10 万能ロボット軍団

 あれから1週間近くにわたって、森の移動を続けている。


 移動手段としては、多脚戦車のシンクたちがいるので困らない。


 食事に関しては、俺たちが天空大地から逃げ出す前に確保した食料がある。


 さらに森の中には、魔物でない、通常の野生動物もいた。

 イノシシや、森林オオカミ、ほかには鳥など。


 それらの動物に気づかれることなく、No13が長距離からスナイパーライフルで狙撃して仕留める。


 No13は俺たちから離れた遠距離から護衛していて、普段の移動ではその姿に気づくことができない。


 人前に姿を見せたスナイパーなど、スナイパーじゃないという信念に従って、彼は俺たちに見つかることなく、森の中をひっそりと付いてきている。


 ただ、食べれる獲物をしとめれば、それを持って姿を見せる。


 厳つい顔をした伝説的な暗殺者スナイパーというコンセプトで俺が作ったロボだが、現在はただの猟師のおじさん状態。



「自前の食料を減らさずに済むので助かりますね」


 獲物を目にするミーシャは、No13の成果に満足気味。


 もちろん俺は、眉間に穴の開いた動物獲物の姿を直視できない。


「貧弱メンタル」


「し、仕方ないだろー」


 ミーシャに相変わらずな扱いをされるが、慣れないのだから仕方ない。



 そして得られた獲物は、料理長ロボによって解体されていく。


 さすがは料理長。

 見事な手さばきで獲物を解体していき、各部位へ分解していく。


 ……たぶん。



 だって、直視できないんだよ。

 動物を解体しているグロ光景なんて、見たくない。


「ほうっ、そうやって解体するのですか。

 血で汚れそうなので、私は絶対にしたくないですね」


 そんな俺と違い、ミーシャは興味津々で動物が解体されていく光景を見学していた。


 自分で、やる気はゼロみたいだが。



 とはいえ、俺でも部位ごとに分けられた後の肉なら、問題なく見れる。


「おお、凄いっ」


 ブロック状に切り分けられた肉で、これなら俺も大丈夫。

 このブロックをスライスしていけば、前世のスーパーでよく見た、肉売り場の肉と同じ形になる。


「煮込んだスープにするので、しばらく待っていてください」


 そんなブロック肉を鍋で煮込み、スープを作り始める料理長ロボ。


 森の中で採集した幾種類かのハーブを加え、コトコトと煮込んでいく。


「あれっ、鍋なんて持ち出したっけ?」


「フッ、料理人たるもの、いついかなる時でも料理道具は持ち歩いてますよ」


「カッコイイ」


 鍋を持ち出していたとは、なんてできる料理人。

 料理長がダンディーに笑えば、その姿に見惚れてしまう。


 そして完成した料理は、メイドロボたちが甲斐甲斐しく世話してくれ、俺とミーシャの前に饗される。



 絶賛森の中で迷子中なのに、饗するという言葉を使わずにはいられないほど、メイドロボが場所を整え、銀のスプーンに真っ白な陶器の食器まで出してきた。


「ええっ、こんなもの一体どこから!?」


「メイドたるもの、ご主人様マスターたちの身の回りの品を、いついかなる時でも用意できていなければなりません」


 メイドロボ3体は、キリッとした表情で言った。


「ウフフ、流石ですね。

 兄さんのことは全く評価できませんが、この子たちは可愛くて完璧なメイドですね」


 男の存在価値を認めないミーシャだが、可愛い女の子メイドたちに、だらしなくにやけた顔を向ける。


「クイーン、お顔が」


「あら、いけない」


 メイドロボに指摘され、だらしない顔をなおすミーシャ。


 クイーンと呼ばれているのは、もちろんミーシャの事だ。

 自称天空女王なので、クイーンとメイドロボたちに呼ばせている。


 しかし、俺とメイドロボへの態度が、全然違うんですけど。


 ま、いいや。

 これがミーシャだから。



「いただきます」


 さて、料理は暖かいうちに。

 俺は料理長が作ってくれたスープを食べることにした。


「うまいっ」


「相変わらず見事な腕前ですね、料理長。

 ああ、料理長が女の子型ならば完璧なのに」


「……」


 くどいようだが、これがミーシャだ。



「お褒めに預かり光栄です」


 一方、自分の作った料理を褒められた料理長は、恭しくお辞儀した。


 できる料理人、それが料理長ロボだ。




 そして食後に夜の就寝となれば、ここでも活躍してくれるメイドロボたち。


 森の木と木の間に布地を張り巡らせ、天幕としか呼べない居住空間をあっという間に作り出してしまう。

 その中にベッドはないものの、木の間にハンモックを吊るし、俺たちの寝床を用意してくれる。


 地面の上で直に寝るのに比べれば、まさに天国。

 ハンモックが、俺たちの熟睡を約束してくれる。


「こいつら、どれだけ用意周到なんだよ?」


 作ったのは俺だが、メイドロボたちの能力にビックリだ。

 自己学習能力があるので、俺の知らない間に相当な成長をしていたようだ。


「あまりにも出来過ぎたメイドたちに、私の心臓がおかしくなっちゃいそう」


 一方ミーシャは、赤い顔をして心臓を押さえる。


 メイドロボに惚れかけている。


「……」


「兄さん、どうかしましたか?」


「何も言ってないぞー」


 何も言ってないが、本当にこいつは男と女の扱いが、天と地ほどの差があるな。




 この後俺たち兄妹は、ハンモックで朝まで熟睡することができた。


 周囲の安全は、シュワルツ型戦闘ロボたちが、歩哨代わりになって警戒してくれる。

 シンクもいるので、並大抵の生き物ならば返り討ちに出来る。


 周囲の索敵用に、暗視モードや熱源センサーサーモグラフィーを搭載しているので、光の無い状況でも、こいつらは問題なく周囲を警戒できる。


 レーザーを無力化できるドラゴンでも出てこない限り、俺たちの安全は保障されているわけだ。




 しかし思うのだが、過去の俺は一体何を考えて、このロボット集団を作ったのだろう。

 いや、単に自分の前世の記憶から、趣味で作っただけだ。


 なのに、遭難時に超絶便利過ぎて、手放せなくなる有難さだ。


「愛しているぞ、お前たちー」


「キモイッ!」


 心の声が、つい口から出てしまった。

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