8 兄はどんくさくいヘタレ
――ガッタン、ゴットン、ガクン、ガクンッ
結局、シンクに乗って移動し続けることにした。
前回シンクに乗っていられないと判断した俺とミーシャだったが、その考えは甘すぎた。
黒のハイエルフの身体能力は高いので、足場の悪い森林地帯でも素早く動くことができる。
シンクやシュワルツロボみたいに、時速2、30キロ出しながらの移動もできた。
「ふげっ!」
ただし、森の地面は想像以上にぬかるんでいて滑りやすい。
「兄さん、無様ですよ」
泥に足を取られてこけた俺を、ミーシャが呆れた目で見下ろす。
「ううっ、泥だらけになった」
「シッシッ、汚いからこっちに来ない」
おまけに猫を追い払うかのように、扱われてしまう。
泣いてもいいか?
その後も移動を続けたが、森の中では雨水がたまって泥濘になっている場所や、沼地が点在した。
「……兄さん、どうして自分から沼に突っ込むのですか?」
「き、気づかなかったんだよ」
「はあっ、本当に運動音痴でどんくさいですね」
ミーシャから冷ややかな目で見下され、俺は泥だらけのずぶ触れ状態だ。
「「「マスター、大丈夫?」」」
「ううっ、俺の事を心配してくれるのは、お前たちだけだー」
妹に冷たくされる中、シンクたちに優しくされた俺は思わず泣いて抱き着く。
「うわー、機械相手に泣き出すなんて……」
「コラ、シンクはただの機械じゃないぞ。
俺たち人間と同じで、人の心がある機械なんだ!」
「はいはい、分かりました。
だからお願いです、私の方に泥を飛ばさないでください。
汚れます」
妹が冷たすぎる。
「「「マスター落ち込まないでー」」」
「「「元気出して―」」」
「ウワーン、お前たちだけが俺の心の支えだー」
それに比べてシンクたちのこの暖かさ。
金属の体に温もりはないが、実の妹より、シンクたちの優しさに心打たれてしまう。
「キモイ」
……妹からは、汚物を見るような目で見られたが。
しかし、俺があまりにもどんくさすぎるせいで、結局シンクに乗っての移動となった。
休み休み移動すれば、なんとか振動にも耐えられる。
やはりオンボロ天空大地の揺れで相当ならされていたからか、乗っているうちにシンクの激しい揺れも、だんだん気にならなくなってくる。
「確かに、この方が服が汚れなくていいですね」
俺に比べて運動神経が遥かにいいミーシャでも、森を移動すると、どうしても足元の泥や、草木の葉などで汚れてしまう。
彼女も、シンクに乗っての移動となった。
やっぱり、文明の利器は素晴らしい。
この前の考えを撤回だ。
俺の作ったシンクは、可愛くてキュートで、万能な機械だ。
「シンク、世界一愛してるぞ」
「キモイ!」
「何度もキモイって、言うなよ!
お前だって、シンクに乗ってるじゃないか」
「ええ、シンクが便利な道具なのは認めます。
でも、兄さんの言葉がいちいち気持ち悪いんです。
あなたたちも可哀そうですね、あんなのに作られて」
そう言って、シンクのボディーを撫でるミーシャ。
俺をあんなの扱いするな!
「ミーシャちゃん、マスターをあまり悪く言わないで上げて」
「そうだよ、マスターはちょっと変わってるだけだから」
「心が少し歪んでるだけなんだよ」
「いつもミーシャちゃんに冷たくされているから、
「「「だから、優しくしてあげなくちゃ」」」
シンクたちがそれぞれにしゃべるが、なんだか俺の事を見透かしてない?
「……」
俺、
「兄さん、機械からも気遣われるなんて、どれだけヘタレなんですか?」
「俺はヘタレじゃねぇー」
俺の株が下落しっぱなしだよ。
妹からは相も変わらずダメ人間扱いされ、シンクたちには気遣われていただけらしい。
グスンッ。
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