7 ハイエルフ兄妹、森を進む

「「「ぼくらはみんな生きている

 生きているから歌うんだ」」」


 思考多脚戦車のシンクたちの歌声が響く中、俺たちは広大な森の中を移動している。





 あの後、ミーシャに天空大地を修復して、再び空に飛ばすと約束させられる羽目になった。

 それ自体はいい。

 天空大地は俺にとっても故郷だし、ミーシャの狂気も一時的にやり過ごすことができる。


 ロムスカーナ大佐の執念は、一度死んだ程度では治らない不治の病なのだろう。



 ただ、墜落現場にいつまでいても意味がない。

 生きていくための物資を生産できないので、とどまっていれば死ぬことになる。


「それに天空大地を直すための資材も、ここでは手に入らない」


「そうですね。では、まずは人里を探すことから始めましょう。

 死んでしまっては、私が天空女王として復活することができません」


「ソダナー」


 どこまで行っても、ミーシャはミーシャだ。


 この世界のどこかに、高名な除霊師はいないだろうか。

 妹の中にいる、ロムスカーナ大佐を除霊してほしい。


 切に思う。



 ところで天空大地の残骸だが、ここには反重力生成クラウン機関を始めとした貴重品が残っている。

 俺たちが居なくなった後の盗難対策として、天空ロボ12体を残していくことにした。


「いいですか、ここに私たち以外の者が現れれば、容赦なくレーザーで薙ぎ払うのです。

 天空大地を何者にも渡してはなりません」


 天空ロボに、クドクドと命令するミーシャだった。





 この後、俺たちは森の中を移動していく。


 ただし、自分の足で歩く必要はない。


 俺が作った思考多脚戦車のシンクは、不整地走行が可能な上に、1台につき1人分の搭乗スペースがある。

 そんなシンクが6台もあるのだ。


 内部は人ひとりがやっと入れる窮屈なスペースしかないが、戦車のハッチを開けたままにして乗り込めば、窮屈さを感じずに済む。

 下半身は車内に、上半身は森の大自然を満喫だ。



 シンクに俺と妹が乗り込めば、あとは自動で走ってくれる。

 時速20キロから30キロの速度で、森の中を進んでいく。


 思考能力があるので、行きたい方向だけ指示すれば、操縦しなくても自動で進んでくれる。



「「「ラジャーッ」」」


 シンクが2本のアームを器用に使い、敬礼のポーズを取る。


 ああ、文明の利器って最高だ。


 足場の悪い森だが、多脚戦車のシンクならそんなものはお構いなしだ。



 ――ガッタン、ゴットン、ガクン、ガクッ



 不整地走行は可能でも、乗り心地は最悪だった。

 天空大地にいた頃は、ここまで考えて作ってなかった。


「シンク、休憩だ」


「「「はーい」」」


 シンクに乗り込んで、1時間とたたずに休憩となった。



「兄さん、これなら歩いた方がマシです」


「そうだな……」


 シンクは自信作の一つだが、乗用車代わりに使うのはダメだ。


 オンボロ天空大地にいた時は、振動することが多かったので、俺たちの揺れへの耐性は高い。

 でも、シンクの走行時の揺れはそれよりひどい。


 誰だよ、文明の利器最高なんて言ったバカは!?

 もうちょっと乗り心地の事も考えておけよ。


 全部、俺が原因だけどさ!




 そんな俺たちではあるものの、森の中ではいつ何時、野生動物と遭遇するか分からない。

 相手が草食動物ならいいが、肉食動物だと食われる危険がある。


 今も森の中では、「キキキキ」、「チチチチ」と音がして、時折木の葉がガサガサと音を立てる。


 こんな場所にいたら、常に不安を感じて心が休まらない。


 だが、ご安心召されよ。


 俺が作り出したシュワルツ型戦闘ロボ10体が、俺たちの周囲を常時護衛している。


 彼らはレーザーライフルで武装していて、生半可な野生動物などレーザーの一撃で殺傷可能。


 肉弾戦になっても、たかが獣の牙でシュワルツロボにダメージを負わせることは不可能。

 表面のスキンは防御能力を持たないが、内部ボディーは金属で作られているので、噛みついた獣の牙が折れるだけだ。



 そんなシュワルツロボが、2体1組のツーマンセルを組み、前後左右の4つの方向に、合計8体配置されている。

 残りの2体は、俺たちの傍で護衛だ。


 頭上から見れば、ちょうど十字の形になるだろう。

 それぞれの頂点部にシュワルツロボが2体ずついて、中央部に俺たちがいる配置になる。


 彼らは全力で走れば時速80キロは出せるので、シンクの移動速度に合わせての行動が可能。


 中央部にいる俺たちの移動に合わせて、配置を維持したまま移動する。


 なお、この配置はミーシャの提案によるもの。

 前世が特務大佐で、軍人なので、行軍時の警戒しながらの移動隊形となった。



 そんなわけで、危険な生き物に遭遇しても、シュワルツロボが対処してくれるので、俺たちに危険が及ぶ可能性はほとんどない。

 仮に突破されたとしても、多脚戦車のシンクがいるので、防御に関しては万全だ。


 ここに予備戦力として、狙撃に特化したNo13と相棒のレディー6。

 さらに料理長ロボまでいる。


 メイドロボ3体にも戦闘能力があるが、こいつらは一応非戦闘用だ。

 俺たちの命が本当にヤバイ状況でない限り、直接戦うことは絶対にない。


 戦えるってバレたら、俺がミーシャに絞められる。




「これだけの戦力があれば、歩兵大隊が相手でも勝てるのでは?」


「歩兵大隊って、何人いるんだ?」


「300から1000人と言ったところですね。私の前世での話ですが」


「なるほど、メチャクチャ多いな」


 大隊と言われても、俺にはピンとこない。

 それに国や時代、平時か戦時によって、数も違うだろう。


 しかし、多くても1000人か。


「相手の武器にもよるけど、勝てるな」


 少なくとも、相手の武器がライフルなら圧勝できる。

 対物ライフルや対戦車砲が出てくると、流石に無理だと思うが。


「趣味でこのような軍事力を作り出すなんて、兄さんは世界征服でもしたいのですか?」


「そんなのしたくないって。ただの趣味だから」


「……」


 ミーシャが疑う目で見てくる。



 だが、俺にとっては本当に趣味の範囲なのだ。

 前世の記憶にあるロボや多脚戦車を作ったら、結果的にトンデモ戦力になってしまっただけだ。


 そしてミーシャには口が裂けても言えないが、実はここにいる戦力だけで、歩兵大隊どころか、軍事要塞を簡単に溶岩の塊にかえることができる。


 天空ロボに搭載されている120ミリレーザー砲があるのだが、あれは岩の塊を一瞬で溶かし、溶岩にかえることができる。


 それと同じ砲が、この部隊には複数ある。

 なので石造りの要塞程度、簡単に破壊できてしまう。



「兄さん、どうして私から目を逸らすんですか?

 何か隠していますね」


「か、何も隠してないぞー」


「わざとらしい」


 ミーシャには絶対に言えない。


 こいつに言うと、喜々としてこの世界にある軍事要塞を落としに行きそうなので、絶対に自白しないからな!

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