身でへし折る、ミーシャのヤバさに冷や汗をかかされた。

 おまけにジャンプした後の踵落としで、シュワルツロボの頭部が凹んだ。


 黒のハイエルフのスペックがあれば、戦闘用ロボとも肉弾戦ができる。

 なお、あくまでもスペック上の話で、俺にミーシャのような戦闘能力はない。


 回転蹴りを真似ようとしたら、その場で足をもつれさせてこけた。


「兄さんに首から下はいらないですね」


 なんて、ミーシャにバカにされたよ。



 ……むろん、強化されているのは身体能力だけではない。

 生まれる前の受精卵の段階から、ナノマシーン処理が体内に施されていて、脳や神経系の一部がナノマシーンネットワークによる電子処理機能を有している。


 これによって、人間では処理不可能な量の情報を処理することができ、反射神経なども超強化されている。


 電子ネットワーク化された神経系は、人間としての機能を持ちつつも、同時に機械としての能力も併せ持つ。

 機械からの情報を直接脳に受け取ること、逆に機械に対して直接操作をすることができる。



 機械と直接やり取りする能力技術を”神経接続”と呼ぶが、今回はこの機能を使う。



 俺は”神経接続”の機能を使って、先行したシュワルツロボから携帯端末に向けて送られている映像情報を、直接見る。

 視界が切りかわり、シュワルツロボの視界が見えるようになる。




 さて、シュワルツロボが見ている景色だが、そこには巨大な生き物がいた。


 2本の足で地面に立つ、白い肌をした巨大な生き物。

 森の外周ということで木々がまばらになっているが、そこに茂っている木とあまり変わらない身長。

 5から6メートルは、あるだろう。


 2本の足に、2本の腕を持ち、人の形をしている。

 ただし巨大な人間というわけでなく、分厚い外皮を持ち、目は赤い。


 どことなく、巨大人型ロボを連想させるが、胸の部分がわずかに収縮を繰り返しているので、呼吸をしているのが分かる。


 つまり、機械でなく生物だ。



 俺はこいつを知っている。


 実物を見るのは初めてだが、天空大地で見た資料では、ミノタウロスと呼ばれていた。

 一万年以上前に黄金の魔眼が作り出した生体兵器のひとつで、ゴブリンなどとは桁違いの大きさとパワーを持つ怪物。


 外皮は、ライフル弾程度ならば簡単に弾いてしまう強度があり、人間が戦える相手ではない。


 そして両腕から繰り出す強力なアームパンチ1発で、人間の都市の城壁を破壊できる。

 戦車だって、パンチひとつで潰すことができる。


 もっとも、名前はミノタウロスとあるものの、牛頭人身ではない。

 頭に角は生えてないし、全然牛っぽい見た目をしていない。


 体も人間というよりは、毛のないゴリラといった感じ?

 いや、そんな表現をするとゴリラにも失礼か。


 全体的に、角ばった印象を受ける、巨大生物兵器だ。



「スゲェー、資料で見るのと実物を見るのじゃ、全然受ける印象が違うな」


 存在は知っていたが、初めて見る巨大生物兵器に、思わず興奮してしまう。



 生物というより巨大ロボぽい見た目なので、ロマンを感じる。

 機械でなく、ナマモノだけど。




 そんな巨大なミノタウロスだが、なんと戦闘中だった。


 ミノタウロスは2体いたが、その前には2体の巨大人型ロボがいる。


 ミノタウロスよりは小型で、高さは4メートルといったところ。

 ミノタウロス以上に角ばったボディーをしていて、四角いパーツの集合体と言った感じ。

 頭が四角い、胴体も四角い、上腕と下腕部分は長方形の四角。


 それぞれの四角いパーツの接合部分は、可動域が取られているようで、動きは人間に近いものを感じる。


 でも、全体的に出来の悪いブリキのロボット玩具といった印象を受けてしまう。

 でなければ、縦に動く棺桶か?


 迷彩色は灰色だが、黒にすれば動く棺桶ロボになってしまう。

 人型というより、動く巨大棺桶ロボと言った方がしっくりくる。


「ダサい」


 ミノタウロスの方が、巨大ロボとしてのロマンを感じてしまう。



 俺の感想はともかく、シュワルツロボを介した視界の中で、戦闘が行われる。


 巨大ロボットの1体が、ライフル――サイズ的には戦車砲と呼んだ方がいい――を構えて、ミノタウロスに向かって発射。


 それがミノタウロスの頭に命中。

 弾種はレーザーでなく、実体弾だ。


 攻撃を受けたミノタウロスは、悲鳴も雄叫びも上げることなく、巨大な体を傾かせて地面へ倒れる。


 無念、ミノタウロスが弱すぎる。


 ただし残るもう1体のミノタウロスが、反撃に出た。



 ミノタウロスの胸から、2発の生体ミサイルが発射される。


 ミノタウロスは生体兵器であり、その胸には生体ミサイルが装備されている。


「生き物なのに、なぜミサイルが!」と叫びたくなるところだが、奴らは生体兵器なのでミサイルを装備しているのだ。


 天空大地の資料に、そう書いてあったのだから仕方ない。



 だが、ここはあえて生体ミサイルと呼ばない。


「オッパイミサイルだ!」


 胸から飛び出すミサイルなんて、それ以外の何と呼べばいいんだ。


 ――ギロッ


 本能で思わず叫んだけど、近くにいるミーシャから殺気が放たれる。


 男にとってはロマンでも、女から見れば殺意の対象でしかないらしい。

 特に、まっ平らのミーシャにとっては。


「……」


 こ、怖くなんてねぇー。

 こ、怖くなんて……


 俺、あとで ボコられないよな?



 我が身の危険を感じる中、俺は現実逃避も込みで、戦闘の様子を集中して見ることにした。




 さて、放たれたオ……生体ミサイルだが、ライフルを持つロボットは、慌ててその場から飛びのいて回避。

 逆にもう1体のロボは、飛んでくるミサイルに向かって直進する。


 近接用の武器だろう。

 ソリのある剣――刀――を振るうと、飛んでくる生体ミサイルを真っ二つに切り飛ばした。


 切り飛ばされたミサイルは、内部にある緑色の液体をばら撒きながら、地面へ落ちていく。


 生体ミサイルは爆薬を搭載していないので、爆発することはない。


 ただし、地面にばら撒かれた緑色の液体が煙を上げ、周囲の物質を焦がしていく。


 緑色の液体の正体は強酸で、人間が浴びれば一瞬で体を溶かされてしまう劇物だ。



 そんな劇物の飛沫が、カタナを振るったロボの装甲にも微量だがかかり、装甲が所々白い煙を上げる。

 とはいえ、問題になるダメージではないのだろう。


 カタナロボは、そのまま前進を続け、ミノタウロスに急接近。


 その場で迎え撃つミノタウロスは、巨大な腕を構えアームパンチを放った。


 それをわずかに姿勢を低くするだけで、避けるカタナロボ。

 最小限の無駄のない動作で、ミノタウロスの攻撃を回避した。


 そのまま振り抜け様に、ミノタウロスの胴体を刀で切り飛ばす。


 巨大なミノタウロスの胴体が左から右に切られ、上半身と下半身に分かれたミノタウロスの体が、上下バラバラになって地面へ崩れ落ちていく。



「スゲェー」


 見た目は巨大棺桶ロボだが、今の動きを見て、思わず惚れ惚れとしてしまった。



 俺、巨大ロボットより、巨大戦艦にロマンを感じるタイプだけど、宗旨替えして巨大ロボットファンになろうかな?

 実物をみせられたせいで、思わずそう思ってしまった。




 ところでカタナロボだが、最初にライフルで戦闘不能になったミノタウロスの方に行って、首をカタナで切り飛ばした。


 どうやら、頭に打ち込んだライフル弾だけでは、死んだと思ってないようだ。

 頭をライフル弾で強打され、気絶していると考えたのだろう。


 実際、戦車砲サイズのライフルの一撃を受けたのに、ミノタウロスの頭は吹き飛ぶことなく残っている。


 とはいえ首を斬り落とせば、巨大なミノタウロスとて確実に死ぬ。



「用心深い。もしくは、戦い慣れているな」


 そんなカタナロボを評価するのは、ミーシャだ。


 俺には軍事も争いごとも分からないので、元軍人のミーシャの意見が正しいのだろう。



 やがて戦闘を終えた、カタナとライフルを持った2体の巨大ロボは、互いにハイタッチして、ミノタウロスを倒したことを祝った。

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